ep.4 戦乱2
最近の悩み、それは兵器開発が行き詰まってきていることだ。
国民皆兵制度も着実に導入されているのにも関わらず、兵器のレベルが低くては意味がない。
しかし、金属が無い以上木製部品だけでは耐久力に限界がある。
「この世界ってあまり金属が取れないのか?」
「堀を作ってる時にもそれらしいのは出なかったし...」
「うーむ、やはり周辺国(付近の集落)との貿易は必須か」
「これ以上兵器開発が滞ると、我々ミリオタ集団の住処である秩序維持委員会と学校防衛委員会の存在価値が無くなり、生徒会連中に粛清されてしまうだろう」
「ならば、ここはもう一か八かだ。土木工事が完了次第、外交官を派遣するとしよう。もっとも、意思疎通ができるかが最大の不安だが」
そんなことを議論している内にもっと大きな不安が一気に押し寄せてきた。
「大変です! 生徒会が動き出しました!」
部下がまるでロシア革命で宮殿に押しかけるボリシェヴィキみたいな勢いで部屋に入ってきた。
ちなみにその内容はというと、
・訓練中のペーペーではあるが、武装した秩序維持委員会の部隊に警備させていた防災倉庫から大量の物資が盗まれた。
・挙げ句、同時に偽の配給切符が出回っている。
・そしてその偽物が明らかに雑であること。というか自分は偽物ですと熱烈に主張してきている。
といった具合だ。
すぐに分かる偽物が出回るのは明らかにおかしい。元々もうちょっと手間かければ精巧な偽物が作れるぐらいずさんな切符だったのにだ。
これはもう一つしかない。
防災倉庫を警備していたのも、配給を監視していたのも、切符を刷っているのも物資配布委員会が主導とはいえ、保安上の問題で秩序維持委員会が一枚絡んでいる。
しかも堂々と睨みを効かせて。
やられた...
生徒会の連中の工作に違いない。
先手を打たれた...
早速、秩序維持委員会が腐敗しているだのなんだのという根拠のない噂話が出回っている。
このままでは我々は失脚の道を歩むしかないぞ。
ーーーーーー
生徒会長 松尾
「あんな奴らに主導権を握られては堪らないし、ここは早急に排除すべきだろう」
「しかしあの武氏とかいうやつはかなり有能そうですが、大丈夫ですかね?」
副生徒会長が心配する。
「な〜に、こうも印象が下がっては今更どうしようも無いだろう。心配ないさ」
「でもあいつら銃とか戦車とかは詳しいですし、暴れられると面倒ですよ」
「まぁ大丈夫だろう。流石に守るべき自国民にはクロスボウを向けぬだろうし」
ーーーーー
秩序維持委員会室
「どうする? 何か手を打たねば粛清の道しかないぞ!」
「致し方あるまい。かねてより計画していたラーゲリ作戦を実行するしかなかろう」
ちなみにラーゲリ作戦の内容はこうだ。
まず周辺国に戦争を仕掛けられたかのように偽旗作戦を行い、秩序維持委員会と学校防衛委員会の存在意義を作り、尚且つ総動員という名目で指揮下に国民を置く。
そして各委員会より上に、戦時下の円滑な国家運営を目的とした大本営を作り、秩序維持委員会と学校防衛委員会の人員のみを参加させる。その後生徒会の残りカスは戒厳令の名目で粛清する...
こうなれば我々を脅かす存在は消え去る...
あとは圧倒的な文明差で"敵国"を殴るだけ。
我ながら"理論上は"悪くない作戦だと思うが、何しろリスクが大きいためもっと緻密な作戦を、と日々代案を検討していた最中、生徒会に先手を打たれてしまったのだ。
「でも流石に権力争いで他国まで使うのはリスクが大きいのでは?」
慎重論もわかるが、なにか代案を出してから言ってくれ...まぁちゃんと説明してやろう。
「だがこれしかないだろう。他の案も非現実的なものばかりだ。えーと、生徒会の悪い噂を効果的に流して対抗する...だっけ? 無理だろそんなのは。陰キャの俺たちが奴らの情報網に勝てるわけがない」
他の無謀な案を明確に蹴る。
「仕方ないか...」
「これよりラーゲリ作戦を開始する...意義はないな?」
「異議なし...」
「うむ、仕方ないだろう」
軍事組織を真似て、しっかりと指揮系統を整えた我々は決断さえできれば動きは速い。
要塞化の完了を待たずして生徒会の下っ端を使節として派遣、その"警護"として我々の息のかかった秩序維持委員会所属の者も一人派遣。
あとは、集落の中で警護に使節を殺させ、慌てて逃げ帰ってくるフリをさせ、
「しゅ、集落の中でいきなり使節が殺され、亡骸すら持ち帰れず自分だけ逃げて来たんです...」
と事前に何度も練習したセリフを言わせた。
加えて、
「松尾に騙された...俺を消すために仕組まれたんだ...」
と、死に際に行ったことにする。
護身術や配給を巡ったトラブルへの対処法、ついでにクロスボウの紹介などを発信するために作られた新聞は我々の管轄であるし、それ以外にも表向き無関係な新聞が2つもあるため情報操作もやり放題。
一応食料の配布について説明するための新聞は生徒会だが、生徒会室のブレーカーを落とすことで対応。
今更生徒会連中が弁明したとて誰も信用しないであろう。
ここで追撃としてこの警護を暗殺し、それも生徒会のせいにするという計画であったが、よく考えると奴らはロクな武器もないし、そこまでやると違和感が出てくる可能性もあるので中止。
既に十分すぎるほど生徒会の印象は下がった。
続いて第二段階だ。
「ほぼ宣戦布告と同義なことが起こったのにも関わらず、未だに完了していない要塞化計画を急がねばならない! 敵はいつ攻めてくるのかわからないのだ! 国民よ、備えよ!」
という大義名分のもとに男子の半分を土木工事へ。残り半分は徴兵し、予備役兵用の簡易的な武装を支給。
女子も絶対に必要な仕事以外全員、クロスボウや投石機を製造する軍需工場へ徴用。
国民のほとんどが厳しい労働や訓練で政治に興味などなくなった。
唯一あるのは開戦へと工作したとされる生徒会への不満だけであり、
「生徒会のやつらがくだらない謀略で戦争なんて始めるから俺たちがこんなことに...」
と、日々愚痴を言っている。
もちろんこの現状を打破するべく我々大本営は開戦回避へと努力している...紙の中では。
そしてこの混乱の中少し前に発令した戒厳令を法的根拠に、そして先日の謀略を表向きの理由にして生徒会連中や、それ以外の邪魔者など全てを拘束。
あと世話になった歴史の先生含め、カンの鋭いであろう大人も拘束。
やはりこっそり監視するだけでは子供しかいない軍では対処しにくい可能性があるし、このくらいは必要だ。
ちなみに生徒会のほうは「遂に天罰がくだされた!」とばかりに新聞に大々的に載せられたが、先生の粛清はどこにも載っていない。
あとは事前に作成してある対周辺国戦争計画に基づいて茶番とも言える戦争をやるだけだ。
もうしばらくは自分には軍事的才能しか期待されないだろう。
...一仕事終えて冷静になると、なにか冷たいものを感じる...別に寒いわけではないのだがな...
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