10.草原を抜けて

 あれから数日が経ち、皆の心が癒えてきたところだろうか。突然黒龍が口を開いた。

 「行けるか。二人共。」と。

 「うん。」

 「ええ。無駄な心配をかけちゃってごめんね。」

 「いいや。二人の気持ちが一つに定まって良かった。これからは出来るだけ早くこの世界を終わらせに行くぞ。」

 和人と瞳は黒龍に相槌を打ち、三人は最初の広場を出る。これからは戦いの世界だ。

・・・

 正直三人の空気は重かった。休息を取っていた時も黒龍は草原に足を踏み込み、此処に来る人達を助けようとしたが、全員化け物によって消されていったからだ。毎日毎日沢山の人の悲鳴が広場まで聞こえてきていた。そんな事があって、前を向く事など出来ない。それでも黒龍はこの世界を終わらせるという強い信念を持っていた。だから和人も瞳も覚悟が決まったのだ。

 「黒龍、その・・・居合についてなんだけど一つ質問いい?」

 歩いていると和人が黒龍に対し質問を投げかけた。

 「居合は完全無敵の技なのか。」と。

 居合についてまだ不明な事ばかりだと言う和人。確かに今までに二回程見てきたが、二人の戦力を大幅に超える威力を持っているからだ。

 「そういえば言っていなかったな。居合は視界外、つまり背後から襲われるか、動きを封じられた場合にのみ発動出来なくなる。カウンターの読みが外れるからな。そしてこの技を放ったすぐ後にもう一回撃つ事は出来ない。何故なら抜刀時に生じる静電気を駆使しながら放っているからだ。」

 「どういう事?鞘に納めてまた抜刀すれば居合が撃てるんじゃないの?」

 「それをしたいのは山々。勿論理論上何度も撃つ事は可能だが、抜刀時に生じる静電気は腕を伝って全身に迸る。その電気は非常に強力で常人が耐えられるものではなく、俺自身も頑張っても二回までしか耐えられない。それ程の代償を払っている訳だから、仮に体力が尽きかけている時に居合を撃って、標的を倒す事が出来なかったらどうする?やられてしまうのが落ちだ。」

 「そうなんだ・・・。風圧もその静電気によるもの?」

 「そう。電気エネルギーが刀を振る事で風力エネルギーへと変換する。仕組みは扇風機のようなものだ。あれは電気が内部のケーブルを伝って、扇風機のモーター部分に送られる事で回転し、羽根から風を生み出す。それと同じような事をこの刀で再現しているんだ。」

 「なるほど・・・。じゃあ黒龍の腕力が凄まじく強いからこそ成せる技なんだね。」

 「そうだな。あ、そういえば後々大事になる可能性があると思うから言っておくが、この刀は俺にしか扱えない。例えば・・・いや口で言うよりかは目で見せた方がいいだろう。和人、俺の刀を持ってみろ。」

 鞘に納まった刀を和人に差し出す。それを受け取った和人は驚愕した。

 「・・・!!刀が木に変化・・・した!」

 「そう。俺以外の人がこの刀を持つと、ただの木の棒に変化してしまう。きっと阿修羅の持っていたあの本が生み出した制約なのだろう。だから俺がもし消滅したらこの刀は無意味と化す。つまり最強の刀でありつつも諸刃の剣なんだ。」

 黒龍が持つ黒焔斬刀。それの正体は木から出来た妖刀だった。

 「まぁ居合についてはこんな感じだな。他に聞きたい事はあるか?」

 説明を聞いていた和人は、黒龍の在り方に疑問を抱いたが敢えて何も言わないようにし、首を横に振った。

 「特になさそうな顔をしているな。さぁ扉へと向かうぞ。」

・・・

 三人が歩いていると、何やら遺跡のようなものが見えてきた。

 「あれは・・・ピラミッド?」

 そこには高さが百メートルはありそうな大きなピラミッドが佇んでいたのだ。

 「あれ、おかしいな。前此処に来た時何もなかったのに。」

 「そう、だよね・・・?阿修羅が建てたのかな?」

 「二人共あのピラミッド見た事ないの?」

 和人は二人に聞いたが二人共分からない様子だった。突然のピラミッド出現に驚いていた二人だったが、和人の「何か手掛かりがあるかもしれないから行ってみようよ。」という言葉に賛成し入っていく事に。

 しかしピラミッドの入り口に差し掛かったところで、黒龍が突然立ち止まる。

 「どうしたの、黒龍。」

 瞳は黒龍に尋ねる。すると・・・

 「なぁ、和人。足技について教えてくれないか・・・?」と言った。

 その言葉に瞳は驚いた表情をしている。

 「えっ、剣技以外はやらないんじゃなかったの?」

 和人は言い返す。

 「あ、あぁ。本当は剣技だけでこれからも戦っていきたいが、敵の不意打ちを突く為にも足技を覚えておきたいと思ってな。」

 黒龍は刀以外の技をあまり使いたくなかったが、この先の事を考えていた為、練習したいと申し出たのだ。

 「分かった。それならロ―キックはどうだろう?」

 「ロ―キック?」

 「うん。所謂回し蹴りってやつ。相手の太腿辺りに脛をぶつける様にして蹴る技だよ。関節技とかじゃないから初心者にもおすすめだと思う。」

 そう。ロ―キックは空手では比較的初級の技だ。すぐに蹴りを繰り出せる為、威力が強ければ強い程相手の体勢を崩させる事が出来る。

 「じゃあ見本を見せるね。」

 和人はその辺に生えていた木に向かい、準備に取り掛かる。そして完璧なフォームでロ―キックを繰り出した。

 「こんな感じ。」

 蹴る時の重い音が辺りに響き渡り、木が横方向に揺れ、葉っぱが沢山落ちてきた。それを見た黒龍は質問する。

 「えっと、腰を使っているのか・・・?」

 黒龍は一回見たが和人の蹴るスピードが余りにも速かった為、よく分からなかった。

 「まぁそうだね。まず地面につけている足、つまり蹴らない方の足の親指の付け根・・・出っ張っている部分を蹴りの軸とする。そうする事が大切でそれを怠ると腰が連動しない。実は蹴る時って一番大切なのが腰の捻りなんだ。勿論蹴る力も大事だけどね。あ、話が逸れちゃったけど、逆に蹴る方の足は横に上げたと同時に腰の付け根から膝にかけての部分を地面と平行にする。そして最後は腰と足の軸を使って半円を描く様に動かし、折りたたんでいた膝を伸ばして対象物に当てる。ちょっと言葉では伝わりにくいと思うから、実際にやってみるといいよ。」

 和人はゆっくり流れを見せながら詳しく教えてくれた。流石黒帯なだけあってフォームが綺麗だ。

 「よし、わかった。言われた通りにやってみる。」

 黒龍は和人の言った通りに見様見真似で蹴りを繰り出してみた。

 ドカン!バキッ!!

 蹴りによって生み出された轟音は、近くの木に止まっていた生き物達にパニックを与える。そして大量の鳥達が大空へと飛んで行った。

 「え、えっと・・・これでいいのか?」

 黒龍が蹴った木は見事に切断されており、とても初めてやる技だと思えなかった和人と瞳は笑い出す。

 「僕より凄い事しているよ。こんなの喰らったら一溜まりもない・・・笑」

 「本当に黒龍は平気で想像を超えてくるから笑っちゃう。」

 あの時の戦闘から笑顔を見せていなかった二人を見た黒龍は内心ホッとしていたが、自身の力に驚く。

 「まさか、腕だけではなく足もこんなに力があったとは・・・。」

 「まぁ、黒龍が使うか使わないかは任せるよ。黒龍の剣技は凄いし!」

 「うんうん!さてと、ピラミッドの中へと進もうよ!」

 瞳は促し、三人は何が待ち受けているのか分からないピラミッドの中へと入っていった。

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