第11話 遅すぎた勇気
萩原、梅沢、村上は自分がやられたら嫌なことを平気かつ楽しんで人にやるクズだったが、人殺しは別だった。
動かなくなった正和の生死をおっかなびっくり確かめ、死んだことを確信してからあらかじめ掘っておいた穴に投棄。
セメントを流し込んで土をかぶせて黒く塗ったべニアまで敷き、土、落ち葉をかぶせて偽装した。
その後、殺害には関与させなかった西山にも手伝わせて沼に殺害と死体遺棄に使った物品を投棄してから赤川ダムに向かい、すでに手配されているであろう村上の車を沈めようとしたのだが前輪が泥にはまって断念。
ナンバープレート、車検証を持ち出してその場に遺棄した。
午後6時から深夜0時にかけて正和を欠いた一行はホテルに相次いで到着、「15年逃げ切れば時効だ」などと呑気に今後の逃走について話し合った。
それから、村上はいざ殺害となったら怖気づいたくせに正和が死ぬ場面の物まねをはじめ、梅沢は思い出して興奮したらしくその場でセンズリをこき、発射した。
極悪なばかりか心底気持ち悪い奴らである。
翌12月3日、正和の遺品となった携帯が鳴った。
相手は正和の実家からである。
これには梅沢が正和の声マネをして対応、「今眠いからまたかけなおす」などと言ってすぐに切り、まだ生存していることを装った。
この電話をかけたのは父親の光男であり、梅沢の下手な芝居に騙されて息子はまだ生きているとこの時は思ったようだったが、母親の洋子は母となった女だけが持つ第六感で何か最悪の異変を感じ取っていたようだ。
「まあくん(正和のこと)がおかしい!まあくんがおかしい!」とうろたえていたという。
一方、須藤夫妻から最愛の子を奪った萩原たちはどこまでもお気楽でふざけていた。
居酒屋で飲んだ後、コンビニで買った花火で『正和の追悼花火大会』に興じたのだ。
翌日からはすでに予約した東京都新宿区のウイークリーマンションに向かい、15年逃げ切るための生活が始まる。
また正和みたいな金づる兼おもちゃを新しく探さなけりゃならないからこれからたいへんだ程度の感覚だったのであろう。
だが、西山だけは違ったようだ。
4日午後1時、萩原を除く三人は東京に到着し、西山のみが港区の自宅に帰った。
しかし、ホッとするはずの我が家でもずっと一昨日の栃木の山林で起きたことまでのことが頭から離れない。
あの須藤って人は話したことあるけど、そんなに悪い人じゃない、むしろいい人だったんじゃないか?
それをあんなひどいことして殺しちまいやがって…、萩原さん…、いや、萩原のヤローもあとの二人もとんでもねえクソだ!
オレはあのクソどもに手ぇ貸しちまったし、とんでもねえことしちまった!
罪悪感とともに、「次はひょっとしたら俺かもしんねえぞ」という懸念もあったことだろう。
あんなことする奴らだから、警察にチクりそうだと思ったら知り合って日が浅い自分を何のためらいもなく消しにかかるかもしれない。
その後母と祖母が帰って来た時には決心していた。
西山は全てを打ち明けて、警察に自首すると伝えたのだ。
「黙ってりゃいいじゃないの!アンタは巻き込まれただけでしょ?警察に話しちゃダメ!!」
西山の母は「自分の息子さえよければそれでいい」という狂った母性愛にむしばまれた頭の持ち主だったが、息子の方はまともに育っていたようだ。
母の違法な反対を押し切り、午後9時ごろ港区の警視庁三田署に出頭した。
西山の自首を受けてからの三田署の動きは、栃木県警のどこかの二つの警察署のものとは全く違っていた。
翌5日午前3時には西山を同行させてハイエースで栃木県に向かい、死体遺棄現場などを捜索。
午前11時半過ぎには市貝町の山林の土中から埋められていた正和の正視に堪えない遺体を発見する。
証拠隠滅のために遺棄した村上の車や他の証拠物品も西山の供述どおりに見つかり、萩原らの非道は完全に裏付けられた。
12月5日午後4時、新宿区のウイークリーマンションで後から合流した萩原と梅沢、村上は揃って逮捕された。
逮捕時、三人は人相を変えるために髪をカットして派手に染めたりの小細工を働いていたが、あまりにもあからさまな犯行な上に証拠を残し過ぎていたから逮捕は時間の問題だったように思える。
しかし、すぐに解決できそうなこの事件に関して栃木県警はいっさい捜査に動こうとはしなかった。
もし西山がこの時に三田署に自首しなかったら、何も動かないまま正和の行方は闇に葬られていたかもしれない。
しかし、遅すぎた。
西山の勇気がふるわれたのは須藤夫妻が愛息を永遠に失ってしまった後だったのだから。
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