第8話 あの日『最強との再会』

「いちちちち・・・にしてもなぁ、あんなおもっきし殴ることないやろ」


「うごくなーコロすぞー。おりゃー」


「うぎゃ!?痛い!痛いわボケ!殺す気か!」


「んー?そういったじゃーん」


 ここは『茈結しけつ』の医療室である。

 そこには椅子に座って治療?を受けるリグレッドと治療?をする白衣姿の女性...と言うよりは女の子とそれを傍観する氷戈の図があった。

 その女の子はおっとりとした口調と華奢な体なのに対し大きな(殺人)ハンマーを軽々振り上げ、リグレッドの頬の辺りに迷い無く直撃させてみせた。側から見ると文字通り即死は免れない威力ではあったが、リグレッドが「痛い!」という悲鳴をあげている以上、死んではいないらしい。


「トーラちゃん...治療相手がボクの時だけ思いっきりやっとるやんなぁ⁉︎」


「だってー?リーダーに死なれたら困るでしょー?」


「・・・物は言いようやな」


 半ばコントのようなやり取りを黙って見ている氷戈に気づいたのか、リグレッドは説明を始めた。


「ああ、悪いな。このちっこいのはトーラちゃん言うてな、茈結ウチ専属の医者やねん。・・・カーマもあって、見てもろた通り『ハンマーでブン殴った部位の治療』なんていうエゲツない能力の持ち主や」


「初めましてだねー?新入りー」


「あ、どうも。氷戈っていいます」


 トーラは軽く会釈を返すと当然の疑問を投げかけた。


「それにしてもー。どうしたのさー痣はー」


「ん?ああ、それがな。ボクと氷戈で試合しとってん。ほんで試合が始まったらちょいと大袈裟に後ろ下がってボクの飛び道具全部防いでくるからな?突っ込んだら殴られとったんよ」


「そんな細かくさー。聞いてないよー」


「と、とにかくや。どうやってボクを転ばせたんや、氷戈?」


 リグレッドはどうやら自分に何が起こったのかわかっていないようだった。どうやらこの男は本当に弱いらしいと確信した氷戈は解説する。


「それこそ俺が『大袈裟に』後ろに下がったでしょ?この時に足で地面に『任意で氷を展開できる術』を仕掛けたんだ。あとは飛び道具効かないことをアピールして近接戦を煽る。じきに突っ込んできたらタイミング良く地面に氷を展開すれば滑るでしょ」


「・・・それっていつ考えたん?」


「その時に」


「おっそろしいな自分」


 リグレッドはすこし演技っぽくビックリし、ほんの間を開けると何かに気づいたように続けた。


「・・・・んまぁボクが見込んだだけはあるなぁ!ほな約束通り、燈和ちゃんに会いいこか?付いてきぃや」


「よっし!待ってろよ燈和!」


「トーラちゃん、おーきに。ほなまた」


 そうして2人は慌ただしく医療室を出て行った。

 急にしんみりとした部屋で、トーラは独り言を呟くのだった。


「痣ー、治らなかったなー。なんでー?」


 _____________________________________

 ー『茈結』玄関にてー



「え?今から行くの?俺としてはありがたいけどさ」


 氷戈は裏口から外へ出ようとしたリグレッドに問いかけた。対しリグレッドは足を止めることなく答えた。


「せや。けどボクは行かん」


「え?どういうことさ」


「まあ後で説明したるわ、今は黙って付いてきい」


 リグレッドは外へ出て、そのまま先ほど修行をしていた裏庭への方向へ急いだ。不自然にく理由が気になったが、氷戈は付いて行くしかなかった。


 少しして丁度リグレッドをブン殴った場所に辿り着くと、そこで急に止まる。


「っと。地面に氷が残っとって分かりやすいなぁ」


「・・・なんで戻ってきたのさ?」


 リグレッドはその反応待ってましたと言わんばかりにニヤつき、答える。


「ここが待ち合わせ場所だからや。自分を燈和ちゃんのとこまで送り届けてくれるヤツとの」


「そうだった、なんで団長じゃ無いのさ」


「アホ言え、腐ってもボクは『茈結』のリーダーや。そう簡単に本部から席は外せんわ。あとボクが弱いのわかったからって呼び方シレッと師匠から団長に変えんの辞めぇや傷つくわ」


 早口でそう言い、続けざまに解説する。


「ええか?燈和ちゃんらしき子が発見されたんはフラミュー=デリッツつう小国でな?ちょいとややこしいんやが、そこは『茈結うち』のバックにいるウィスタリア国とバチバチにやり合っとるラヴァスティつう国の属国なんや」


「ラヴァスティ・・・この前襲ってきた連中の組織だったっけ」


「せや。よお覚えとったな」


「なるほど・・・。つまり実質敵国の領土に行くようなものだから団長じゃ都合が悪い。代わりに団長が手配した人に引率をお願いするってこと?」


 リグレッドが頷いたのを確認すると、氷戈は小さな声で


「・・・手配、いつしたの?」


「んげっ!」


 確かにリグレッドが氷戈に条件を提示し、達成したのは小1時間前である。さらにその時点から今に至るまで氷戈とリグレッドはずっと一緒におり、人を手配したそぶりすら確認できなかったのである。当然と言えば当然の疑問であった。

 しかしリグレッドは「魔法や、魔法!」と誤魔化し、話を戻した。


「そ、そんでな?ホンマならワープなんていう便利機能もあるんやが自分には効かへんやろ?せやさかい、今回用意したんは...」


 リグレッドは何かに気づき、言葉を途中で切った。そして満を持したかのように


「ちょうど来おったで。『世界最速』の男や...」


 その男はいつの間にかリグレッドの真隣に、そして氷戈の目の前に居た。まるでかのように。


「おいおい。確かにオレは最速でもあるが、そいつは二の次だ。大前提、オレの名は....」


「え...」


 氷戈はてっきり初対面の人間が登場すると思っていたので、少し驚いた。それもまさか1週間前にこの世界に来たばかりの氷戈を誘拐しようとしたラヴァスティの幹部を一掃した人物だとは。

 その名も...


「サイキョウだ!」「最強...」


 彼の自己紹介と氷戈の呟きがハモったところでようやくこちらに目をやった『サイキョウ』は問う。


「うん?なんだお前は?・・・弱そうだな」


 1週間前も同じことを言われた気がした氷戈だった。










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