第12話 あの日『最強ゲーマー』
「カクカクシカジカで・・・」
「ふむ・・・」
現在、リグレッドは少し離れた所で『サイキョウ』にこれまでの事情とこれからの作戦を事細かに説明している最中だろう。
なぜこんなにも他人行儀な表現かというと、先ほどリグレッドに「自分はちょいと離れとって!ええな!?」と言われてしまったからである。通常なら『自分に後ろめたいことがあるから』と様々思いを巡らせてしまうだろうが、不思議とそんな感情は湧いてこなかった。
正確にはわからないが俺が『リグレッドはそんな人間では無い』と信じているのだろう。出会って1週間足らずでここまでの信頼を勝ち取るのは流石は一組織の頭といったところか。
そんなことを考えてるうちに、どうやら話し合いは終わったようで2人がこちらへ歩いてきた。
「いやぁ、待たしたな。ほな準備はエエか?」
「ああ」
氷戈は『さっきサイキョウさんはどこから出てきたのだろう』や『どうして自分が手配した人間に1から事情を説明するのだろう』など疑問に思う部分は多々あったが、それよりも『燈和に会いたい』という気持ちが先行し、少し食い気味に頷いた。これを見たリグレッドは少し真剣な顔をして
「そうか、ほんなら行く前に一個だけアドバイスや」
「?」
「『何があっても自分を貫く』。ええか?これは精神論や綺麗事の話やない。事実として他人の意見や状況に惑わされたらアカン、この世界じゃ自分以上に信じられるものは無いっちゅう話や。
「どうしたのさ、らしくない」
「しゃあないやろ。限られとんねん、なんもかも」
「・・・?」
本当にらしく無いテンションで話すので不思議に思った氷戈は首を傾げた。
すると側から「話は済んだか?」というような雰囲気の『サイキョウ』はゆっくり氷戈に近づくと、こう言った。
「おい、ガキ」
「ガキ・・・お、俺?俺の名m」
「いや、いい。オレは強い奴の名前しか覚えられん体質なんでな。それよりも貴様の
「いや、俺もよくわからないけどリグレッドが言うにはそうらしいよ。実際他の人の
「魔法?・・・ああ、
すると『サイキョウ』はいきなり右腕を空の方へ突き上げた。
キィィィィィーーーーーンーーーーー!
つんざくような音と共に彼の右腕は凄まじい光に包まれ、天へ昇った。高さは10メートル程か。光が具現化したと言う表現が正しいだろう、それはまるで『光の剣』だった。
「はっはっはっ!さあ、死ねい!」
「は?」
「あちゃー」
『サイキョウ』は何を思ったのか、腕から伸びた光の剣を勢いよく氷戈へ振りかざしてみせた。
バカなのだろうか?ていうかクズレッドは「あちゃー」言ってる暇あったら助k・・・
そんな思いを馳せる暇もなく、殺人カッターが氷戈を捉えた。
享年17とあまりにも短い生と共に、主人公の死をもってこの物語も幕を閉じた。12話と短い期間ではございましたが、ご愛読のほどありがとうございました。
とは当然ならなかった。
光の剣は氷戈の脳天の辺りで静止しており、傷一つ負わせることは出来なかったのである。
呆然と立ち尽くす氷戈、この状況を誤魔化したいかのように口笛を吹かすクズレッド、そして殺人未遂犯の『サイキョウ』は光の剣を解除した。
「なーるほどなるほど!これは素晴らしい興味深い!まるで当たらん!いや、『干渉できない』と言うべきか」
これが直前まで人を殺めようとしてた人間のテンションだろうか。
氷戈は殺されかけた恐怖や憤りよりも『驚き』の感情に支配されていた。
しかしそれは確証のない状態でこれほどまで思い切り刃を振り下ろせる『サイキョウ』のサイコパスさに対してでは無く、自身の力が『確証のない状態から確証になったこと』に対してのものであった。
-まるで痛くなかった。なんなら触れられてすらいない!『最強』と称される男の技をノーガードで受けても何ともないオートガードとかどんなイカれ性能だよ!-
などと考え、氷戈は無言でテンションをぶち上げる。本当のイカれサイコパスはこいつやもしれない。
その興奮が昂り、顔にニヤつきが溢れ始めた氷戈の状態を見て焦ったのか、リグレッドはすかさず話しかけた。
「お、おい・・・氷戈?ダイジョブか?」
「ウヘ、ウヘヘ。ダイジョブエブリデイ・・・へへヘ」
「こ、これは・・・。なにやってくれとるんじゃサイジョウ!氷戈が壊れてもうたやないか!」
「なんだコイツ気持ち悪いな・・・」
氷戈は自分をお試しで殺そうとした人間が挙句「気持ち悪い」などと暴言を吐いていることなど気にも留めずにリグレッドに言い寄った。
「ねえ!やっぱこれって中々の能力なんじゃないのさ?ねえ!」
「お、おうとも。中々どころや無いと思うで。この世界じゃ
「
「盛り上がっとるところ悪いんやが・・・」
リグレッドは氷戈を一旦落ち着かせるためにもあえて声を落として言った。
「自分の
「それはそうでしょ?だから面白いんじゃん」
「は?」
「最初から『万能最強』なんて求めてないよ。俺は自分に与えられたコマを自分で考えた戦略に当てはめて徹底的に-」
「!!?」「ほぉ?」
「-勝ちたい、完膚無きまでに」
またである。氷戈は対リグレッド戦の最後に見せた『冷気』を帯びた表情でそう言い放った。
相変わらずリグレッドはビビり、『サイキョウ』は感心したような声を出した。
「
氷戈はそう続けるも先のような『冷たさ』は無く、半ばふざけたテンションで言い捨てた。
すると『サイキョウ』がこの言葉に食いついた。
「ハッハハ!良いぞガキ、気に入った!・・・貴様、名は?」
-さっき言おうとしたんだけどな-
と思いつつも、改めて名乗る。
「俺は氷戈!たった今、この
「ヒョウカ・・・よし、覚えたぞ。もう一つ聞くがその『ゲーマー』というのは強いのか?」
一見『サイキョウ』が『超』のつくほど脳筋だと言うのが分かるおかしな発言ではあったが、氷戈は全く気にすることなく満足そうな顔をして言う。
「ああ、強いよ。あとカッコよくて、厄介だ」
「ふむ、ではオレもオマエが最強ゲーマーとやらである事を切に願おう。強い奴は多い方が良いからな」
2人は目をキラキラとさせて互いを見つめ合った。まるで何かを成し遂げたかのような空気が漂う。
そんな脳筋バカ2人の会話を蚊帳の外で怪訝そうに聞いていたリグレッドは我慢できなくなり割り込む。
「ええい!仲エエのはかまへんけどさっさと行かんかい!」
「「・・・?」」
そこには真顔でリグレッドを見る2人が居た。いい感じの空気を壊した罪は大きかったようだ。
「・・・え、これボクが悪いん?」
納得のいかないリグレッドであった。
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