第2話 とんでもない対策
担任の
あの件は満員電車内で起こった事だ。自転車通学の俺には関係ないからありがたい。電車通学の男子のトラウマにならないと良いが…。
そして、朝のホームルームを迎える。先生もいつも通りの時間に教室に来て教壇に立つ。
「昨日言った“対策の件”が決まったから話すわね」
女子に急接近して興奮した男子のあそこが事の発端だが、それを何とかできる訳ないだろ。対策できたら苦労しない。
「対策は…、“男の子が女の子の接近に慣れる事”よ」
どういう事? 俺の理解力が足りないだけか?
「えーと…、今から詳しく説明するからね」
先生の反応を見るに、みんなもわかってなかったか。
「例の男の子は、女の子に触れ合うぐらい近付いた事がなかったらしいの。だからあの時、興奮してあそこを大きくしちゃった訳で…」
俺も同じだ。って事は、状況次第で俺も加害者になるかもな。
「そこで、満員電車のような場面を想定して練習するの。そうすれば興奮する事はなくなるでしょ? 初めての事じゃないんだから」
そんな思い通りになるか? 先生は男心がわかってないぞ…。
「具体的には、男の子の前後を女の子が挟むように立つの。片方ずつ練習するより効果あると思うわ」
確かに緊張は2倍になるから、うまくいけば効果は見込める。
「…あの、それは強制ですか?」
学級委員長の保坂さんが遠慮がちに訊く。
この練習、どう考えても女子の負担が大きい。やりたくないよな…。
「いいえ任意よ。今からアンケートを取るからね」
そう言って、先生は1枚のプリントを最前列の人に渡す。
それは後ろに回されていき、やがて全員に行き渡る。
すぐ確認すると、名前欄の下に『参加“する”か“しない”に〇をつけて下さい』とある。
「もちろん男の子も任意だからね」
先生が補足する。
俺はどうしよう? 電車に乗らないから、痴漢に間違われる事はない。でも、大学生や社会人になったら乗る可能性がある。その時を考えたほうが良いかもしれない。
…それに、この練習をきっかけに女子と話せるかも。このままでは女子とは無縁の高校生活になること間違いなしだ。それだけは避けたい。
俺は参加“する”に〇を付ける。これで終わりか?
「参加する女の子は、“そばに立っても良い男の子の名前”を書いてちょうだい。この練習は、絶対女の子2人で行うからね」
そんなに強調する事か? 気になるから、保坂さん訊いてくれないかな?
「先生、どうしてそこまで2人にこだわるんですか?」
俺の思いが通じたみたいだ。助かるよ保坂さん。
「興奮した男の子が、女の子に手を出すかもしれないでしょ? その対策よ」
「興奮ですか? そばに立つだけですよね?」
「昨日も2人きりの時に言ったけど、男の子の性欲を甘く見ちゃダメ!」
こういう話題だから、保坂さんは他の人に聴かれたくなかったんだな。しかし先生はそれを忘れたのか、全員いる場で答えている…。
保坂さんもわかってると思うが、あえて指摘しないようだ。
「男の子1人・女の子2人のグループで行うからね。うまくマッチしなかったら、そのグループは成立しない事になるわ」
つまり、俺のそばに立っても良い女子が2人以上いないと練習できない事になる。そんなの無理だ。1人だけでも厳しいのに2人なんて…。
先生が話し終えて数分後。プリントは回収された。
「グループの成立については、明日の朝教えるからね。さて、1限の準備をしてちょうだい」
女子と話せるようになるかも? なんて甘い幻想は今の内に捨てないと。このクラスにはイケメンの阿部君と山内君がいる。
彼らに女子の希望が集まるはずだから、大抵の男子は脱落確定だ。落ちるのがわかると気が楽になるな~。そんな風に自虐しながら、1限の準備を始める。
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