第3話 新宿区に住んでいるやつの全員が手首を切るわけじゃない、半分だけだ

 新宿区に住んでいるやつの全員が手首を切るわけじゃない、半分だけだ。目黒区の連中はお洒落なブサイクが半分だけど、残りの半分はオレには見えていない。


 月を満たすことはできるのか? オレは残り半分の区民を書けるのか?


 今回の小説は行方不明になったオレの半身を探す旅だ。陰陽おんみょうの神秘の探究にオマエも付き合えよ。日の当たる場所へいくぞ、オマエもオレも、光あるうちに。そして残り半分の光を反射してオマエらにこう言うんだ。


 いつも読んでくれてありがとう、みんな大好きだ。


 ………むりだ。言ってはみたけども、わるい病気にでもなりそうだ。


 半身もなにもあんたは最初からそういう奴なんじゃないの。


 まただ、またオマエの心の声だ。いまのオマエの突っ込みはオレを深く傷つけた。人を闇の申し子あつかいしやがって。いいだろう、今話もオマエを不快にさせてやる!


 オレがいま警備しているこの建築現場、色気も風情もないぼったくりマンションが建つわけだけども、その建物名がグローヴエアタワーだ。


 反応なしか。きょとんとしたアホ面が目に浮かぶぜ。


 じゃ、これはどうだ。道路挟んで向かいのガラス張りの美容院、オレは目の前に突っ立ってるからな、金髪のにいちゃんとねえちゃんが客を送り出すたびにお互い会釈はしている、その店の名前が、


 サロン・ド・ニューヨーク。


 パリでもなくニューヨーク、ここは新橋。


 どういうつもりだ!? うそだと言ってくれ! おぞましさと恥ずかしさで震えるわ! 港区だからって許されるわけじゃねぇんだよ! 足立区だろうが埼玉だろうが青森だろうがベルリンだろうがみっともないものはみっともないんだよ、この田吾作たごさく野郎! てめぇんとこのそのセンスで髪なんぞ切ったらどんな有様になることか、美容師免許を返上して客と一緒にゆりかもめに轢かれろ!


 グローヴエアだ、サロン・ドだ、品川ゲートウェイだ、新宿タイムズスクエア、南千住のケチなマンションでアーバンパレス……。SDG’sとかダイバーシティとか意味もわからずにほざくマヌケが住んでそうなレジデンスとかヴィラとかプルミエールとか! どの面下げて住所蘭に記入すればいいんだよ。爆破してやりたい!


 余談だが、無駄に英語を絡めてくる高学歴風のバカは、ろくでもない田舎者か、そもそも言葉を理解していないか、なにかを誤魔化そうとしているか、その全部だ。どれかひとつでも最悪だ。余談ついでに田舎者いなかものとは地方出身者のことでは断じてない、誤解しないでくれ。桜は桜! 梅は梅! 梅が桜になろうとするから梅本来の香りも美しさも失う、そういうイタい奴を田舎者というのだ。


 なあ、真顔で聞くけどオマエらはこういう救いようのないダサさにいままで本当に気がつかなかったのか? 気にならなかったの………?


 手がつけられねぇほど愚鈍ぐどんであるよキサマという奴は! 


 また現場の技能実習生のベトナム人に笑われるだろうが! 今後もなにか、世界中の留学生に「かっこいいと思ってるの?」なんて憐れみの微笑で突っ込まれるたびに、オレが赤面しながらこの手の歴史的民族的ダサさを弁解しないといけないの? なんでオレが? 小5の頃からJ-Popのインチキ英語にいちゃもんつけてたのはオレなのに?


 理不尽なり! 呪いあれ! 末代までの呪いあれ!


 いいかオマエら、もう一度言うぞ。見ているということは見られているということだ。少しは恥を知ってくれよほんとに、もういい加減にしようぜ。植民地じゃねぇんだよ、自分をみつめて意識をアップデート、


 ぎゃぁあ!!


 毒された、オレも毒された! アップデートってなんだばかやろう! だめだ、またくらくらしてきた。オレはこの小説書き始めて、月の暗い面ばかり見て怒り狂ってるから、本当に気分悪くなって最近体調崩してしまったんだ。熱がでてまる二日も無駄にした、オマエのせいでな!


 こんなに大変な思いして書いてんだからはやく『カンナカムイの翼』読んでこいよ。途中でやめるなよ、終章まで読まなかったらオマエとは絶交だ。飛ばし読みもだめだぞ!

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