隻眼の王
白煙が舞う。赤い煙管を手にしたまま眼を伏せた。
「くとるふの身体も動かせん。あれは一種の仮死状態かもな」
地獄は一先ず稼働しはじめ、大王の裁判は他の者が代わりを務めている。ただ大きなクトゥルフの身体はその場に固定されているように、びくともしない。
「前の世界では見なかった。途中で奴は逃げ始めたからな」
煙を吸う。サタンによってつけられた傷は、地獄の薬草を塗り込んでやっと治り始めた。滅多に巻く事がない包帯に窮屈さを感じながらも身体を伸ばす。
「元の世界に戻る気配もない。まだ暫くは世話になる」
それに大王は短く返し、立ち上がった。閻魔庁の様子を見に行くらしい、横たわるサタンを一瞥した。
「ああ、その煙管だが貴殿にやろう」
思いついたように振り向いて言った。閻魔は驚いたように顔をあげる。
「貴重な物だろう。いいのか」
「うむ。構わん」
それだけを言うとさっさと立ち去った。ややあって煙管に視線を落とす。果たして別の世界のものを持って帰る事は出来るのか……微妙な不安を感じつつも咥えなおした。
現世、名も無き坊主は額から落ちる血に片眼を瞑っていた。
「龍!」
舌を巻きながら呼ぶ。黒い龍が飛んでくる。跳びあがり、頭の上に乗った。
一気に上昇する。そうしてやっと、顔の辺りに辿り着く。
『我の光線も効かなかったぞ』
それに坊主は眉根を寄せ、折れて長さがばらばらになっている角を掴んだ。錫杖を肩に置く。
「急に動き出したと思ったら、また一段と強くなってるってどういう事だよ」
舌打ち混じりに愚痴る。相手は現世に突如として現れた巨大な人影、城一つを一瞬で落としたあと膝を抱えて停止していた。
だが丁度、クトゥルフが本調子を取り戻した辺りで動き出し、坊主はこれ以上被害を広げないように足止めしていた。札の効果もあり、倒す事は出来ないがそれ以上移動する事はなかった。
然し地獄でクトゥルフが倒れた後、連動するように突然力が増した。地上で動きを封じていた坊主は、気がついた時には空中に打ち上げられていた。
しかも上から蠅叩きのように手が迫ってくる。幾ら簡易的な結界を張れるとはいえ、中身はただの人間だ。力の加わった手に叩かれて地面に衝突すれば良くて大怪我、悪くて死亡だ。
危機一髪の状況に龍ノ王が反応し、一番本体に近い幻影を飛ばした。ぎりぎりのところで坊主を咥え、その危機は脱した。
とはいえ相手の力も速度も、動き方さえ全てが変わっていた。
龍ノ王の幻も一部がちらちらと明滅している。札も殆ど使ってしまった。どうするべきか……坊主は相手の攻撃が届かない距離からじっくりと観察した。
「ん?」
何かを見つけた。眼を細める。
『む』
龍ノ王も見つけたようで、その場に止まる。
「ありゃあ……心臓か?」
人影の胴体。丁度真ん中の辺りがほんの僅かに透けている。
この後ろからの位置だと太陽光が上手い具合に作用して透けるようで、じいっと眼を凝らすとどくんどくんと動いている何かが見えた。
『ううむ。心臓にしては随分と歪な形だがな』
「ああ。だが攻める相手が見つかった」
しゃりんっと錫杖を鳴らす。懐から残りの札を取り出した。囮用の札で、確実に相手を誘導できる。これが効くかどうかは分からないが一か八かだ。
地面に投げつけるとすぐに発動し、名も無き坊主を模した人形が現れた。すると人影の意識が向いた。
「龍、頼む」
拘束の札もそうだったが、どうやら力を増した今は直接的な攻撃の札以外は大抵効くらしい。今更それを知ったところで意味はないが。
錫杖を右手に持ち替え、龍の眼の上まで出るとすっと引いた。そして歯を食いしばり、最大限の力で投げた。
矢のように真っ直ぐ飛ぶ。これがどうなるか、上手く行くのか、坊主は落ちないように角を掴みながら退いた。
皮膚に触れた瞬間、錫杖がずぶりと中に入った。速度を落とさずそのままの状態でだ。
他の部分は見た目に似合わず岩のように硬かった。明らかにそこだけが違う。
そして錫杖の先が心臓らしきものに触れ、一気に突き刺さった瞬間。人影は空を仰いで悶え、手を上に伸ばした。
一瞬にして身体が消えはじめる。上手くいったと息を吐く頃には綺麗さっぱり居なくなり、錫杖だけが回転しながら落ちていった。
地獄、坊主が人影を倒したのと同時、クトゥルフの身体が一際大きく揺れた。周囲にいた獄卒は驚き、瞬時に拷問道具を抱えて警戒した。
責任者でもある最年長の鬼が槍を使って頭をつついた。刹那、更に大きく身体が痙攣しはじめ、転げだす。その巨体に巻き込まれそうになり、獄卒達は散り散りに逃げてうち一人が裁判所へ向かった。
クトゥルフが動き出した。その報せを受けて先に飛び出したのは勿論閻魔だ。
煙管を咥えながら腕を出しつつ着物を脱ぐ。龍の絵は血と薬の染みた包帯で隠れていた。
前髪をあげ、口の端から煙を吐いた。走り込む勢いのまま起き上がりつつあるクトゥルフの頭を殴った。
ごろごろと巨体が転がる。身体はびくびくとまだ痙攣しており、思うように動かせないようだった。
すかさず追撃を加える。脚をおろす。然し覚醒しはじめたのかクトゥルフが避けた。
地面に大きなひびが入る。起き上がった相手の裏拳が背中に迫る。
「動くな」
どんっと空気が切り替わり、クトゥルフの身体がその状態のまま止まった。威圧的で有無を言わさぬ気配。閻魔でさえぞわりと身の危険を感じて振り向いた。
「やっと覇気が効いた」
大王が静かに近づいてくる。その道中で右腕を袖から出した。
獄卒も亡者も全員、覇気に圧されて動く事が出来ない。イザナキと大王が使える、神力とは別の力だ。
そうして安全にクトゥルフまで近づいた瞬間、重たい拳を腹に入れた。太い腕に血管が浮かぶ、生まれつき途轍もない怪力を持つ彼の一撃は巨体を空に打ち上げた。
素早い動きは出来ないし格闘術も何も身についていない。だがその怪力による渾身の一撃はかなりの破壊力だ。
腹周りの皮膚は破れ、内臓も一部破裂した。ごぼっと撒き散らしながら制御の効かない身体を浮かばせる。そこに跳びあがった閻魔が上から腹を狙う。
地面に叩きつけられ、土埃が舞い上がる。獄卒達が眼を伏せたり咳き込むなか、二人の王はクトゥルフの姿を確認しようと集中した。
その時だ。土埃が押しのけられ、宇宙のような霧が一気に現れた。眼を丸くし、閻魔は跳び退いて逃げ、大王は地面を動かして離れた。
だが霧は一瞬のうちに地獄全体を支配。暗く、だが明るい、その世界の原点の景色が広がった。
「あれは……」
大王は空を見上げて呟いた。腰をあげる。一番上に浮かぶのは炎を纏った太陽。
「アマテラス様とは別の……?」
この世界において太陽は彼女しかいない。彼女が太陽であり、それ以外は存在しない。
『太陽も月も、我々のものだ』
全体から響く重低音。刹那、空から一人の女が降ってきた。
「アマテラス様!」
大王がすぐに気が付き、そのまま地面を動かす。だが黒い手が無数に現れ、彼女に伸びるそれらを破壊した。無論、大王自身にも四方八方から来る。
「ダーナ! 一体何が!」
ヤミーの神力で手が破壊され、拓けた方から逃げた。その後を追う数本に聖剣が突き刺さる。
『(戻ってきてみれば、なんなんだこの騒ぎは)』
一時的に母国へ帰っていたガブリエルが甲冑の姿で現れた。
「それよりアマテラス様だ!」
振り返る。彼女が落ちる下にはどろどろに溶け始めたクトゥルフがいた。
下半身はもう地面に広がる闇と同化している。彼女を受け取るように両手を伸ばしていた。
「くそっ、」
一つ跳べばアマテラスのもとに辿り着く。然し閻魔の両脚は地面に伸びる闇にまとわりつかれていた。無数の手が脚を掴み、着物を掴む。
判断が遅かった。一秒でも速ければ掴まれる前に跳びあがれた。
ぎりっと歯を鳴らし、首筋に血管が浮かぶ程の力で右脚を持ち上げた。だが間に合わない。一瞬引き戻され、もう一度上げても引っ張る力の方が強い。
閻魔と下の力に負け、着物の一部が音をたてて破れはじめた。視線をあげる。
アマテラスの身体がクトゥルフの両手のなかに落ちていく。だが獄卒達は手も足も出ず、大王らは無限に湧いて出てくる手に妨害されていた。
びりっと更に破ける。闇は腰の辺りまで迫っていた。
刹那、耳と眼を劈く稲妻が落ちた。
アマテラスをぎりぎり避けてクトゥルフの顔面に命中する。大王がはっと視線をやった。
空には全身に雷を纏って白く輝くイザナミの姿があった。
「あたしの子に、この国の最高神に気安く触れるんじゃないよ!」
響き渡る声。それに怒り狂ったクトゥルフの轟音が返り、ほぼ全員が反射的に耳を塞いだ。
イザナミはその音に跳ね返され体勢を崩し、落ちはじめる。そもそもあの落雷だけでかなりの体力を使った。立て直すだけの気力はない。
然し一人だけ、近くにいながら動く事が出来た。
「お前は私を怒らせた」
すんっと一瞬静まる。宇宙に浮かぶ太陽を背に、持っていた鞘から大太刀を引き抜いたアマテラスがクトゥルフを見ていた。
刀の影になった双眸は炎の色とも太陽の色とも言えない光り方をしており、真っ直ぐに旧支配者の眼を見ていた。
刃が斜めに振られたあと、クトゥルフの身体が大きくズレた。その拍子に地面に広がっていた闇が引き、閻魔が動き出した。
ふわっとちぎれた布の一部が舞う。
アマテラスを抱え、そのままイザナミも腕が多いのを活かして受け止めた。びりっとした刺激と太陽のように熱い身体を抱えながら、裁判所の方に向かう。
然し既にクトゥルフの身体を攻撃しても意味はないのか、閻魔を狙って無数の手と共に地面の闇が再度広がった。まるで生きている水のように。
「ちっ」
脚が重たくなる。瞬時に跳んで移動する方法に切り替えたが、着地するその一瞬にぐっと掴まれ次の飛距離が短くなった。
「母上を先に。私の事は降ろしてください」
腕に座るような形で抱えられているアマテラスが言った。無視をする。
然し彼女は本気でぶちギレている状態だ。閻魔の肩に手を置いた瞬間、じゅっと音が聞こえ痛みと共に反射的に腕を離した。
少し落ちるように彼から離れる。
「おい!」
跳びながら振り返る。アマテラスは刀を支えに立ち上がり、そのまま足元の闇を斬り裂いた。全く聞く気がない。
舌打ちをし、一先ずイザナミだけでもなんとか裁判所の近くに運んだ。
「全く動けん」
大王、ヤミー、ガブリエルへの妨害はまだ続いており、対処するだけで精一杯な状況だ。大天使として戦闘経験も豊富なガブリエルでさえ、隙を狙って抜け出そうにも上手くいかない。
『(くそったれ!)』
天使とは思えない暴言を吐き散らしながら聖剣を振るう。全くもって埒が明かない。
恐らくもう覇気は効かないだろうし、そもそも襲ってきているのはクトゥルフの力そのものだ。相手の神力に覇気は無意味だし、まず余裕がない。
どうするべきか……ヤミーも自分も地獄を荒らす妖怪や悪霊を対処するだけで、ここまでの戦闘はした事がない。専ら牛頭馬頭に任せているし、三途の川の夫妻も恐らくまた亡者達を守っているはずだ。
地蔵菩薩を呼び、スサノオを地獄に呼ぶか……いや幾ら耐性があるとはいえ長時間は無理だ。ヤミーはそもそも別の国の神だからあの世もこの世も関係ないが、自国のあの世に生きた神がいるのは難しい。
アマテラスも地獄には慣れていないから実際はかなりの負荷がかかっている。そして我々も、このままでは体力を消耗して終わるだけだ。自分は死なないがガブリエルは頭を潰されれば死ぬし、ヤミーも人間と同じく死ぬ。
「……ヤミー、儂を見てくれ」
「え?」
黒い髪が舞う。
「まさか、ダメだダーナ」
「他に打開策があるか。閻魔殿に任せてばかりもいられん」
「ヤマ!」
双子は自由自在に姿を変える事が出来る。だがその条件は第三者に見てもらう事、でなければ形が定まらず人以外の何かになってしまう。
ヤミーの視線が条件となり、大王は姿を変えた。
それは生前の姿。死んで新たな神となった彼にとって、生前の姿は別の神を模倣するのと同じだ。
幼い少年の姿だった。上裸に幾つもの装飾品や模様があり、膨らんだぼったりとした履物には金の刺繍が施されていた。
ふわりと一つに纏めた三つ編みと耳飾りが揺れる。ヤミーはその姿を見て涙を浮かべ、ややあってぐっと噛み締めた。
瞬間、ヤマの姿に戻った大王はその場から消えた。生前の彼は若く瞬発力も桁違いだった。その頃の力を思い出しながら、クトゥルフの前で神力を使った。
手のあいだに産まれたブラックホールのような塊。圧倒的な力。ヤマは上を向くとその塊を太陽に向けて放った。
生前の神力を無理矢理使った反動で口と鼻から血が出た。姿がちらつき、大王とヤマの両方が重なる。そのまま落ちながら放った球体を見つめた。
太陽に触れた瞬間大爆発を起こし、爆風が地獄を襲った。閃光で全てが一瞬白くなる。
腕を退け、眼を開ける。空が元に戻っていた。
中央にはクトゥルフだけが残っており、固まっていた。まるで強い衝撃を受け、身体が硬直したように。
閻魔はすぐに視線を巡らせた。大王の姿を見つけ、駆け寄る。
「おい、大丈夫か」
元の姿に戻っており、頬を少し強めに叩いた。ぐっと眉根が寄ったあと左眼が開く。
視線が合った。
「後は貴殿がやれ。儂は疲れた。老体にはきつい」
大きな手で閻魔の肩を押す。ふっと息を吐く彼から視線を外し、腰をあげた。
「……アマテラス」
足を踏み出し、手の関節を鳴らす。
「はい」
クトゥルフの首ががくがくと動き、こちらを見た。下半身は溶けており動く事は出来ないらしい。
「我が頭を潰す。心臓があるかどうかは分からんが、とにかく突き刺せ」
膝を折り、飛び出す構えを見せる。
「貴方如きに指図される程私の位は低くない」
ふっと笑った閻魔が先に頭に向かって跳び、アマテラスが続いて刃を振るった。
然し黒い手が彼女を吹き飛ばす。どんっと地面に転がり、刀が音をたてて跳ねた。
閻魔がすぐに状況を判断し、ふわりと舞って回避した。下を黒い手刀が過ぎていく。
ヤミーもガブリエルももう動く気力はない。アマテラスもここまで吹き飛ばされた経験はなく、転がったままだ。
一人で最後まで追い詰めるか、いや無理だ。右から左から、上も下も斜めも全てから攻撃が来る。
クトゥルフの身体からは離れず、小回りが効くのをいい事に回避し続ける。だが隙がない。これだけの巨体なら回避した先でついでのように殴っても意味はない。確実に重たい一撃を加えなければ……。
その時、ぐさりという音と共にクトゥルフの身体が揺れた。長い刀身が貫いており、血が滴り落ちる。
勢いよく抜かれ、またもう一度突き刺さる。
クトゥルフが手で相手を掴もうとするが、閻魔がそれを阻止。一切怯まずに柄を掴み、胸の中心を根元まで深く貫いた。
と同時に隙の出来た閻魔が跳びあがり、脳天を今度こそ叩き割った。そのまま華麗に動き、球を蹴るように顔面に叩き込んだ。
ぶちっと首がちぎれ、吹き飛ぶ。ごろごろと幾らか転がったあと、クトゥルフの腕がだらりと下がった。
根元まで突き刺した刀を引き抜く。身体も前のめりになり、首のない死体が項垂れた。
「……大王、」
振り向く。刀を持っていたのは鼻や口から血を流したもう一人の閻魔大王だった。
彼は刀を地面に軽く刺すとつけている眼帯をとった。閉じきった右眼が見える。
何も言わず、眼前の彼は眼を伏せて頭を垂れた。閻魔は自分の手を見る。
「……」
半透明になっていた。
「……」
お互いに語る事はない。ただ最後に煙管を取り出して口に咥えた。
大王が顔をあげたあと、僅かに白煙が漂い空に昇って行った。
クトゥルフによって荒らされた世界は徐々に元に戻り、地獄も通常通りに稼働していた。いつも通りに裁判し、いつも通りに言い合い笑い合う。変わらぬ日常が現世でも天界でも広がっていた。
「あの閻魔様、無事に戻れたのかねえ」
頬杖をつきながら坊主が呟く。
「とっさま、見てくだせえ」
とたとたと走ってきたおりに振り向く。両手に紙を持っており、身体の向きを変えると受け取った。
「ほお、うめえな」
そこには片眼を隠した男の絵が描かれてあった。
「……また、会えるかな」
特徴的な訛りに、坊主はすぐには答えなかった。
「まあ、多分な」
高天原の屋敷のなかでアマテラスは肩を落とした。
「はああ、他所の神様に向かってなんて口の利き方を……」
あれ以来毎日毎日気にしており、仕えている弟のツクヨミに何度も注意された。
「……向こうの世界にも太陽神はいるのかな」
ふっと空を見上げる。さんさんと下界を照らす太陽を見つめた。
「大王」
馬頭からの報せに腰をあげ、廊下に出た。地獄を見渡せる場所まで来る。
「俺が寝てる合間にとんでもない事が起きてたようだなあ」
二つの席が用意されており、うち一つには髪を団子にした中年の男が胡座をかいていた。
「ええ。国、いえこの世界自体が壊されるところでございました」
同じように胡座をかく。
「まあ、うちの娘が最高神らしく戦ったんならなんでもいいや。それより大王、あんたも疲れたろう。今夜は無礼講だ」
徳利を向ける男、イザナキに対し大王は頭をさげた。杯を取る。とくとくと透明な酒が注がれた。
「にしても、もう一人の閻魔大王か。俺ももう一人いるかも知れんってわけか」
「ええ。軽く話をしましたが、イザナキ様はその閻魔大王の恋人だそうで」
「ぶっ! それは誠か?」
「はい」
「はっはは、面白いなそれは。同じ神だが世界が違えば性格も趣向も違うか」
「……」
杯を持つ右手がおりた。イザナキは地獄を見たまま問いかける。
「気がかりか」
「……ええ。サタン様による傷もまだ癒えきっておりませんでしたし、無事に元の世界に戻れたかどうか」
一つおいて、右手をあげる。酒を啜った。
「まあ姿形は違えど自分だからな。身内よりも身近な存在かもしれん。誰かそういう力を持った神にでもお願いして、そいつの行方を探ってやろうか?」
視線をやる。だが大王はかぶりを振った。イザナキからは眼帯に隠れた右眼が見える。
「もう私とは関係のない者。煙管が消えたのです、きっと無事でございましょう」
その答えにふんと鼻で笑う。
「さっぱりしているのかいないのか……まあ一目見てみたかったなあ、その閻魔大王。姿はどんな感じだった」
「若く細身でございました。左眼が奇っ怪な姿で――――――――――――――――――
煙を吐き、かんかんっと灰を落とす。
「……」
橋の下を流れていく川にぼんやりと自分の姿が写った。ふっと前髪を軽くあげる。
ややあって手を離し顔をあげた。
「隻眼の閻魔大王、か」
赤い煙管から煙があがっていった。
聖戦・隻眼の王 Re:make 白銀隼斗 @nekomaru16
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