13.和人の過去

 「後半はトラップがなかったな。すぐに出る事が出来た。」

 「そうね。ただ、もう夜更けだね。この先真っ暗のまま進むのはきつそう。」

 「・・・仕方ない。一夜此処で休憩して、明日の早朝に出発するぞ。という訳で俺は次の戦闘に備えて刀の手入れをしてくる。二人は此処で待っていてくれ。」

 黒龍はそう言い残し、その場を絶とうとした。しかし和人が黒龍の事を引き留めたのだ。

 「どうした?」

 「黒龍、瞳。二人に話がある。話すなら今が最適かなと思って。僕の過去話を聞いてくれないかな?」

 和人は過去話をする事に抵抗がなくなっていた。この世界に来て数日しか経っていないというのに、この残虐な世界に精神が殺されそうになり、いつ消えてもおかしくないと自身が考えていた為、その前に二人に伝えたいと申し出たのだ。

 「分かった。話してくれ。」

 「私も聞くわ。安心して、と言うのは間違っているけれど真摯に受け止める。」

 「ありがとう二人共。じゃあ話すね。」

───和人の過去話が今始まる───

 「前に言った通り僕は虐めが原因で、自殺をした。それでその発端なんだけど、容姿が酷いとか何か相手に悪い事をしてしまったという訳ではなく、僕と両親の血が繋がっていない。つまり僕が養子だったからなんだ。」

 えっ、と言葉に詰まる二人。

 「という事は和人の両親は義両親という事か?」

 黒龍は問う。

 「うん、そう。幼い時に実の両親が交通事故で亡くなった時、誰も僕の事を拾ってくれないだろうと三歳だった当時でも分かった。両親の葬式の時、僕を見る親戚達の目が冷たかったから。でも、両親と仲が良かった親戚が、僕を引き取ってくれたんだ。」

 和人は上空に広がる満天の星空を見ながら生前の話を進める。

 「義両親だったけどとても優しくしてくれて、なに不自由なく幸せな毎日だった。でも小学生に上がった辺りかな。その日は授業参観日でちょうど保健体育の授業中だった。その時先生があろう事か、親達のいる目の前で僕と義両親の血の繋がりがないという事をクラスメイトにばら撒いたんだ。その瞬間僕の人生は崩れた。その話題が学年中に広まってしまい、それに対して皆はネタにしてきた。僕の事を偽物の子供と馬鹿にし、数えきれないくらい殴られ蹴られをされた。ノートや筆箱を燃やされるなどの陰湿な虐めを受けてきたんだ。」

 和人は受けてきた虐めの数々を黒龍と瞳に話す。それを聞いていた二人は言葉が出なかった。

 「暴行を受ける事自体はそこまで苦じゃなかった。何故なら僕だけに向けてくるものだったから。でも唯一心に来たのは義両親を傷つける発言をしてきた事。大切に育ててくれたからこそ、その言葉の刃が辛かった。だから義両親にまで被害が及ばないように、空手を始めたんだ。義両親に向けてくる矛を僕が喰い止めるためにね。」

 和人は大切な家族を守る為に、空手を始めた。その人達を倒す為ではなく。

 「時は流れて、中学三年生の秋頃だったかな。同じクラスの全員が受験シーズンで僕も第一志望の高校に行く為に勉強をしていたんだけど、そんな時でも虐めてくる人が多数いた。そしてとある事がきっかけで堪忍袋の緒が切れてしまい、虐めてくる人も直接関与していない人も殴り飛ばし、病院送りにしてやったんだ。その時は正直に言うと快感だった。でもそれがまずかった。受験期だったのもあって”大人数の受験生を暴行し、入院送りにした”という題材で、全国ニュースで報道される事になったんだ。もうそうなってしまったらネットに個人情報が晒されて、高校に進学出来る筈がない。空手を始めたきっかけがこれだよ?笑えてくるでしょ?守る為の空手が、相手を傷つける空手になった上に、家族を不幸にさせたんだ。」

 その話を聞いていた黒龍と瞳は、その経験話に対して慰めの言葉を掛ける事も出来なかった。掛けてはいけないと考えたからだ。

 「分かっていたんだ。武道を習っている人は、素人に対して手を出してはいけないという事が。空手の師範にも『和人は普通の人より運動能力が優れている人間だから、絶対に素人に手を出すな。』ときつく言いつけられていた。でも義両親に矛を向けようと計画していた奴らが憎くて、許せなくて、手を・・・出してしまった。でも今はそんな行動を起こしてしまった事が悔しい。義両親に逢わせる顔がないよ。」

 和人は家族を愛していたからこそ、暴行事件を起こしてしまったのだ。しかし暗い顔をしていた和人は急に二人の顔を見つめた。

 「でも・・・でも!こんな僕を二人は優しく手を差し伸べてくれた。こんな酷い事をした僕を助けてくれた!それが嬉しくて。二人共真剣に聞いてくれてありがとう。」

 和人がそう言った瞬間、間髪いれずに瞳は和人の事を抱きしめ、何も言わずに涙を流した。黒龍も謝ろうとしたが、和人は首を横に振る。

 「二人共謝らないで。僕の犯した罪は絶対に消せない。被害者は僕の事を恨んでいる。これが僕の罪なんだ。・・・でも二人に逢えてなかったら、化け物に襲われ、この記憶が抹消されていたかもしれなかった。だからこそ、こんな僕を救ってくれてありがとう。あと、その・・・二人の過去も知りたいな。」

 和人は二人に感謝の意を述べた。そして彼は黒龍と瞳の過去を知りたいと二人に告げ、二人は過去の話をする事となる。

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