12.荒涼とした集落、手掛かりを探して

 古く壊れかけの家、井戸、朽ち果てた田畑。草木が雑多に生えており、かつて人々が住んでいたとは思えない光景がそこに広がっていたのだ。

 「これは・・・酷いな。多分阿修羅がこの村を襲ったのだろう。」

 「う、鉄の錆びた匂いがする・・・。」

 「そうね・・・。それよりなんでピラミッドの中に集落が?」

 三人は考える。しかし、答えが思いつかなかった為、調査へと移る事にした。

 「やっぱり、血は飛び散ってもその本体は消えてしまうんだね。」

 「その通りだ。仮にこの世界でいい思い出を生み出す事が出来ても、消滅すれば一瞬で無意味と化す。大切な記憶すらこの世界は奪っていくんだ。」

 朽ち果てた集落の間を歩きながら手掛かりを探す三人。すると一軒だけ綺麗な家が建っていた。

 「不自然だが何か手掛かりがあるとしたらこの家だな。今から俺がこの家の中に入る。少しでも異変が起きたら、すぐに教えてくれ。」

 黒龍は真っ暗闇の中に入っていった。危険かもしれない場所に一人で入るわけだから黒龍の心配をしていた二人だったが、信じて待つ事にした。

・・・

 「黒龍が入って約十分くらい・・・。遅いわね。大丈夫かな?」

 「確かに、何か悪い事が起こっていないといいけど・・・。」

 「こら!和人。縁起でもない事言わない!」

 「ごめん瞳。そういえば気になっていたんだけど、瞳は何故鉄砲を使わないの?武器庫にしっかりとしたやつあったのに。あれの方が照準も狂いにくいし、弾速も弓より断然速いじゃん。」

 和人は瞳に問いかける。すると瞳は少し間を空けて、弓を握りしめながら話し始めた。

 「私にとってこの弓は命の次に大切なものなの。小学生の頃に『弓道をやりたい!』と両親に向かって言って、買ってもらったんだ。この弓はさ。貴方達を守る為にあるっていうのもあるけれど、本当は残してきた両親の事を忘れたくないからなの。」

 瞳は両親が買ってくれた弓を手放したくなかった。両親の事を忘れたくなかった。だからこの弓で戦い抜くと誓ったのだ。

 「そうだったんだ。なんか変な事聞いちゃってごめんね。」

 「いいえ、謝らなくて大丈夫。でも・・・。」

 「でも?」

 「でも、弓という私にとって一番大切な物によって倒れていった化け物達が、元は人間だったという事を知った時本当にショックだったの。こんな事あっていいのかと。・・・以前さ、黒龍が『此処に来る人々を救えなかった事が俺の罪』と言っていたでしょう?実はあの時、あの言葉が私の心にグサッときたの。・・・そしてその時理解してしまった。私の罪が『化け物変わってしまった人を救えなかった』という事に。本当に私は・・・。」

 その時瞳の手が震えていた。かけがえのない大切な物で人を殺めていた事を後悔していたからだ。しかし和人はすぐに瞳の手を掴み瞳の自身を苦しめる発言を止めた。

 「瞳は優しいね。どんな時も僕達の事を助けようと頑張っている。でも化け物を沢山殺めてしまった事は罪じゃないよ。元凶は阿修羅本人なんだから。消滅していった化け物も人間も瞳の事を恨んでいない。だからさ、そんな悲しい顔をしないで。」

 「・・・ありがとう和人。私は精神が強くない。いつも泣いてばかり。でも、二人がいて助かった。本当にありがとう。」

 「・・・直接言われると恥ずかしいな。でも瞳が前を向いて、これからも戦っていけるように僕が支える!前にも言ったでしょ?いつだって助けるからさ!今やっている事が全人類にとっての希望だと思って!」

 「うん・・・!」

 この時瞳は思っていた。『和人、私がいない間にいつの間にかこんなに成長したんだね。』と。

・・・

 それから数分後、黒龍が一冊の本を持ちながら出てきた。

 「遅くなって悪いな。集落に住んでいたと思われる人が書いた日記帳を見つけた。内容をみてくれ。」

 その言葉を聞いた二人は黒龍の元へと行き、日記帳をのぞき込む。


───この日記を読んでくれている人がいると嬉しい。私達はこの世界に来てから、約三百七十五年間何不自由なく平和に暮らしていた。しかしある日、平穏な暮らしが烈火に沈んだのだ。太陽の光が消え失せ真っ暗な世界が広がったと思ったら、突然真っ赤に染まった炎がこの集落を包み込んでいた。茫然と立ち尽くしていた私は目の前で行われている殺戮ショーに言葉が出なかった。親しかった人達の叫び、断末魔・・・。怖い、怖い、怖い、怖い・・・。───

 その人が書いていたであろう日記帳の字は、かろうじて読めるが恐怖で文字が震えていた。それ程恐ろしかったのだろう。


───私はこれから消滅する。もう孤独に生きていてもしょうがない。しかしその前に読んでいるそこの貴方に伝えたい事がある。阿修羅と名乗る化け物はこの世界を創りあげたが、手先が三人いるという事だ。それぞれ『餓鬼、人間、畜生』という名を持っている。そいつらは元死刑囚であり、阿修羅の命の元、これから来る人達を嬲り殺しにするらしい。凶悪なその三人に気をつけてくれ。そしてこの世界を終わらせて下さい。それが私達の望み。魂状態になって貴方、いや英雄を見守っています。霊歴三百七十五年六月四日───

 この日記はそこで終わった。

 「死刑囚を手先として扱うとは・・・。」

 「餓鬼、人間、畜生・・・。この三人に要注意って事ね。」

 「うん、・・・あれ?魂状態で見守っているって書かれているけど、もしかして消滅したら天国にも地獄にも行けずに一生この世界を漂うという事・・・?」

 確かに日記には”魂状態で見守っている”と書かれている。もしそれが本当であるのなら、最悪だ。すると天からドスの効いた声が響いてきた。

 『その日記の内容は本当だ。我が隣で恐怖に支配されていた人に書けと命令したからな。ではまた逢おう。』

 「待て、阿修羅!!!おい!!」

 黒龍は真っ暗な天に向かって叫ぶが、もうそこには阿修羅はいなかった。

 「幽界への扉・・・。やっぱりその名の通りだったのね・・・。」

 「あぁ、急ぐぞ!二人共!!」

 そして三人はピラミッドの出口へと走っていった。

 

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