18.死闘

 「あれ、水場だよね!」

 「本当だ!」

 「遂に此処まで来たか!」

 三人は遠くにぼやけて映る砂漠のオアシスを見つけた。水を暫く飲んでいなかった三人は太陽の暑さによって集中力が欠如しており、今すぐにでもそこに向かいたかった。しかし、突然三人の背後にとてつもない悪寒が襲ってきたのだ。

───あーあ。隙だらけじゃん。 ───

 突然少女の声が聞こえ後ろを振り向いた三人だったが、既に黒龍の頭上に大斧の刃先が迫っていた。反応が遅れた黒龍は刀を抜く事が出来ず、刀の鍔で斧を止める。しかしこれまで感じた事のない圧力によって潰れかけそうだった。

 『う、なんて重さだ!や、ばい!!』

 「黒龍!」

 瞳が小刀を抜き奴の頭を狙って攻撃を仕掛けるが、刺した場所には何もない虚空が広がっていた。戸惑う三人は辺りを見渡すが、今襲ってきた奴は何処にもいなかったのだ。

 「何処に潜んでいるのか分からない!二人共気をつけろ!俺だけでは奴に勝てない!」

 奴がとんでもなく強いと確信していた黒龍は、自身を犠牲にしてでも二人を守ろうとした。すると奴が少し離れた場所に出現する。

 「よくあたしの攻撃を自力で受け止めたね!すげーじゃん!今までの奴はこの一撃で消滅していったのに!阿修羅様に聞いた通り強さは申し分ないね。ねぇ、もっと力を、力を見せて!」

 大斧を持ったその少女は小学生くらいの見た目をしていたが、小さな体つきからは想像出来ないとんでもない怪力を持っていた上に戦闘狂だった。

 「お前は誰だ!」

 「んー!いい声してるね!殺るのが勿体ないよ!あぁ素敵だ!あぁ、つい浮かれてた。名前を言ってなかったね。あたしの名前は餓鬼。聞いた事ないかな?」

 そう。この少女は阿修羅の手先の一人、餓鬼だったのだ。まさか女の子だとは思っていなかった三人は少し動揺している。本当に可愛らしい女の子って感じだった。目の色彩が失われて、血を常に欲している事以外は。

 「貴方が餓鬼なのね。この世界を創ったあいつの手先・・・!」

 瞳は躊躇せずに餓鬼に弓の照準を合わせる。しかし・・・

 「あー君達は黙ってて、あたしは黒龍君と話がしたいだけ。だから・・・!」

 すると餓鬼がその場所から消え、瞳と和人の目の前に出現し、二人を数十メートル先まで殴り飛ばした。それを見た黒龍は驚く。

 「な、なんてスピード・・・いやワープか?」

 「ご名答!流石黒龍君!!さてと邪魔者がいなくなったから一つ言っておきたい事があるんだけど、あたし達の仲間にならない?黒龍君強いじゃん!確か”いあい”?だっけ?あの一撃必殺技痺れるわぁ!」

 突然の要求に驚く黒龍。餓鬼は黒龍の事を仲間にしたがっていたのだ。しかし黒龍の答えは決まっていた。

 「いや無理だ。俺には二人の仲間がいる。それに人を嬲り殺し、あざ笑うお前らには興味ない。」

 すると今まで笑いながら接していた餓鬼の表情が真顔になった。

 「あーそうか。黒龍君はあたし達を倒そうとしているのを忘れていたよ。それなら・・・此処で惨めに死ね。」

 本気で黒龍の顔をぶん殴る餓鬼。黒龍は強烈な一撃に吹き飛ばされそうになるが足に力を入れ踏ん張りながら刀を抜き、何も言わずに餓鬼の懐へ入り、斜めに斬り裂いた。しかし餓鬼は消えていた。

 「ほぉ、やるね。ならこれならどうだ!」

 餓鬼は黒龍の真後ろにワープし、頭目掛けて大斧を縦に振る。餓鬼が瞬間移動しているのもあって、防ぎようがない一撃だったが黒龍はいとも簡単に躱し、迎え撃つ。

 「おっと、おしかったね!それよりなんで話さないの?」

 餓鬼が攻撃を続けながら黒龍に対し語りかける。しかし黒龍は黙ったまま餓鬼のスピードに追いつき、攻撃を続けていた。

─── 一方その頃  ───

 「痛てて・・・。瞳、大丈夫?」

 「ええ・・・なんとか。和人も大きな怪我はなさそうね。それにしても餓鬼のワープについていける黒龍のあの力はなに・・・?」

 二人は餓鬼と黒龍の異次元の戦闘に加担したかったが、その攻防が速すぎて入って行ける気がしなかった。ドス黒い火の様なものが黒龍を纏っており、それのせいで戦闘状況がよく分からない。すると突然黒龍が居合の構えをしだした。しかし背後から大斧が迫る。

 「あれじゃ駄目だ!瞳、弓の準備を!」

 「分かった!」

 しかし、間に合わなかった。黒龍は餓鬼の攻撃により背中を深く斬られ、その場に倒れ込んだのだ。

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