第5話 初めての練習②

 俺は今、前にいる保坂さんと後ろにいる田辺さんに挟まれている。距離は“小さく前にならえ”ぐらいだな。これだけでも、刺激は意外に強いものだ。


というのも、保坂さんのブラが少し透けている。夏服だからこそ起こるトラブルだな。ジロジロ見てはいけないのに、男の本能に抗えない…。


それに加え、彼女から何やら良い匂いがする。同じ自転車通学なんだから汗臭くてもおかしくないのに。好みの匂いは興奮を誘う…。


前の刺激はこんな感じだが、実は後ろからも刺激を感じている。何故か時々、背中あたりに柔らかいものが当たる感じがするのだ。


田辺さんは何やってる? そう思って振り返ったら…。


「めぐろくん、振り返っちゃダ~メ♪」


あれ? 何もしていない? 俺の勘違いだったのか?


「目黒君、挙動不審も痴漢に間違われやすいから大人しくしてて!」


振り返った保坂さんに注意された。


「すみません…」


気を取り直し、練習を続行させる俺だった。



 「…そろそろ3分になるわね。今はこれぐらいにしましょう」


スカートのポケットからスマホを取り出して確認した保坂さんが言う。その後、俺と向き合うため振り返る。


それに合わせ、田辺さんも俺の前に移動した。


「目黒君。一応訊くけど、何ともないわよね?」


保坂さんの透けブラと良い匂い、そして背中に当たっていた謎の柔らかいもの。この3点により…、俺のは中途半端に大きくなっている。


なので“何ともある”んだが、保坂さんにそれを言う訳にはいかない。


「今からチェックするからね~♪」


あろう事か、田辺さんは俺のに対して尻を擦りつけてきた。スカートとズボン越しとはいえ、この感触は良いものだ…。


「田辺さん、何やってるの!?」

驚きをあらわにする保坂さん。


「見た訳じゃわからないでしょ? あの時もこんな風になったんだからさ~」


先生の話によると、電車の急ブレーキのせいで不意に接近したらしい。今と状況は全然違うが…。


「……少し大きくて固い気がする」


やはりこれだけ至近距離だと、些細な変化も感じ取れるようだ。結果がわかって満足したのか、田辺さんは擦るのを止めた。


「目黒君、私と田辺さんは立ってただけなのよ? なのに何で興奮する事になるの?」


「それは…」

どう説明しても、怒ってるように見える保坂さんを納得させられるとは思えない。


「とりあえず、目黒君も加害者になる可能性がある事がわかったわ。今回は私達だから良かったものの、もし違う人だったら…」


正論過ぎてぐうの音も出ない。俺、電車に乗れなくなりそう。


「カリカリしちゃダメだよほさかさん。そうならないように、あたし達が練習するんだから。…ね?」


「それもそうね。この学校はもちろん、私がいるクラスからそんな疑いが出る人は出て欲しくないわ」


2人共、変わらず練習を続けてくれるみたいだ。ちゃんとお礼を言わないとな。


「保坂さん・田辺さん、本当にありがとうございます…」


「目黒君以外にも気になる男子はいるから、なるべく早く慣れてよね」


「はい…」


「あたしは他の男子にやるつもりはないから、ゆっくりで良いよ~。こういう事がないと、陰キャのめぐろくんと遊べないからね~」


あれを遊びと見なすのかよ。考えが違い過ぎて、俺とは違う世界の人みたいだ。



 「それにしても、これからどうしようかしら? もっと簡単にしないと…」

保坂さんは考え込んでいる。


“挟んで立つ”という初歩の段階でんだ。難易度を下げる流れになると思うが、確かに方法が思い付かない。


「あえて、もっと過激にするのはどう?」


「田辺さん、どうしてそんな考えになるの?」


俺も同感だ。理由を知りたい。


「“毒を以て毒を制す”ってやつだよ。過激な事が当たり前になれば、挟まれる程度じゃ大きくならなくなるよ。電車の中で過激な事をするのは無理なんだからさ~」


「何となく言いたい事はわかるけど、危険な賭けよ? もし目黒君が暴走したら…」


保坂さんに心配されるまでもなく、俺も不安だぞ。


「そのために女子2人体制になってるんじゃん。先生もそう言ってたよね? めぐろくん?」


「そうですね…」

俺を話の輪に入れるために声をかけたのか。意外に優しいな。


「一応、可能性の1つとして覚えておくわ」


田辺さんが言う“過激な事”ってなんだろう? 気になるが訊く勇気はない…。



 「…2人共、そろそろ昼休みが終わるから教室に戻りましょう」

スマホを確認した保坂さんが言う。


「はいは~い」


「わかりました…」


「明日からは直接ここに集合ね。それで良い?」


「俺は良いですよ…」


「あたしも~」


それからは会話ナシで教室に戻る俺達3人。練習の終わりは全然見えないが、少しずつ頑張るしかないな。

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