それは
「お前ら、付き合ってんの?」
「いない」
「いや、付き合ってはいないよ」
学校が終わって、そのままソーニャと一緒に自分の部屋まで帰ってきた。そうしたら、何故か付いてきた晴人が変な質問をしてきた。謎である。やっぱり転生者っていうのは皆奇人変人の類なのかな?
「だけどよ。学校でもずっといちゃいちゃしているし、下校中も恋人繋ぎしていたじゃねえかよ。それ付き合っていないは無理があるんじゃねえか?」
「それでも付き合っていないものは付き合っていないしね」
「……はあ。まっ、仲直りできたなら良しとするか」
いちゃいちゃはしていないよ。ただ、私が美少女成分を補給しているだけだよ。生命の維持に必要な活動だよ。
「そういえば……! 千雪、聞いてよ! 晴人ね、昨日私の家に踏み入ってきて、無理矢理事情を聞いてきたんだよ! 私、落ち込んで枕を濡らしていたのに! 酷くないっ?」
「うわあ、美少女に狼藉を働くって最低だね。地獄に落ちるよ?」
「確かにソーニャには悪いことをしたと思うけどよ。千雪には感謝して貰いたいくらいなんだがな!?」
「否定できないね。んー………、よし! 感謝する! 転生者晴人よ!」
「おまっ! 何をおっしゃりなさるんですの!!?」
「あー、やっぱり晴人も転生者だったんだ。意外といるんだねえ。びっくり」
「反応薄ッ!? てか疑われてたのかよ!? 俺はそこの阿保と違って誤魔化していたのに!」
「だーれが阿保か! この馬鹿!」
「お前が阿保だよ! あんなことをしでかしやがって、阿保以外の何者でもないだろ!」
「五月蠅い! 私は美少女が好きなの! 晴人は割り切り方が異常なの!」
「急に百合カミングアウトすんな! これって挟まってる俺はギルティになるやつですかねえ!?」
「ギルティ! 罪状、汝は百合に挟まった! 故にアズカバン送りとする!」
「お前テンションバグってんな!?」
「あっ! お姉ちゃん元気になったんだ!」
「三日ぶりだね、識。今のお姉ちゃんは教育に悪いから、あっちで私と遊ぼない? 久しぶりにスマブラしようよ」
「いいよ。前回の決着を付ける時がきたね。今度こそ崖狩りの恨みを返す!」
場は混沌としている。近頃は晴人が遊びに来ることは無かったから、懐かしい混沌だ。
晴人に転生バレさせたのは、ソーニャに無理強いした罰が一つ。もう一つは彼女なら勘づいているんじゃないかと思ったからだ。もしそうなら、言ってしまった方がいいだろう。少なくとも、バレたからとて悪いようにはならないだろうし。まあ、あれも幼馴染だからね。仲間外れはよくないね、うん。一応、感謝もしているし。
ソーニャとの関係性については、晴人が言った通りだ。公認されたからね。私は一切の遠慮を無くして美少女を堪能しに行っている。我がことながら相変わらず気持ち悪いね。
でもね、これも正当な理由をでっち上げられるのだ。三十秒のハグは一日のストレスの三割を解消させるって言う。つまり、そういうことである。私が安らかな日々を送るためには仕方ないんだね。
と、そこでソーニャ達から声を掛けられる。
「お姉ちゃんも一緒にやろ! 晴人兄も!」
「いいよー。ご褒……じゃなくて罰ゲームはどうする?」
「それって、コスプレのこと?」
「そうだね」
「着せたいだけなら、罰ゲームにする必要はなくない? 言ってくれたらいつでも着るよ?」
「……それもそうだね!」
昨日から、ソーニャはやけにぐいぐい来るようになった。遠慮せずに色々要求できるのは有り難いけれど、やっぱりまだ変化には慣れていない。もうしばらく時間はかかりそうだ。
「なあ、その罰ゲームってもし僕が負けたらどうなるんだ?」
「もちろん晴人は対象外だよ? 男には差分がないのがデフォだからね」
「それどこの常識でいらっしゃる?」
「美少女ゲーの常識」
「えー、私はソーニャ姉のコスプレも晴人兄の女装も見たい!」
「妹が悪魔だ……!」
「千雪のコスプレはいいの……?」
「お姉ちゃんのはレアじゃないから」
「妹が辛辣だ……!」
識はいつも通り、可愛い妹だね。けれど今では小学六年生になって、反抗期が入ってきた気がする。しかも、私よりもソーニャに懐いているし。私は知ってるよ、ソーニャ姉みたいになりたいって言っていたこと。羨ましいぞ、ソーニャ! 私もお姉ちゃんみたいになりたいって言われたい!
けど、残念だったね妹よ。私たちの家系には合法ロリの血が流れている。母様を見たら分かるだろう? 我々は低身長の貧乳にしかなれないのだよ。ソーニャみたいなグッドスタイルとは無縁なんだよ。でもね、こんな格言もある。
「識、貧乳はステータスだ! 希少価値だ!」」
「藪から棒にどうしたの!? もしかしなくても私、喧嘩売られてる!? 売られてるね!?よっしゃあソーニャ姉、晴人兄、チーミングしよ!」
まあ、何にせよ、なべて世はこともなし。喧嘩しようと、美少女になれなくとも、日々は特に変わったこともなく移ろい行く。個人的には美少女感溢れるイベントはあって欲しいけどね。
でも、今はこの平和な日常を愛おしく思う。これが、あれか。恋人……とは全然違うけど、私を受け入れてくれる人って言うか、一緒にいてくれる人って言うか、そういう人ができた余裕なのだろうか。勝ち組だね。
「ひひっ。一対三も上等! 私の蛇は全てを蹴散らす!」
「一対三は無理だろ」
「いや、二対二だよ。私は千雪に付くから」
「そんな! ソーニャ姉~」
「ふひひ、愚昧よ。ソーニャは私のものなの。これが予定調和だよ」
「私は誰のものでもないけどね」
「ソーニャ! 金一封でどうか……っ!」
「ごめん、識。私は身も心も千雪のものだから」
「そんな! これが、NTR………っ!」
「いや、どっちかと言えばBSSだろ。それより早く始めね?」
まあ、かくして私の、天凪千雪の人生は続く。未だ何も成せていない。美少女とはあまりに程遠い身。
けれども、それは当たり前のことで。私という人生を懸けて美少女を証明する物語において、これは未だ序章に過ぎないから。
だから、一先ずはここで筆を置こう。
どうか、その行く末に幸あらんことを。
天凪千雪の物語に、一抹の祝福を。
私が美少女になれる未来を祈って。
◇
百人いれば、そこには百の価値観があり。千人いれば、そこには千の美少女観がある。
価値観がぶつかり合えば、凹んだり、尖ったり。必ず何処かが変形する。それは夢のように曖昧で、霧のように霞んでいるものであっても、同様に。
ならば、何度も何度もぶつければ、夢は輪郭を帯び、霧も実体を得るのではないか。
「桜の下からこんにちは! 霊桜千代、参上しましたっ!」
故に、天凪千雪はVTuber霊桜千代となった。
「ではっ! あなたにとっての美少女を教えてくださいっ!」
そして、一つの質問を繰り返す。美少女になるために。己にとっての美少女を見つけるために。
────────────
ここまで読んでくださった方、ありがとうございます。そして、申し訳ありません。この物語は先に述べたように前日譚です。ですから、千雪は美少女になれず、ソーニャとの関係も中途半端な状態で終わってしまいました。現在、本編を執筆しております。ソーニャの奨めで千雪がVTuberになり、同業者と各々の美少女観で殴り合う話です。覚えていてくだされば、足を運んで頂けると幸いです。
TS転生した。そうだね、美少女になろう 橘宮阿久 @D2Kagu
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