09.化け物の正体

 驚愕の事実が判明した。化け物の正体は阿修羅によって化け物へと変えさせられた人間だったのだ。それを知らずに倒してきた黒龍と瞳は絶句した。

 「人・・・殺しを今まで俺達はしてきたというのか・・・。」

 「そんな・・・。」

 この世界の理を知った三人は絶望した。しかしこの世界から出る為には阿修羅を倒し、なんとしてでもあの扉を潜らなければならない。

 「人間として考えずに化け物として倒していくしかないよね。此処で立ち止まらずに。」

 瞳は今まで抹殺してきた化け物に対し罪悪感を抱きながらも言った。黒龍も暗い顔をしている。

 「あぁ・・・そうだな。和人、無理をしなくてもいいんだぞ。人殺しをしているようなもんだからな。」

 黒龍は和人に人殺しという名の重荷を背負わせたくなかった。しかし和人は手首の震えを抑えながら言う。

 「・・・いや僕も戦闘に加わるよ。何より奴の事が許せない!!」と。

 怒りに満ちていた和人の様子を見た黒龍はその決意を真摯に受け止め、真剣な顔で言葉を投げかける。

 「・・・。その気持ち受け取った。だが無理はするな。最初の内は俺達の動きをしっかりと見て、化け物の倒し方を学べ。」

 そう言葉を掛けた瞬間、阿修羅の声が天から聞こえてくる。

 『早速化け物の正体が分かって絶望しているみたいだな。なら特別に良い物を見せてやろう。これは余興だ。』

 阿修羅が指パッチンをしたと同時に三人の目の前に大量の人間達が現れた。全てなんも変哲もない人間だ。

 「助けてくれ!化け物になんかなりたくない!此処で化け物に変化するくらいなら地獄に行った方がましだ!」

 大量の人間達が頭を抱え泣き喚く。それは見るに堪えない情景だった。するとその中の一人がこっちへとやってきて、黒龍の肩を掴み懇願する。

 「お願いだ!俺が俺でなくなってしまう前に、その刀で斬り倒してくれ!!生前犯した罪にはしっかり向き合う!!だから!!」

 天からは阿修羅の邪悪な笑い声が聞こえてくる。それはもうこれから化け物に変化する人間をあざ笑うかの様に。

 「・・・無理だ。お前は元犯罪者だとはいえ人間だ。斬る事なんて出来る訳がない。」

 その人の懇願してくる言葉を聞いた黒龍は動けなかった。何故なら自我を保っている人間だったからだ。和人と瞳は化け物の正体を知ってまだ頭が混乱している。

 「そ、そんな・・・俺・・・は・・・。」

 その人がそう発言した瞬間、阿修羅が”獄天隠滅書”を持ちながらもう一度指パッチンをし、大量の人間達が赤い閃光を放ちながら化け物へと変貌していく。

 「酷い、酷いよ・・・。こんなの、耐えられない・・・。」

 和人と瞳はその惨状に言葉を出す事でさえ困難となり、絶望で立ちすくむ事しか出来なかった。

 「こ、黒龍・・・。」

 すると黒龍は何も言わずに、居合の構えをしだす。と同時に襲い掛かってくる百体以上の化け物達。

 「こんな数倒せる訳・・・」

 「やるしかないだろ!!やらなければ俺達がやられちまう!!来いよ、化け物共!!そして己の犯した罪を一生懺悔しろ!!」

 瞳の震える声を遮り、黒龍は無理矢理自身を鼓舞して刀を奮った。すると百体以上いた化け物が居合の斬撃により消え失せ、血の雨が辺りを呑み込む。

・・・

 血で真っ赤に染まった大地。赤い偽りの桃源郷。それを眺めながら、黒龍は二人に対して小さな声で問う。

 「これがこの世界の在り方だ。こんな世界存在してはいけないと思わないか?」と。

 「う、うん・・・。」

 「・・・。ごめん。私、絶望の余り皆の援護をする事が出来なかった。」

 二人は黒龍に全てを任せてしまった事に背徳感を背負う。しかし黒龍のお陰で助かる事が出来たのだ。こんなに悲しい勝利はないだろう。

 「生前どんな罪を犯した人間だったのかは知らない。だが、同じ人間なのであれば一撃で消滅させてあげるのが情けというものだろう。そして二人共。今見た光景をけして忘れるな。これがこの世界で起きている現実だ。血潮の舞うこの世界を・・・今すぐにでも、消そう。」

 そう言った黒龍の手が震えているのを見た二人は、涙が止まらなくなった。

 「ごめん、ごめん・・・。」

 「瞳。謝るな。俺の心配はするな。」

 「でも・・・!」

 「止めろ!何も言うな。決意が迷う。止めてくれ。・・・数日間、休息を取ろう。」

 心を痛めた三人。そしてこれが和人にとって最初に見た戦闘となった・・・。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る