ep.20 転移勢力の衝突2



「履帯破損! 離脱不可能!」



「エンジンが破損し暴走! エンジンを切り離します!」



魔力充填施設に強行偵察をしようと前進していた74式戦車三両は射程外から飛んでくるAPFSDS弾に晒されていた。



「敵は...いたぞ! 北西の山にトーチカを発見! 爆撃します!」



二式複座襲撃機は持ち前の機動性で速やかに急降下し、250kg爆弾を2つ投下。



「トーチカを撃破!...え? 命中していないだと?」



透過された250kg魔導爆弾は着弾まであと40mというところで爆発。


このとき実はトーチカから強力なビームを照射し、中の爆裂魔法を充填した魔法石を破損し爆発させたのだがビームは目で見えないため気づかなかった。



「こちらは鎌倉幕府西方方面軍である! 何者か知らぬが、日の丸を使っている貴官らに警告する! 速やかに降伏せよ! そちらの装備では無駄死にするだけである! 降伏が嫌なら車両をそこに捨てて逃げよ! 従わないのであれば今度は最大出力で砲塔部分を撃ち抜く!」



トーチカの方向から拡声器の音が響く。



「流暢に日本語を喋り、尚且つ日の丸を知っているだと? もしかして奴らは俺達と同じ転移勢力か?」



反逆防止の為74式戦車の2両には日本人(学校に最初からいた人)が乗っている。



「それならまだ話が通じるかもしれませんね。発行信号で返信してみますか?」



「そうだな。内容は...こちらは大日本帝国陸軍である。まずは話し合いがしたい。武器をおいてそちらに言ってもよいか? と」



チカチカチカチカ



「...前世界のモールスそのままだな...やはり彼らも...こちらも発行信号で返信だ!」



チカチカチカチカ



「えー、そちらの提案を了承する。代表者は武器を戦車においてトーチカまで来られたし。と言っています」



「よいしょっと...」



ハッチから出てトボトボと歩いていった。



ーーーーーー


翌日



「九九式双軽単体での飛行は危険だ! 護衛を6機...いや20機ほど用意しろ!」



急遽鎌倉幕府との会談が行われることとなり、飛行場は大慌てであった。


無論、向かうのは実質No.1の参謀長。



「わざわざ九九式双軽を改造した政府専用機なんて作らなくても試作型の隼で行くのに...」



「参謀長の言い分もわからなくもないですが、あなたは軍人としてではなく我が国の代表として行くんですぞ?」



「はぁ...こういうのを全部押し付けるためにカカシを総司令官にしておいたのに...」



若干カリスマ性のありそうな同志を名目上の元首兼総司令官にした参謀長であったが、結局そいつが無能で尻拭いが面倒くさくなり、自分で全部やるはめになってしまっていた。


そんなことを言いながらも、すぐに乗り込み自分で操縦して離陸する。別にパイロットは他にもいるのだが...



数十分後



「やっと着いたk...ハァ!?」



驚くのも無理はない。彼の目の前には月光を真似た夜間戦闘機が並んでいたのだ。これはつまりレーダーを実用化していることを意味する。勿論航空機だけにとどまらず、飛行場にもしっかりと照明があり、夜間飛行に対応していた。



「とんでもない国だなぁ...」



「あ、鎌倉幕府の外交官らしき人が来ましたよ」



護衛の国境警備軍の兵士にそう言われ、姿勢を正す。



「私は大日本帝国外務尚書補佐の武氏義之です。よろしくお願いします」



参謀長とかいう微妙な役職であることを隠す。



「私は鎌倉幕府近衛軍所属、大野健少佐であります。この度はよろしくお願いします。さて、早速ですがまず皆様には我が国の軍事力を実感してもらいます」



せめて軍を見学してもらう、とかオブラートに包めば良いものをあえて軍事力を実感してもらう、と余裕ぶっこいた態度を取る。



「軍事力を実感、ですか。まぁ夜間戦闘機は強いでしょうな」



一応こっちもそんぐらいのはあるんだぞ、とせめてもの抵抗を試みる参謀長。どうやら九九式双軽で高性能機の中にいるのが恥ずかしかったらしい。



「いえ、あれは藩、まぁ他国で言う州軍にあたる部隊の旧式ですよ。正規軍にはジェット機も居ます。まだ試作段階ですが」



「そ、そうですか〜...」



「まずは我が国の首都を紹介するので、こちらの司令部偵察機にお乗りください。約30分ほどで空母に到着します」



(この司偵も優秀だな...うまく振動が消されている。)



30分後



「到着しましたよ、起きてください」



「え? あ、着いたのか」



クッソ、振動もないし防音も完璧なせいで寝ちまった。



「まずは転移してきた部分を紹介します。私達はもともと高専の学生でして、校舎ごと転移してきたおかげで一定の技術力を保持できているのです。例えばあそこに展示してあるF-86Dのレーダーなんかはそっくりそのままコピーしています。ジェットエンジンは素材の影響で発熱が酷いので、戦闘機に使うのは厳しいですが使い捨てのミサイルぐらいには使えます」



「そ、そうですか〜...まぁ魔法があればそんぐらいは作れますよね〜アハハ...」



(まずいまずい...いくら二式複戦とか隼を量産したところでF-86コピーには勝てんぞ...)



「魔法? なんですかそれは?」



「え? いやあの原住民の使う魔法のことですよ」



「そんなものがあるんですか? 我が国はまだ原住民とろくな意思疎通ができず、唯一の交流が戦争ですから知りませんでした...」



「それはそれは...ご苦労さまです。我が国の植民地では魔法という...」



5分後



「そんな便利なものがあるんですか〜ぜひとも使ってみたいですなぁ〜」


(まずいまずい、電力やら金属といった資源に限りのある我々と違い、こいつらは魔法とかいうチートを使ってやがる...長期戦では負けるぞ...)



「貴国との友好関係が築かれれば、ぜひとも供与したいところです」


(まずい、急いで魔法に関する技術流出を規制しなければ! なんで魔法を教えてしまったんだ!)



ーーーーーー


大日本帝国



「すぐに戦車回収車を出せ! 護衛も出し惜しみするな!」



投降したあと、しばらく放置されていた74式戦車を速やかに回収するべく国境警備軍の精鋭が出撃。


なんとしても魔法技術の流出を阻止するべく、万が一邪魔者が出た場合ははどんな手段を使ってでも排除してよい、という命令も出ている。



また、法皇国や満州経由での流出も懸念されるため、多数の国境警備軍が本土より移動。すっからかんの本土の防衛は、一部の国民を徴兵し充てている。



一方、鎌倉幕府でも...



「なんとしても日帝より先に回収するんだ! 急げ!」



両国の精鋭が、たった3両の74式戦車の残骸のために衝突しようとしていた。

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