第6話 過激になる挑発

 保坂さんと田辺さんとやった“初練習”の翌日。俺はいつも通り登校する。…先に登校している2人の様子に、変わった様子は見られない。


下手に気を遣われるより良いか…。昨日練習して分かったが、1人の時間は退屈ではあるものの、休息の時間でもあるようだ。


同時に女子2人の相手をするのが、あんなに疲れるなんて思わなかった。今の俺には、練習ぐらいの短時間がちょうど良い…。



 そして昼休みを迎える。普段と変わらず弁当を完食して少し時間を潰した後、昨日の場所に早歩きで向かう。いつの間にか、2人は教室にいなかったからだ。


到着するとやはり2人は既にいた。待たせてしまったか…。


「遅いわよ目黒君!」


どう見ても、保坂さんの機嫌はよろしくない。


「すみません…」


「そんな事は良いから、早くやろうよ~」


田辺さんのゆるい口調が空気を和ませる。俺と保坂さんの2人きりだったら、終始険悪な雰囲気だろうな。


「それもそうね。田辺さん、昨日の立ち位置を逆にすれば良いかしら?」


つまり俺の後ろに保坂さんが立ち、前に田辺さんが立つ事になる。流れ的にそうなるのが無難だ。


「それじゃダメだね」


「? どうして?」


「満員電車は甘くないよ~。いつも昨日みたいに整列できるとは限らないんだから」


「じゃあどうするのよ?」


俺も気になるぞ。俺達は田辺さんの言葉を待つ。


「めぐろくんとほさかさんは、背中を合わせるようにして立つの。んで、あたしはめぐろくんと向かう合う感じかな」


向かう合う? 昨日よりハードルが高いぞ。


「電車に乗らない私は、田辺さんの言葉を信じるしかないわ。目黒君もそれで良い?」


「良いですよ…」

そもそも、俺に文句を言う資格はあるんだろうか?


「時間はとりあえず“5分”にしましょうか」


「わかりました」


「オッケ~♪」


いよいよ、昨日より大変になる練習が始まる。



 保坂さんは俺に背中を合わせて立つ。といってもくっ付いてる訳じゃなく、昨日の“小さく前にならえ”ぐらいの距離は空いている。


後ろからスマホをタップするような音が聞こえるから、保坂さんはそれで時間を潰すみたいだな。


一方、俺の前にいる田辺さんは何故かニヤニヤしている。どう考えても怪しい。


…なんだ? 口に指を当てて“しーっ”と言ってるように見える。って事だな。騒いだら保坂さんがキレるだろうし、そんな事はわかっている。


俺が頷いた後、田辺さんは制服の上から自分の胸を揉みだした。手の動きに合わせ、胸は形を変えていく。あまりのエロさに目が離せない。


ある程度やってから、今度はスカートのすそを持ってパタパタ動かし始める。ただでさえ短いスカートなのに、そんな事したらパンツが見えちゃうじゃないか!


田辺さんは俺の反応を見て楽しんでいる。からかってるのはわかるが、目の前でこんな事されて見ない陰キャがいるか? 少なくとも俺は無理だ。


彼女はこれをやるために、保坂さんを後ろ向きにさせたんだな。何も言ってこないって事は、スマホに夢中になってる証拠だ。


俺のは8割がた大きくなっている。せめて昨日ぐらいに抑えないと保坂さんに何を言われるか…。考えただけで恐ろしい。


落ち着くには羊を数えれば良いんだっけ。…違う、それは寝る時だ! こんなミスをするぐらい、俺は冷静さを失っている。このままだとマズイ!


俺は田辺さんの過激な挑発を見ながら、平常心を保つように努める。そして……、練習の終わりを告げるアラームが響き渡る…。

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