第6話 人間の業を練り込んだ巨大なシステムと組織ってのは、暴力以外で変わったことがない

 人間の業を練り込んだ巨大なシステムと組織ってのは、暴力以外で変わったことがない。人類史に例外があるなら教えてほしい。



 今日の現場は丸の内だ。午前中早々に熱中症で倒れた職人が救急車で搬送されて、工事車両の出入りが止まっている。


「昼休憩明けまでダンプこないよ」


 喫煙の手振りを見せながら解体屋のおっさんがゲートを出ていった。



 東京駅周辺の再開発は三井三菱の不動産屋、鹿島清水のゼネコン、天下り役人の三つ巴カルテル&談合の縁故資本主義で回っている。


 末端の警備員のオレでもわかる露骨さは、江戸が東京になって以来延々と続いているシステムだ。



 この惑星上まっすぐ歩いて4万キロが酷暑と資本におおわれている。どこにも逃げられない。


 貧乏人とシロクマはとばっちりで追い詰められて真っ先に死んでいく。オレもオマエらの大半もそんなところだろう。



 規制がはずされて見上げるビルはどんどん高くなる。わずかに残ったあの空中にも値段が付いているって話さ。


 海とか山とか空とかに、オレとオマエらの地球に値段が付く仕組みがいくら考えてもわからねぇ。



 早めの昼休憩で現場を離れた。


 いい加減にしようかと思うんだけど、この丸ビル裏の通りにイチャモンつけとくか。三菱初代から受け継がれた土佐の田舎もんの夢みたいなこの通りに。


 やめとこう、今日は耐えられないぐらい暑い。



 土佐の田舎もんのせいで、お洒落すぎて眩暈がするガラス張りのカフェで昼食をとる羽目になった。


 安全靴に制汗Tシャツ、頭にタオルを巻いたオレは、お冷やを一気飲みして深呼吸しながら、コップを静かな儀式のように置いた。



 和風ハンバーグ定食を半分ぐらい食べた頃、スーツ野郎たちの視線に違和を感じた。昼時の混んだ店内を見回すと、ほとんど全員が壁に架けられたテレビを見ている。


 緊急特番では安倍晋三元首相が撃たれて倒れ込む場面と、下手人が取り押さえられる映像が繰り返されていた。



 やられた


 オレの心の第一声だ。オマエはどうだった?


 だいぶ昔のオウム真理教事件の時も、秋葉原の時も、東日本大震災の時も、あらゆる戦争とテロの時も、そう思った。


 戦争もテロも殺人も、やるのはオレだと思っていたからだ。



 ところで「オレ」のことなんだけどね、「オレ」の正体を山上徹也にして書き進めてたんだ。


 でもなんかやめたって気分になって、結局「オレ」は「オレ」のままにして書き直すことにした。


 じゃあオレとかオマエとか誰なんだよ、人称がぶれてるだろうが下手くそ。


 余計なお世話だ!


 webに無料であがってる小説にイチャモンつけてるオマエの人生を振り返れ!


 こうやって人称で間合いを揺らしている間になんかどっかに辿り着くんだよきっと、たぶん、しらねぇけど。

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