第5話 冒険者ギルド

 オッサンの案内でギャル美とおれは最寄りの町へ行くことになった。

 荒野を横切り、現れた街道を、遠くに石造りの市壁が見えている方角へ向かう。


「別の世界から来ただぁ? そりゃどういう意味だ?」


「うちらはこの世界とは全く別の世界から来たの。そこにはスライムもいないし冒険者もいないんだよ」


「へぇ、そいつは平和なこった。で、その世界はどこにあるんだ?」


「んーと……別の星?」


「ハハッ、そこには嬢ちゃんみたいなベッピンさんが大勢いるってか?」


「ううん、うちの可愛さは世界一だから☆」


「だはは、自分で言うかよ」


 ギャル美とオッサンは声を出して笑った。いつの間にかすっかり打ち解けている。さすがはギャル美、コミュ力が半端じゃない。

 一方のおれはひたすら黙って歩いていた。仲間外れにされた疎外感もある。だがそれ以上に、おれは不安を感じていた。

 ここが異世界であることは一応理解した。不安なのは、この世界でまともに生きていけるか、ということだ。

 ギャル美が助けてくれなければ、おれはさっきのスライムに殺されていた。これから先もきっと、同じような困難がいくつも待ち受けているだろう。そんなときに、もしもギャル美が一緒にいてくれなかったら……。

 いや、そもそもギャル美がおれみたいな無価値な人間と一緒に行動してくれていること自体が奇跡なのだ。町に着き、いろいろな人々と出会ったら、ギャル美は別の友達を自然に作ることだろう。そうなったら、おれはお払い箱になるのではないか。

 元の世界では、学校で孤立していても生きていくことはできた。しかし、この世界で孤立してしまったら……?

 そんなわけでおれは、「ね、オタクくん。異世界の町、どんなとこなのか楽しみだね!」というギャル美の言葉に頷くことができなかった。



 歩き始めてから一時間以上が経っただろうか。


「うわー、近くで見ると迫力ヤバー!」


 おれたちは町の門の前にたどり着いていた。ギャル美の言うとおり、たしかに近くで見る市壁と門は巨大で迫力があった。門の傍らには門衛らしき中年男がいて、おれとギャル美にいぶかしげな視線を向けている。


「とりあえずギルドまではつれてってやる。ついてきな」


 オッサンの言葉に従い、おれたちは冒険者ギルドとやらに直行することになった。


「ね、オタクくん。あとで町の中を探検しよ? 面白いものがたくさんありそうだし!」


 ギャル美の瞳は好奇心旺盛な猫の目のように輝いている。

 だがおれは、またも俯いたまま返事をすることができなかった。



 冒険者ギルドの建物に向かうまでの道の両側には、大小の建物がいくつも連なっていた。そのほとんどが石造りで、比較的に大きな冒険者ギルドの建物も例外ではなかった。このあたりは元の世界で映像や写真などを通じて見たヨーロッパの町の風景によく似ている。

 扉を開けると、赤い絨毯の敷き詰められたロビーがまず目に入った。正面に受付があり、ギルドの受付嬢とおぼしき妙齢の女性がその奥にいる。

 オッサンがその受付嬢に麻袋を渡すと、おれたち三人はロビーに併設されている控え室に通された。壁に沿って並べられている木製の椅子に腰掛けてしばらく待つ。

 やがて、さっきの受付嬢が顔を出した。


「シケモク様、お待たせいたしました。受付までお越しください」


 シケモクとはオッサンの名前だ。「あいよ。よっこらしょっと」と言いながらシケモクが立ち上がる。

 ロビーの受付前に着くと、受付嬢は見事な営業スマイルを浮かべながら話し始めた。美人である。


「シケモク様、このたびの依頼の達成、誠にお疲れさまでございました。スライムの核20個、たしかに受領いたしました」


「おう。報酬は2万だったな?」


「はい。どうぞ、報酬の2万クロネでございます」


 受付嬢が20枚ほどの銀貨の乗った木のトレイを差し出す。


「へへっ、ありがとよ」と言ってシケモクは革袋に銀貨を詰めはじめた。


「お、おいオッサン、半分は……」


「わーってるって。うるせーガキだな」


 シケモクはゴミを見るような一瞥をおれにくれると、トレイに半分残った銀貨をギャル美に手渡し、打って変わって愛想のいい笑顔を浮かべた。


「ほらよ嬢ちゃん、大事にしまっときな」


「わー! ありがと、シケっち♪」


 ギャル美は手に入れた銀貨を嬉しそうに眺めたあと、大事そうにそれらをスカートのポケットにしまった。


「そんじゃあな嬢ちゃん。またいつか会おうぜ」


「うん、バイバイ。また遊ぼうね」


 手を振るギャル美に手を振り返しながら、シケモクのオッサンは出口の扉から去って行った。

 その後ろ姿を見送ると、


「それじゃオタクくん、探検に行こっか!」


 ギャル美は楽しそうに言って、おれの手を掴んで駆けだした。


「お、おい……」


 おれは顔が熱くなるのを感じた。手を握られるのにはまだ慣れない。

 ともあれ、おれはギャル美によって強引に町の探検へと繰り出されることになったのだった。

 


 

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