15.この世界の不便なところ

 次の日朝早くに出発する事にした三人は準備運動をしていた。

 「血流の流れるスピードも現世に比べて速くなっているから、体を少し動かすだけですっきりするね。」

 瞳が口にした。二人は昨夜の事が心配だったが、何事もなかった様に振る舞う瞳を見て、少し安心する。

 「あぁ、そうだな。だがしっかりとやれよ!筋肉痛、骨折、肉離れ・・・。本当にそれが命取りになる世界だからな。」

 「分かっているって!」

 「あ、そういえば聞きたい事があって、この世界では身体能力二倍って言っていたけど、何かデメリットってないの?」

 和人は自身の能力が二倍になっている事に関して、まだまだ不明な点が存在していた為聞いてみた。

 「一つだけあるぞ。例えば全力で戦い続けて体力が尽きかけた時に、体が消えて魂状態になってしまう。二倍という言葉を鵜呑みにするのはかえって危険だ。和人は、長距離走は得意か?」

 「いいやあまり得意じゃない。十五分間走り続けるという体育の授業があったけど、本気を出しても四千メートルが限界だったよ。」

 持久走は自身の体力を確かめる為に行われているが、余りにも過酷(と生徒間で言われている)というのもあって、人気がない種目の一つだ。しかし十五分で四千メートルを走る事が出来る和人は、苦手という程でもないと思われる。

 「なるほど・・・。俺の生きていた時はそんな種目無かったな。瞳は知っているか?」

 「いいえ、分からないわ。ただ私より体力あると思う。私走るのが苦手だったし。」

 二人の生きていた時代には持久走が無かった。しかし、毎日走りながら戦闘をしている二人は気づいていないだけで、今の和人の体力より多い。

 「そうなんだ。その、なんでそのデメリットを知っているの?経験しないと分からなそうな事だと思うんだけど。」

 「それについてだが、あの草原に殆ど化け物がいなかっただろう?」

 「あ!もしかして全部倒した・・・?」

 「そうだ。あの戦いは本当にやばかった・・・。」

 あの日の事を思いだす黒龍と瞳。

 「あの日は何故か千体以上の化け物達が突然草原に現れて、俺と瞳がそれを迎え撃った。連日の戦いによる疲労で居合が使えなかったから、本当に体力が尽きかけるかと思ったよ・・・。」

 「そうそう。確か残り百体くらいの時かな。黒龍の右手が突然消えて、刀を落としたんだよね。その時私も体が薄くなっている事に気がついたわ。弓の準備をしている間に黒龍が襲われる可能性もあったから、全部小刀で倒していったの。」

 「あの時は本当に心配をかけたな。瞳。」

 「いいや!戦闘は一人より複数。でしょ!」

 その時の戦闘は凄まじいものだったらしい。まだ黒龍の体力が完璧に仕上がっていなかったのもあって困難を極めた。しかし瞳がいたからこそその戦闘に勝つ事が出来たのだ。

 「そんな事があったんだね・・・。でもなんで僕がこの世界に来た時化け物が出てきたんだろう?」

 「それは、化け物が出現する人の近くに配置されているからだ。あの本の効果によるものだろう。」

 「そうね。やっぱり阿修羅の思考は理解出来ないな・・・。」

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