16.和人の初めての戦闘
三人がピラミッドの外で一夜を過ごし、準備運動を終えた時の事。草原を抜けたその先には砂漠が広がっていた。この砂漠では高温の太陽光に負けない不思議な柄の植物や昆虫が生息しているらしい。その辺を飛び回るハナアブや食虫植物、水分を多く蓄える為に幹が不自然に膨らんだ木などなど。現世にはない光景がそこには広がっていた。
「草原のすぐ隣に砂漠があるのっておかしいよね。それに砂だけじゃなくて色んな生命が生息しているし。」
「そうだな。それに物凄く暑い。さっきまで涼しかったのに、今は焼け死にそうだ。もう既に死んでいるけど。」
「うん。黒龍のその服装は見るだけで暑そうなのが伝わってくるよ・・・。」
三人は暑さで気が滅入りそうだった。しかし進まなければならない。
「とりあえずオアシスがあると信じて進もう。着いたらそこで休憩だ。」
黒龍が二人に注意を促す。すると砂のザラザラという音が聞こえたと同時に、化け物が這い出てきた。虹色の体つきをしているが、基本はいつもの化け物と性能は変わらないみたいだ。
「気色悪!!あれ明らかにやばい見た目じゃない・・・。」
「まるでハンミョウだな。虹色が背景色の保護を担っていて、敵に気づかれにくいばかりか、襲うのに適している柄をしているぞ。」
「やめてそういう話!虫嫌いなの!!」
黒龍と瞳がワーワー言いだす。すると何故か和人が二人の前に立った。驚きを隠せない二人だったが和人の「自分自身の力を試したい。」という言葉を肯定した。
「わかった。あの見た目だともしかしたら毒を持っているかもしれない。この体に毒が通用するか分からないが、万が一を考えて十分に気をつけろ。危なくなったら俺達が助ける。」
「ええ。弓の準備は万端だわ!」
「二人共ありがとう!」
和人は集中する。その時黒龍と瞳には見えなかったが和人は目つきを鋭くし、化け物の胸の辺りを直視していた。これは解説だが、組み手をする時に見る場所は攻撃してくる部分ではなく、胸の中心に意識を向けるのがいい。何故ならどんな攻撃も腰や胸といった一見関係ないと思われている部分を軸に動いているからだ。例えば拳を前に突きだす時、腰と胸が連動している。
「来い!」
和人の掛け声と同時に、ある一体が一瞬にして詰め寄ってきた。鎌に変化した腕を振り落としてきたが和人はそれを見切り、横に避け目潰しを狙う。大きな動作をした化け物はそれを躱しきれず、視界を失った。それからは和人の世界だった。
「終わりだ!」
「え、ちょっと待って!」
瞳は危険を察知し呼び止めるが、和人は瞳の言葉を無視し、乱雑に飛んでくる鎌の軌道を簡単に躱し、化け物の喉を手刀で貫く。すると化け物は首から血を吹き出しながら倒れ、消滅した。
「ふぅ、なんとか倒せたよ!」
和人は自身の力だけで倒せた事に喜んでいたが、それを見ていた二人の顔は青ざめていた。
『手刀で喉を貫くなんて、人間技じゃない・・・。』
『そ、そうね。まさか和人がこんなに強かったなんて・・・。』
二人は初めて自身の力だけで化け物を倒した和人に若干恐怖を覚える。しかし、和人は何故そんな顔をしているのか分からない様子だった。
「え、えっと・・・どうしたの、二人共?」
「い、いや、なんでも・・・ない。」
「う、うん。す、凄いね!初めてなのに!!」
「そ、そうだな!」
どう声を掛ければいいのか分からずに慌てる二人。
「実は黒龍の技を再現してみたんだ。突き技あったでしょ?あれを、手刀でも出来ないかなと思って。」
和人は応用力が凄まじかった。どんな相手でも弱点を見破る事が容易に出来たのだ。
「な、なるほどな。最初にしては上出来だ。しかし瞳の声を無視して攻撃していくのは駄目だ。危なくなった時に瞳の弓があるからな。」
「うんうん。援護は任せてって言ったでしょう!でも本当に良かった。冷や冷やしたわ。」
黒龍と瞳は和人の心配をする。近くまで駆け寄り怪我をしてないか見る為に。すると和人の後ろに詰め寄る影が彼を襲った。
「うわっ!」
一瞬の隙を見逃さず完全に間合いに入っていた化け物は、奇声を上げながら和人の背中をズタズタに引き裂こうとする。しかし次の瞬間、その化け物は胴体と足が真二つに分かれていた。
「和人、美味しいところを持っていって悪いな。化け物よ、静かに眠れ。」
なんと和人が気づかない間に黒龍が目にも止まらないスピードで化け物を斬っていた。その化け物は自身が斬られた事を気づかず消滅していった。
「和人、戦いの最中は複数の敵に囲まれていると思え。その力は実に強力だが単体のみにしか使えない、言わば諸刃の剣だ。だが、それだけ力があれば自身を守る事が出来るだろう。それにもし和人が危なくなったら俺達が真っ先に助ける。だから注意を怠るなよ。」
「う、うん。分かった。気をつけるよ!」
和人は黒龍の本気の動作を見切る事が出来ず驚いていた。それは瞳も同じだった。黒龍の人間離れした動作に気づく事さえままならなかったのだ。
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