22.ジャングルの一軒家

 「ジャングルなのに道があるなんて不思議ね。」

 「そう言われてみればそうだな。だが前を見てみろ。幽界への扉へまっすぐ進んでいるぞ。近道である事には変わりない。」

 「そうだね・・・。それにしてもジメジメしていてなんか不快な場所だ。」

 ジャングルは前世にあったものを忠実に再現していた。しかし一つ違和感があった。それは化け物どころか鳥や猿、昆虫などといった生命体が全くいない事だった。争いあった形跡もない。三人は逆に不安になっていた。

 「なんか不気味ね。早く抜け出したいよ・・・。怖いから走り抜けない?」

 「それは駄目だ。罠があったらどうする。三人共一瞬で消滅するぞ。」

 「確かに・・・。早く終わって欲しいな・・・。」

 瞳が不安がっていると黒龍は何かに気づき、二人を止める。

 「あれは・・・家?昔此処にも人がいたという事か?」

 三人は只々驚いていた。この世界に住む人を実際に見た事がないからだ。すると家のそばで農作業をしている人を見つけた。

 黒龍はすぐさま声を掛ける。「こんにちは!」と。するとその人は振り向き手を振ってきた。

 「よくぞ此処まで。さぁ、家の中に入っておくつろぎ下さい。」

 三人は警戒しながらもやせ細った男性の声に応じ、家の中に入る。

・・・

 その家は至って普通の家庭の家って感じだった。変な匂いもなくそれは三人に懐かしさを感じさせる。

 「懐かしいというかなんというか・・・久々にこの空間を見れて嬉しい。」

 瞳は涙を流す。過去の事を思い出したのだろう。すると茶を入れた湯呑を持ちながらその男性は近づいてくる。

 「さぁ、座って下さい。此処まで来たのもなにかの縁です。この場所まで来た話を私に聞かせて下さい。」

 三人はその人に言われた通り椅子に座る。そしてテーブルを交えて三人は今まであった事を話し始めた。沢山の人が消滅し、消滅していく人に対して何も出来なかった事や、化け物の正体が人間であるという事などなど。それを黙って聞く男性。黒龍と瞳は話を進めている最中違和感を覚えていたが、こちら側が最後まで話し終えると黙っていたその男性が口を開いた。

 「これまで大変でしたね。」と。

 すると黒龍はその言葉に苛立ちを見せてしまった。

 「おい、なんだその言い方。お前は何者なんだ。」

 「ちょっと黒龍、その言い方はあまり・・・。」

 「瞳も何度も絶望してきただろう?人々が泣いて消えていく光景を見て。なのに何故この男は表情を一つも変えずにこんな重い話を聞いていられる。何者なんだお前は。」

 確かに言われてみればそうだ。殺伐とした世界でこんなに穏やかな顔立ちをした人を見た事がない。すると男性はため息を漏らし、口にする。

 「〇〇達郎。私の生きていた時の名です。」

 その言葉を聞いた黒龍と瞳は絶句する。その名前を知らない人なんていない。何故なら三人の前に座っている達郎という名の男は、死刑囚だったからだ。

 「お前もしかして・・・十軒放火殺人で死刑になった・・・?」

 「はい、そうです。私は計三十人を火炙りにして、死刑になった者です。」

 和人はニュースでしか知らなかったが、黒龍と瞳はその真相を知っていた為、只々驚いていた。

 「・・・お前、人を殺めておいてよくのうのうと生活していられるな。」

 「本当。被害者に申し訳ないっていう気持ちはないの?」

 和人はただ呆然としていた。冷たい視線を人に向けている二人を見た事がないからだ。二人の罵詈雑言を受け続けた達郎は悔しげな表情を浮かべる。

 「分かっています!私のした罪は逃れようのない呪縛です。そして阿修羅の手先の一人、人間であるという事も。ですが貴方方がこの世界を終わらせるという事を知ったから自ら顔を出したのです。どうか話だけでも聞いてくれませんか?」

 すると達郎を蔑んでいた二人の動きが止まり、細々と呟きだす。

 「誰が・・・聞くか・・・。犯罪者は犯罪者。どの世界にも存在してはいけないもの。」

 「お前達、犯罪者はろくでもない人間、いやそれ以下。私を殺したやつは笑顔で包丁を向けてきた。あんな恐怖を忘れる筈がない。犯罪者はどうしようもないやつ。」

 二人の恨みはとてつもなく強大なもので、嫌な雰囲気が家を包み込む。しかしそれに耐えきれない者が一人だけいた。それは和人だった。

 「やめて!この人は悪い人だけど、話だけでも聞いてみようよ!」

 しかしそんな和人の言葉も空しく、瞳は和人に怒鳴り散らかした。

 「私の過去を知らない癖に聞けなんて言うな!まさか、和人がそう言うとは思わなかったわ。こんなやつを庇うなんて・・・。もういい、黒龍。こいつを殺して。出来なければ私が殺る。」

 その時、黒龍は過去のトラウマを思い出していたが、刀を抜かずに突っ立っていた。それは姿が人間だからという理由。しかしその行動は瞳を怒らせる事になり、彼女はあろうことか腰に身につけていた小刀を手に取り、達郎にその先を向ける。

 「・・・黒龍も和人ももう仲間じゃない。誰も私の味方をしてくれない。消えてしまえばいいんだ。・・・そしてお前。今からお前を殺す。覚悟しろ。」

 そう言いながら瞳は小刀を振り下げ、達郎の頭に当たったと同時だったか。何故か和人が泣きながら瞳を止めた。

 「瞳お姉ちゃん!そんな事をしたら人殺しになっちゃう!本当の敵はその人じゃない!だからやめて!」

 和人が瞳の事を説得した。すると瞳は黙って小刀を持っていた手を下に向け、絶対に言ってはいけない事を口ずさむ。

 「人殺し?そんな事今まで沢山してきた・・・。それとも貴方が殺る・・・?殺ってくれるなら、私はこれ以上なにも言わない。それでも無理というのであれば私は貴方の姉ではないと判断する。家族でしょう?出来るよね?」

 和人に怖い顔で詰め寄る瞳。和人は黒龍に助けを求めるが、黒龍は下を向いたまま動かない。そして和人の手に小刀が渡り『やつを殺せ』という名の強制を強いられた。初めて憎悪の塊を抱いた小刀を持つ和人。全身から汗が吹き出し、呼吸が荒くなっていく。しかし、達郎もとい人間は覚悟を決めた顔でいる。和人はもう後に引けない状態だった。

 「・・・達郎さん。最後に、言い残したい事は・・・ありますか?」

 「いいえ。私にはもうなにもありません。願いもありません。ですので・・・。」

 和人は手を震わせながらもその言葉を受諾し、人間としてやっていけない事をした。次の瞬間血が飛び散る。


    しかし倒れたのは和人の方だった。

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