02.出逢い
二人が草原の丘を駆け下りていると、RPGなどでよく見かける広場が見えてきた。中心部には噴水の跡があり、周りの建造物は廃れている。どうやら人は住んでいないみたいだ。
「あの・・・!」
「今は走る事だけに集中して!お願い。」
「わ、分かりました・・・!」
少年はその女性に声を掛けるが、会話する事を拒否されてしまった。その時彼は孤独感を覚える。
『あぁ・・・また、これか・・・。』
・・・
広場に着くとその女性は辺りの安全を確認し、安堵した顔を浮かべながら彼に声を掛ける。
「突然走っちゃってごめんね。私の名前は瞳(ひとみ)。そのまま呼んでね。」
瞳は彼の目を見ながらそう言った。瞳の彼に向けるその表情はとても明るく好意的な接し方だった。
「ハァハァ・・・突然走りだしたからびっくりしました・・・。僕の名前は和人(かずと)。和む人って書きます。それよりこの世界は・・・?」
和人は瞳に対し名前を言い、息を切らしながらもこの世界について問いかける。すると瞳は暗い顔を浮かべながら、「此処は化け物に襲われる世界。さっき貴方を襲ってきた者よ。でも化け物に関しては情報がないから倒すほかないんだ。」と言った。
「えっと・・・その化け物っていうのがこの世界に沢山いるって事ですか?」
瞳はただ頷き、それを聞いた和人は戦慄した。するとそこへ・・・
「よう。」
日本刀らしきものを持ちながら、男がこちらへとやってくる。身長は百八十センチメートルといった所か。黒のワイシャツに黒のズボン、赤い鞘の刀。細身だが筋肉が完璧に仕上がっており、センター分けの黒髪が似合っている。しかし全身が黒色で覆われているその男は誰がどうみても危ない雰囲気しか感じない。
「俺の名前は黒龍。そう呼んでくれ。」
片足を前に出し、拳を握り締めながら言った。危なそうな雰囲気を醸し出すその男は、その恰好を見る限り厨二臭い所があるがどうやら仲間らしい。
「・・・あの・・・実はまだ状況が理解出来ていなくて・・・。なんでこんなに開けた場所なのに、僕達三人しかいないのですか?亡者達は?」
辺りを見渡しながら和人は黒龍に尋ねる。
「あぁ、実は俺もよく知らない。二十年前に俺が此処に来た時既に誰もいなくてな。何があってこの空間が出来たのかも分からないんだ。この世界は本物の”幽界”ではないという事だけは、落ちていたメモで分かっている。あの化け物に関しても、ただ俺達人間を殺戮する為だけの産物だというしかない。毎回気が狂った様に襲ってくるからな。」
「そ、そうなんだ・・・。」
意外とその男が普通の人で安心した和人はほっとしたが、黒龍の発言にがっかりした。何故ならこの世界は本物の天国でも地獄でもないからだ。和人は膝の力が抜け、その場にへたり込み、この先どうしていけばいいのか見据える事が出来なかった。その様子を見た黒龍はある事を提案する。
「この世界の真実を知る為には、あの扉を潜り抜けなければいけないと俺は考えている。せっかく俺達二人に逢えたんだ。お前も来い。」と。
遥か遠くにある巨大な扉を指差しながら黒龍は言った。それは何かに対して決心した顔だったが、和人からみた黒龍はその眼差しにどういう意味があるのか知る由もなかった。何故なら黒龍が怒りに満ちた表情をしていたからだ。しかし、指指す方向に目を向けていた和人は、すぐにその言葉に対して不安げな表情を浮かべる。
「そんな!僕は足手纏いにしかならない!それなのに共に行動していいのですか?」
引っ込み思案な性格の和人は、自信を持てないばかりか自己嫌悪に陥る。それはもう誰かに置いて行かれる事に対して恐怖心を抱く様に。
「そんなに自身の事を卑下するな。大丈夫。俺が二人を必ず守ってやる。絶対にな。それにその恰好。何か武道をやっていたのだろう?戦闘面においても申し分なさそうじゃないか。」
黒龍は和人の事を宥めつつ、二人を守る事を約束した。しかし間髪置かずに「いや私も戦えるって!あの時約束を交わしたでしょ!」と瞳は黒龍に対し強い口調で言う。
「あ、あぁ、そうだな。約束したもんな。」
黒龍は瞳に対して申し訳なさそうにしていた。
二人のやり取りを見ていた和人は『約束・・・?』というワードに疑問に思いつつも口を開く。
「まだ理解が追いついていないけど、分かりました。一緒についていきます。」
和人は二人を疑いつつも、『此処で立ち止まっていてもしょうがない。あの化け物の事も、この世界が出来た理由も知りたい。』と思っていたので黒龍の提案を受け入れた。
黒龍と瞳はその言葉を聞いて微笑む。
「それなら武器が必要ね。えーと和人の服装を見る限り、何か武道をやっていたみたいだけれど、何の武器を使う?あそこに武器が色々とあるのだけど。あと敬語じゃなくていいよ。気軽に行こう!」
瞳は廃れた武器庫を指差しながら言った。
「う、わかった。これからはタメ口で話す事にするよ・・・。うん。僕は生前空手をやっていたんだ。だから手足に身につけるサポーターはないかな?」
和人は武器庫へと歩き何かないか探し始めた。
「おぉ!空手をやっていたのか!」
黒龍は和人の発言に喰いつく。
「うん。一応黒帯までいったんだ。」
「武道空手?極真空手?どっちをやっていたんだ?」
「極真空手をやっていた。勿論自身を守る為にね。」
それを聞いた黒龍はなるほどとリアクションをする。
「じゃあ俺と同じ近接型だな。全力でサポートするぞ。」
「ありがとう。」
和人は黒龍に対しそう受け答えをし、落ちていた拳用の鉄製サポーターを拾い身につけた。
「これはどうかな。足のサポーターはなかったけど、動きやすいし戦闘にも活かせそうな気がしないかな?」
「いいじゃん!かっこいい!」
「おう、似合っているぞ。」
その言葉を聞いた和人は、褒めてもらえた事に対して嬉しそうだった。
・・・
武具を身につけた後、三人揃って広場の椅子に座っていると和人が突然口を開く。
「あの、その、すごく言いにくい事なんだけど・・・。」
「ん、どうした?」
「ちょっと人と話すのが苦手で・・・それに容姿もあれだし・・・。」
和人は下を向きながら二人に対し申し訳なさそうな発言をしだす。しかし黒龍はそれを止めた。
「和人!!そんなこと言うな。人は十人十色。どんな性格であってもいいじゃないか。人と話すのが苦手と言ったが、それは逆に言うと人の考えている事を理解し、共に支えあう事が出来るという事。それって素敵な事だぞ。それに容姿なんて関係ない!その人自身を現すサインなのだから。」
「そうそう。和人の目を見て分かったわ。とても優しい子だって。だからちょっとした事でも一人で抱え込んでしまう事が多い筈。でも私達は話すのが苦手という理由だけで、和人の事を見捨てたりしないわ。だからそんな悲しそうな顔をしないで!」
二人は真剣な顔で言った。
「あ、ありがとう。あ、あれ、おかしいな・・・。なんで涙が・・・。」
和人は二人の言葉を聞いた瞬間、涙が止まらなくなる。
「あっえっ!?俺なんか悪い事言ったか!?」
「黒龍。察しが悪すぎるよ。和人、貴方の生前の事は分からないけれど、その様子だと生前辛かったんだね。でも此処で巡り逢えて良かった。私達が絶対に和人の事を守るから!」
瞳は和人の頭を撫でながら手を差し伸べる事を約束した。
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