ep.5 戦乱3

生徒会を粛清した後、戦時にのみ設置される大本営が権力を完全に掌握。


最高司令官には学校防衛委員会の表向きリーダーである荒鬼を据え、自分は総参謀長に任命させた。


他の省庁にも秩序維持委員会のメンバーを据え、権力を確固たるものにしている。


選挙も戦時下であることを理由にまだ一度も実施していない。




敵国に対しての作戦は...


説明するより実際の過程を見てもらったほうが早いだろう。




まず、強行偵察を兼ねて破壊工作を実施。


敵国のマップは我々しか持っていない文明の利器である「望遠鏡」で把握済みであるから、軍事物資がたんまりと入った倉庫をピンポイントで火炎瓶型鉄パイプロケットを使用し焼き払い、加えて指導者らしき人物の邸宅も灰と化した。占領時の混乱を避けるため、不在時をしっかり狙ってな。




これでもまだ敵国が痺れを切らさなかったときの為に火炎瓶型鉄パイプロケットはまだまだあるのだが、今回ばかりは無駄になったようだ。




呆気なく敵が大規模侵攻を開始してきた為だ。




こうなってはこっちのもの。


槍と弓の軍では兵器、戦術共に格上の我々には敵わないであろう。


予め敵が進軍しやすいよう整備しといてやった道の左右から我軍の勇ましいゲリラ攻撃が絶え間なく続く。


小型投石器にタイヤを付け機動性を持たせたものを少数だが投入。漸減邀撃作戦を実施させ、敵の戦力を削いだ。


これだけでも普通なら信じられない損害が出ている筈だが頑なに指揮系統を保ち、届くはずもない矢で面制圧を試みつつ確実に前進している。


意外にも弥生時代の民兵は優秀だったようだ。指揮官を除いてな。




このまま一方的な蹂躙が続くだけかと思いきや、何やら魔法のようなものを使っているのを発見。


最初はただの宗教的なものだと思っていた魔法杖から炎や水が放たれ、投石機が放った石の迎撃をしているようだ。


無論、地上からの射撃がそう簡単に当たるわけもなく、あっけなく潰れていったが...




これは少し作戦を変更せねばならない。


炎に弱いであろう木造のトーチカに配備された部隊を全て引き上げ、その部隊には他のトーチカの消火活動を担わせることにする。




部隊の再編が済んだ頃、治癒魔法と木製の盾で損害を軽減しながら遂に我軍の最終防衛ラインに到達。


だがその力任せな前進もここまでだ。




"敵が最終防衛ラインに到達"というのは一見恥ずかしい文言だが、最終防衛ラインは、漸減邀撃作戦参加部隊や哨戒部隊を除く全軍が配置されている。


つまり主戦場であるから、ここからが本当の戦いの始まりなのだ。




漸減邀撃作戦時は移動を用意にするため軽量化を第一にした投石器であったが、本国のは違う。


本体が半分地面に沈むほどの質量を誇る巨大なカタパルトに加え、弾着時に四方八方に小石をばら撒く本格的な弾頭を開発。


生産に時間がかかるため全てをこれにはできなかったが、通常弾も決して妥協していない。


太めの丸太を数本束ね、先端には無数のトゲがある凶悪な仕様だ。


どっちの命中精度もマスケット銃が可愛く見えてくるほど悲惨な状態だが、敵の陣形を崩すには十分だろう。




実際、戦闘開始...というか投石器の射程に入って一方的な攻撃を開始してから、数十秒で敵は混乱状態であり、まさに総崩れ。


漸減邀撃作戦時は弾頭の補給問題もあり数で圧することができなかったが今回は違う。


総動員したおかげで弾には結構備蓄があるし、それが無くなっても資源がある限りどんどん工場から出てくる。


しかも工場の奴らも段々慣れてきたのか、手際よく高精度なものが出来るようになってきた。




もはや敵の壊滅は時間の問題だが、たまに我軍の要塞ギリギリまで迫る勇敢な敵がいるのだ。


まぁ近づいたところで星型の城壁の効果でクロスボウの十字砲火にさらされ、一瞬でミンチだが。




それより厄介なのが、魔法使いがトーチカに炎や水、雷を放ってくることだ。


あらかじめ対策はしていたため人的損害はほぼ無いが、兵士に恐怖を与えるのには十分だった。


全く穴から顔を出さないで発狂しながらクロスボウを乱射する輩が大量発生し、その中の数人は低威力弾のお世話になっている。


まぁこの程度で勝利が揺らぐことはないのだが。




そして数時間後、最後まで前進を試みていた敵が敗走を開始。


後は漸減邀撃作戦参加部隊が勝利の祝砲とばかりに残弾を浴びせるだけな暇な追撃戦だ。


もちろん逃げ道を塞ぐなどという非人道的なことはしないぞ。


窮鼠が猫を噛む可能性があるからな、うん。


それにしても呆気なく終わった。最終防衛ラインが突破された後のことを必死に考えたのが馬鹿馬鹿しいぐらいに、ね。




人的損害は4名が腕や足に矢を食らって軽症、2名が軽い火傷と、意外にダメージは少ない。


トーチカ群も木造のものは被害が多いが、それ以外はほぼ無傷。


ただ今回露呈したのは、秩序維持委員会の精鋭部隊と徴収した兵の差。


精鋭部隊一個分隊に徴集兵二個小隊をぶら下げる形で編成していたが、徴集兵小隊の指揮官と精鋭部隊員の指示が干渉、混乱を生んでしまった。




そういったこともあり、現在は軍の再編を急いでいる。


まず全てを精鋭部隊で構成する、国境警備軍という組織を常備軍として設立。


突発的な有事に初動対応をする部隊だ。


また、これによりスッカスッカになった秩序維持委員会は国境警備軍の傘下となり、事実上消滅した。


また有事の際、国境警備軍の指揮下に2:8の割合で、精鋭と徴集兵を混ぜた部隊が編成される。


ここに配置される精鋭は、普段は秩序維持委員会の業務をしている者たちだ。




さて、ここからが大変だ。


斧やクワ、シャベルやツルハシなどの生活必需品も、全然生産してなかったせいで要塞化工事だけで使い果たしてしまった。家庭科室も軍需物資に埋め尽くされていてとても服の生産などできない。


食料も日々の訓練で運動量が増加したせいで備蓄がものすごい勢いで減っているし、軍事物資も気合入れて生産していた弾薬を除き故障品の補充が間に合っていない...




...だがこれらは想定通り!


敵国を植民地支配すればある程度改善する筈だ。そうすればあとは戦時体制から平時へと移行したりとか。




...だがどうやって無血開城させるのだ...?


コミュニケーションすらマトモに取れない相手に降伏勧告なんてできないし、困ったものだ...

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