24.このゑ村全焼事件

 俺が住んでいた『このゑ村』は本当に小さな物で集落と言っていい程だった。何処へ行くにしても一山越えないといけない程に。しかしそれでも村の住民は支えあって生活していたんだ。

 「翼くん~!この米なんだけど、倉庫に運んでくれないかな?」

 「はい!今行きます!!」

 この村で行っていた事といえば農業。米や野菜を作り、村の外の市町村に売りに出していた。その作物は自然から作り出された物だったから、とても美味しく市町村は喜んで買ってくれたんだ。勿論俺はそれに加えて昔から木の棒を振り回していたがな。毎日毎日農作業。今思うと懐かしい。しかし俺が二十三歳の時の事。その年は今までに経験した事のない大雨が降り、作物が全て駄目になってしまった。それに加え、外に出る事が出来なかった。何故なら大雨の影響で外に行く道を、激流の川が塞いでしまったからだ。

 「こりゃ参ったな・・・。村の食糧もあまりないし、節約していかないと。」

 「そうね・・・。翼君の家庭は大丈夫そう?」

 正直に言うと俺の家庭は経済的に厳しかった。しかし村の人達に迷惑をかけたくないと思い、「まぁなんとかなります!」と言った。そのやり取りをみていた中学一年生の妹・沙也加は心配する。

 「つばさ兄ちゃん、本当に大丈夫?」

 「あぁ、大丈夫だ。お兄ちゃんに任せとけ!俺の両親も早く元気にしてあげたいしな!」

 俺の両親は共に持病を患っており、出来るだけ栄養価の高い食糧を調達したかった。魚や山菜、時には虫を捕まえたりしてな。沙也加も学校に行けない為か、俺の手伝いをするようになった。

 そんな生活を三か月続けた。

・・・

 「さてと、これで当分食糧には困らないな!」

 「うん!そういえばあの激流の川は収まったかな?」

 「あー見に行くか!」

 何も考えずに川を見に行く事にした俺と沙也加は、穏やかな水流を見て安心した。外に行く道も奇跡的に壊れておらず、来年から作物を持って売りに出す事が出来ると。

 「よっしゃぁぁぁぁ!!」

 「これで私も学校に行ける!!」

俺と沙也加は喜びあった。これからも平和な暮らしが出来ると。


しかし、夏が終わり少し涼しくなった頃だったか。スーツ姿の団体が俺達の村に現れたのだ。


 「誰だ。あの人達。」

 「分からない・・・。怪しい雰囲気だわ。」

 村の人達がその団体を見つめる。すると団体の長が前に出て、話し始めた。

 「こちらが『このゑ村』ですね?私は隣の県の小さな村に住んでいる斉藤と言います。どなたか私達の要求を聞いてくれませんか?」

 俺は怪しいと思い、村の代表として前に出た。

 「何の用だ。今この村は作物が無い。取る物も何もないぞ?」

 「そうでしたか。しかし私達の村も貧相であり、お金もない。そこで一つ。貴方方の支えとなって働きたい。」

 その瞬間俺は「は?」と思った。誰かも分からない人達をこの村に招き入れる事になるからだ。当然ながらそんな怪しい要求を承諾する事など出来ない。

 「無理だ。その姿、どうみても貧相な村の服装ではない。それにその筋肉。しっかり食事をしている証拠だ。」

 すると斉藤が悪そうな笑みを浮かべながら警戒している俺の元へとやってきて、突然殴り飛ばしてきた。

 「ちょっと!兄ちゃんに何をするの!!」

 沙也加が俺を庇う。しかし、そんな俺に対する優しい行動も空しく、沙也加は腹を蹴られ、斉藤らの団体に捕まった。そしてあろうことか、銃をこちら側に向けてきたのだ。それは一方的な蹂躙だった。銃を突きつける事で恐怖を与え、強制を謀る作戦。しかし勇敢な村の一人が前に出て、怒りをぶつける。

 「ふざけるな!そんな事で済むと思・・・う・・・あ、れ・・・?」

 胸から大量の血が流れる。その人は銃の弾丸によって胸に穴が空き、倒れた。それと同時に悲鳴を上げる村の住人。俺はそれをただ消えかけていく意識の中、見る事しか出来なかった。

・・・

 「こ、此処は・・・いつもの山菜取りをする森・・・?」

 目を覚ました俺は、周りを見る。夜が更けていたがそこは、見慣れた場所だった。いつもの森だ。しかし何故か体が動かない。手足に違和感を感じる。

 「なんだよ、これ!」

 俺は木に磔にされていたのだ。そしてその隣には気を失っている沙也加も磔にされていた。

 「よう、目が覚めたか。」

 斉藤が暗闇から出てくる。

 「お前か!村の人達に何をした!!」

 「なにもただ全員銃で撃ち殺しただけよ。誰も俺らの要求を受けなかったからな。このゑ村に眠る貴金属を占領するという要求を。折角大雨で全員溺死したと思ったら生きていたしな。」

 斉藤らは既に村に火をつけて全てを燃やし、その地に眠る貴金属を無理矢理占領したのだ。

 「ふざけるな!なら何故俺と沙也加は生かされている!」

 「え?それは見世物にする為に決まっているだろ?おい、こいつらの両親を持ってこい。」

 すると団体らが全員来て、その中の一人が俺の両親の首を持っていた。それを見た俺は戦慄する。両親は既に殺されていたのだ。

 「どうだ!これがお前らの両親だ!そしてそこに磔にされている女は、これから虫によって食われる!お前は黙って見てろ!」

 斉藤は持っていた蜂蜜を気絶している沙也加に塗りたくる。それと同時に地中から赤い蟻が出てきた。蟻の恐ろしさを知っていた俺は「やめろ!」と喉が壊れるまで叫び続けたが蟻たちは言葉を知らない。次々に沙也加の体を蝕んでいった。それと同時に甲高い声が聞こえてくる。

 「お前は兄だろ?妹を守らなくていいのか?」

 斉藤の笑い声が聞こえてくる。俺は心が潰されそうだった。目の前で家族が全員殺されていくのを見る事しか出来なかったからだ。それと同時に俺の中のなにかがプツンと切れた。

 「お前らを、殺す!!」

 俺は腕と足に力を込め、鉄枷を無理矢理外そうとする。枷から血が垂れ、皮膚が剝がれていった。しかし我を忘れていた俺は、そんな激痛も感じず、ただ枷から抜けだし、頑丈な木の棒を手に取り、団員をかたっぱしに襲っていたのだ。それからは大量の銃声が聞こえた事しか知らない。いつの間にか団員達は木刀によって頭を流血させながら倒れており、残るは怯えている斉藤だけが視界に入っていた。

 「お前は、化け物だ・・・!何者なんだ!お前は!」

 銃の引き金に指を持っていきながら、俺に対し叫ぶ斉藤。何十発も撃たれながらも立っていた俺は、もはや人間の限界を超えていた。流血しすぎて、命の灯が消えていてもおかしくなかった。しかし最期の力を振り絞って、心臓を撃たれながらも斉藤にトドメを刺したのだ。

・・・

 「つばさ兄ちゃん。助けてくれてありがとう!」

 「勿論だ!俺が全て守ってやると言っただろう!!」

 「うん!頼りにしてる!!これからもよろしくね!」

 その事件が起きた次の日の深夜二時。警察がこのゑ村に着いた時には焼け野原が広がっており、何も残っていなかった。すぐに大規模捜索が行われ、とある山中で凄惨な事故が起きていた事を目の当たりにした警察は、その光景に吐き気を催す程酷いありさまだったらしい。

 ほとんどの人間の頭部が凹んでおり、唯一身元が分かった遺体は大量の銃弾を喰らって尚笑っており、誰かも分からない女の頭蓋骨を抱えていたという。

・・・

 「これが俺の身を持って経験した真実だ。この世界に着いた時村の人々と再会出来たが、すぐに化け物によって消滅させられた。気がおかしくなっていた俺は撲殺した時に使っていた木の棒を拾い、化け物の首を斬った。その時に誕生したのがこの黒焔斬刀だ。」

 黒龍の話を静かに聞いていた達郎は、とても悲しそうな顔をしていた。

 「共感はするな。この世界に来た時、消滅していく実の妹が『貴方は本当に人間なの?』と言った事が今でも心残りだ。もうその時点から俺は化け物だったのだと。」

 達郎はそれに対し「違う。」と声を掛けたかったが黒龍は止めた。

 「俺の過去を話す事が出来て良かった。これでもう大丈夫だ。」

 立ち上がり、何かを決心した黒龍。そして、ある事を達郎にお願いする。『俺が扉を開けるまで瞳を守れ』と。

 「俺は化け物だ。瞳、和人、皆とは違う生物だ。これからは仲間の協力なしで進んでいく。瞳が助けに来ようとしても、絶対に振り返らない。」

 そう言い残し、気絶している瞳を置いて家を出て行った黒龍。達郎が話そうとしていたその刀の呪いの事も聞かずに。そして三人の関係は完全に絶たれた。

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