05.死因

 「やっぱりその話になるよね。じゃあ私から。私はストーカーに腹を裂かれて死んで、十二年前に此処に来た。当時二十歳ちょうどだったんだけど、両親と義弟を残して・・・。」

 瞳は残してきた家族の事を心から愛していた。その為その事故が起きてしまった事を悔やんでいた。

 「そ、そうだったんだ・・・。僕には瞳くらいの歳の姉がいたらしいんだけど、僕が幼児だった時に死んじゃったから、一緒に過ごした時の記憶がないんだよね。唯一仏壇だけは残っていたから毎日手を合わせていたんだ。金髪ロングヘアの人だったよ。」

 和人は瞳の顔を見ながら言う。

 「そう・・・なんだ。そのお姉さんとても気の毒だね・・・。」

 瞳は和人に対しなんと言葉を掛ければ良いのか分からなかった。変に突っ込みすぎると返って和人を傷つける事になるだろうと思ったからだ。一方そのやり取りを見ていた黒龍は一瞬気まずさを感じたが、少し間を空けて話し始める。

 「あ、その、次は俺の番・・・だな。俺は餅が好きだったんだが、餅を喉に詰まらせてしまってな。さっき言った通り二十年前に此処に来たんだ。しょぼい死に方だろ?」

 黒龍は笑いながら己の死因について語った。しかし瞳は笑っている黒龍に対し怒りを露わにする。

 「ちょっと黒龍!笑い事じゃないでしょ。和人はさっき死んだばっかりなんだよ?それなのに笑いながら自身の死因を言うなんて・・・。」

 「あ・・・そうだな。親にも申し訳ないと思っているよ。」

 瞳の言葉に圧倒された黒龍はただ頷くように言った。

 「さてと、私も黒龍も話をしたから最後は和人の番・・・。あ、いや・・・。」

 「っ・・・。」

 二人は和人に対して顔を向け死因を聞こうとしたが、和人は暗い顔をして黙っていた。それを聞いちゃまずいと思った瞳は話題を無理矢理変えようとしたが、和人が口を開く。

 「・・・自殺。虐めを・・・受けていた。」

 「・・・!!」

彼の口から”自殺”というワードを聞いた二人は、凄く酷い事を喋らせてしまったと後悔した。それと同時になんと答えればいいのか分からなかったのだ。

 「ごめんな。辛い過去を持っていたというのにも関わらず聞いてしまって。軽率な判断をしてしまった。」

 「・・・私もごめん。」

 和人に対して謝る二人。しかし和人は怒らなかった。

 「ううん、いいんだ。今は詳しく話したくないけど、機会のある時に話したいと思っているよ。」

 二人は彼の過去の話を聞いた事を後悔していたが、いつか話すと言った和人の言葉を受諾する。

 「分かった。話したいと思った時に言ってくれ。」

 「ええ。私達はいつだって貴方の事を受け止めるから!」

 黒龍と瞳は和人の背中を擦りながら言った。その時和人の心の中では『これが仲間というものなんだ。』と感じていた。

 「ありがとう。僕から見たら二人も中々壮絶な過去を持っているけど、強い精神力を持っていて凄いよ。」

 和人は二人に目を向ける。すると黒龍はこの世界に来た時の心境を話し始めた。

 「これでも良くなった方なんだ。俺はすぐに気を持ち直したが、瞳はこの世界に来た時心が死んでいてな。本当に・・・」

 「黒龍!!!!!やめて。今は・・・その話をしないで。お願い。」

 瞳は黒龍の話を妨げるかのように、下を向きながら叫ぶ。その時瞳の手は震えていた。

 「ごめん。悪かった。」

 黒龍は思った事をつい口に出してしまう癖を持っている。それが原因でよく瞳を困らせていた。

 「あの、二人共!落ち着いて!ほら、ゆっくり深呼吸、深呼吸。」

 和人は声を掛け二人を落ち着かせる。

 「・・・ありがとうな、和人。」

 「私も強く言い過ぎた。驚かせてごめんね。黒龍、和人。」

 「あ、いやこれはおまじないのようなもので・・・。」

 二人はすぐに落ち着きを取り戻し、その早さに驚く和人。二人は本当に心身共に強い。

 「さてと、この話はこれでおしまいにして扉へと向かう準備をしよう。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る