美少女には猫耳を

 遂に私も小学生になったよ。JSだね。でもまだ幼女で、ロリは名乗れないのだ。日に日に美少女レベルが増していって私は嬉しいよ。母様も見てるかな? 見てるね。でもどうして諫められないのだろう。あらあらじゃないよ。私があらあらだよ。これが幼女パワーなのか…?


「にゃあ、うにゃあ」


「ちょっ、やめ……、操作が狂う!」


 猫耳を付けて、鳴きながら座ってゲームをしているソーニャソフィアに擦り寄る。私は一体何をしているんだろうね? 分からないよ。全く分からない。けど魂がこうしろと言うのだ。大丈夫。受け入れられる境界の見極めはできるし、今の私はとても美少女してるから。この行動は美少女成分を摂取すると同時、私を美少女として確立するために必要云々。つまりアイデンティティってことだね。


「すんすん、もふぅ」


「お前、何してんの……?」


 髪の匂いを嗅ぎ、顔をもふもふな銀に埋める。あ~! 癒しじゃあ! 晴人が引いている気配があるが、あれは美少女になれぬ存在。ある程度ルートを固めた今となっては、最低限の好感度さえ維持できればそれでいい。というか余所見していたら負けるんじゃあないだろうか。


 この二人に妹の識を加えた三人でプリンを賭けてスマブラしているのだ。戦況は晴人が優勢。と言っても、アイテム有りで2ストックだから逆転の可能性は十分にある。ちなみに私は一抜けでプリンの権利は獲得済みである。流石に私には転生による有利があるからね。順位操作とか赤子の手を捻るよりも容易いことだ。だから強制排除されられた。悲しいね。


「ソーニャも識ちゃんも頑張れー。チーミングしなされー。あっ」


「うー……、負けちゃった。プリン……」


 識が死んだ。まあ、六歳集団の中に紛れている四歳だからね。結末としては妥当なところか。しかし、それはそうとて晴人よ。大切な妹を泣かしおって。許さんぞ。でも識の泣いてる姿も可愛いよ。もう少し大きかったら涙を舐めたかった。えっ、キモっ。


 とりあえず冷蔵庫からプリンを一個取り出し、プッチンして皿に落とす。引き出しからスプーンも取ってリビングに戻り、私の猫耳を外して識につけて。


「じゃあ、識ちゃんは私のを半分こしよ?」


「ぐすっ。良いの……?」


「良いよ、あの二人が手加減しないから。大人気ないね?」


「だって勝負の世界はシンケンショウブって」


「僕は勝敗はプライドより重要だと思う」


「君らマジで大人気ないね」


「うぅ、ありがと。お姉ちゃん」


「天使っ!」


 猫耳涙目幼女妹に「ありがと」って言われるの最高か? 最高だな。思わず識をひしっと抱きしめてしまった。もちろん皿は机に置いてからね。ソーニャはともかく、晴人との落差が酷いよ。小学一年生が何てこと言ってるんだ。擦れるのが早いよ。


 識を抱きしめたまま座り、私の足の上に乗せる。後ろから手を伸ばしてスプーンを掴み、


「あーん」


「あむ。おいしい!」


 「おいしい!」頂きました。私もとても美味しかったです。ごちそうさま。顔は見えないけど雰囲気が可愛い。やはり天使が降臨なさったか。え? 何であーんするのかって? だってプリンは綺麗に半分に分けられないからね。これは仕方がないことなのだ。うん、仕方ない。私も一口食べて、それから再度あーん。これを繰り返せば綺麗に半分こできる。心なしかプリンがいつもより甘い気がする! これが唾液の味!? うわっ、私キモっ!


「勝ったッ!」


「操作ミスったあああ!」


 プリンを食べ終わったころであちらも勝敗が決した。終わりは実に呆気ないものだった。晴人は崖際でホームランバットをぶんぶんして、そこにソーニャが突っ込んでいって死んだ。それにしても操作ミスとは、言い訳は見苦しいね。実に無様で可愛いね。


 とりあえず、敗北したソーニャにはプリンの代わりに猫耳をプレゼントしよう。傍に近付いて、艶やかな白銀の髪に私特製の白猫耳を添える。


「よかった。ソーニャの髪はとても綺麗だから見劣りしないか不安だったけど、よく似合ってる。うん、可愛い」


「そ、そう? 私、可愛い?」


「うん、めっちゃ可愛い。猫耳天使」


「えへへ」


 天使だな! もふもふさらさらな白銀の長髪に、勝気な瑠璃の瞳。加えて微妙にツンデレっぽい言動。誰よりも猫が似合うのはソーニャだと思う。血統書付きの猫っぽい。それに、えへへは強い。えへへは強過ぎる。最早戦略兵器だろう。認識した者は状態異常:魅了を発生し、確率で鼻血を出す。これは抵抗値を無視する。


「ふんすっ」


 いけない。出目が悪かった。だから気合根性で鼻血を止める。今はティッシュを鼻に詰める手間さえ惜しい。


 ソーニャの後ろに回って、手櫛で彼女の髪を梳かす。あ~、もふさらで気持ちいいんじゃあ。何じゃ? 晴人。そんな目で見てもプリンはあげてもソーニャはやらんぞ。いや、違うね。その色は……憐れみかな。もしかして、晴人は猫耳嫌いだったりするのかな。なら、今度犬耳あげようか。


「お姉ちゃん! マリオカートしよ!」


 そこで猫耳付けっぱなしの識が声をあげた。時計を確認すれば、母様の視力低下防止強制中断が入るまで時間は十分にある。


「ソーニャと晴人も良い?」


「ふみゅう」


「僕は何でもいいよ」


 すると、識は表情をぱあっと輝かせ、忙しなくパッケージを取り出したり動き出した。一つおかしな返事があったが、それは無視するようだ。………何となく、白猫少女の首をかいてみた。


「うにゃあ」


 この娘、可愛すぎないか?


 それにしても、母様はこの一連の流れを全て見ておきながら「仲が良いのね」で済ませるのは強者感が凄まじい。もしかして、客観的に見たら意外と普通なのだろうか。ただ、キモイのは私の思考回路だけであって。ううむ、分からん。

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