08.何者!?

 「誰だ!」

 黒龍が叫ぶ。すると・・・

 「ハハハハハハ!!!」

 高笑いをしながらその者は化け物へと形を変えていく。巨大な剣、全てを滅ぼさんとする様な威圧的な吊り目、大きな翼、十メートルはあるだろう巨体。煙が晴れ、姿がはっきりと見えたところで奴は喋り出した。

 「我の名は阿修羅。この世界を創造した者である。」

 阿修羅と名乗る化け物はドスの効いた声で言った。

 「この世界へようこそ。はぐれ者達よ。我は貴様らのような強い者達が来るのを数百年待ち望んでいた。」

 「何だと・・・!?お前はこの世界を創った張本人か!!」

 「そうだ。我は地獄の書物庫にあった禁断の書”獄天隠滅書”を行使する事により神となった。」

 「”獄天隠滅書”・・・?隠滅・・・?まさか天国と地獄を消したとでもいうのか!」

 「ご名答。我は元々人間だったがとある戦争で敵味方関係なく殺しまくった罪で無限地獄に行く事が確定していた。しかし我は地獄で罪を償いたくなかった。人を嬲り殺しにしただけであるというのに。意味が分からないだろう?だから罪人を身をもって苦しませる地獄と、のうのうと生活出来る天国を消し、この世界を創ったのだ。」

 楽しそうに語る阿修羅。

 「そんな理由で元の世界を消しただと・・・?なら何故関係のない善良な人間を此処に呼び込んでいるんだ!」

 黒龍は阿修羅に対し怒号を浴びせる。まさにその通りだった。個人の思想の為にこんな大事にするのは、どう考えても間違っているからだ。

 「おいおい、そんなに切れる事はないだろう?我は人の悲鳴を聞くのが趣味なんだ!若くして死んだ貴様ら程、この世界の理に絶望し泣き叫ぶ。その滑稽な姿を観る為に貴様らの様な善人を呼び込んでいるんだぜ?ただこの世界に舞い降りた善良な人間は弱すぎて話にならん。すぐに我ら化け物によって倒されてしまう。だから”獄天隠滅書”を使って、出現と同時に生前大切にしていた物を持たせた状態で身体能力を二倍にするというハンデをくれてやったのに、情けないな。貴様ら人間は。」

 とんでもない殺気を放つ阿修羅は、唱えれば何度でも望んだ物を創り出せる獄天隠滅書を行使した事で神となり、残虐な行為を幾度となく繰り返されるこの世界を創ったのだ。

 「ひ、酷すぎる・・・。」

 すると黒龍が走りながら刀を抜き阿修羅を斬りつけた。しかし黒龍の刀をもったとしても阿修羅の皮膚を傷つける事すら叶わなかった。

 「ふん、まだまだだな。攻撃が全く効かんではないか。本当に二十年間修行してきたのか?」

 その言葉に切れた瞳は叫ぶ。

 「黙れ!黒龍がどんな想いで鍛練し続けてきたのか分からない癖に!私達二人を除いて誰も救う事が出来なかったんだよ?それなのに貴方は・・・いやお前は!!それを楽しんでいたのか!!」

 「あぁそうだ。楽しんで何が悪い。刀の男が苔の様な分際を助けられず、跪いて叫んでいるところを観た時は本当に滑稽だったな。実に笑えたぞ。」

 阿修羅は瞳の必死な訴えにけろりとしていた。

 「もういい。瞳。」

 「駄目よ、黒龍!貴方が可哀想すぎるわ!」

 すると阿修羅は三人の様子を見て、ある事を思いつき言葉にした。

 「本当にこの世界を終わらせたいみたいだな。それならある提案をしよう。ここから先待ち受ける試練で、この世界の鍵となるキーワードを置いておく。そしてこの世界の真実を受け入れた上で、これから先この世界に迷い込んでくる人を見捨て、あのでかい扉”幽界への扉”の前へと来い。もしこの提案を受け入れなければそこにいる二人を今倒し、お前を孤独にする。どうだ?」

 「・・・分かった。必ずそこに辿り着き、お前をぶった斬る!」

 その言葉を受け入れた阿修羅はにやりと笑い、飛び立つと同時に黒龍に絶望の言葉を投げかけた。

 「そういえばもう一つ言い忘れていた事がある。刀の男よ。貴様の動きを操作していたのは我だ。我の気に入ったそこの二人以外の人間をわざと化け物の前に出現するように設定し、貴様自身は絶対に人を助ける事が出来ないという暗示をかけてな。実にいい仕事をしただろう?貴様は誰も助ける事の出来ないクズだ。そしてこれから先その二人を守りながら”幽界への扉”の前へと来れるかな?」

 そう発言した後、阿修羅は紙切れを落としてフッと消えた。

 「こ、黒龍・・・。」

 瞳は黒龍に声を掛けるが返事がない。黒龍は絶望し完全に目の光を失っていた。

 「黒龍・・・!!目を覚まして!私達が貴方の矛と盾になる。こんな事を今言うのは間違っているけれど、三人で”幽界への扉”を目指そうよ。だから目的を忘れないで!!」

 すると瞳の声が届いたのか黒龍は正気に戻った。

 「ありがとう、瞳。阿修羅・・・あいつだけは絶対に許さない!」

 しかし黒龍が決意したと同時に和人は紙切れを見て戦慄する。

 「え、嘘・・・でしょ。」

 「どうした!」

 黒龍と瞳は和人の元へ駆け寄り、その中身を覗いた。

 「えっ、そんな・・・!」

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