美少女幼馴染はロマンなりて

 母様に抱きかかえられて玄関に出る。一般赤子なら目を離すと危険かもしれないが、私は逸般赤子だから何も問題ないのに。それはそうとて母様の胸は小さいね。私の将来は貧乳キャラ確定だ。ところで日本人の貧乳派と巨乳派の割合って僅差で貧乳派が勝っているらしいね。ロリコン民族だから。なのにどうしてアニメ化の際に巨乳化されるキャラが多いのか、私は不思議でならないよ。え? 貧乳派の大多数が巨乳も好きだから? 私もどっちも好きだよ。


 母様が玄関の扉を開けると、赤子を抱えた女性が立っていた。曰く、隣に引っ越してきたらしく、挨拶に訪れたと。つまり、そういうことだ。二人があらあらまあまあと話しているのを他所に、じっと赤子を見つめる。私は幼馴染枠を手に入れた。


「あうあー」


 これから私が満足するまでよろしくね、と手を差し出す。すると将来の幼馴染殿はしばらく手を眺めた末に、ぱしっと叩き落としやがった。警戒心の強い奴だ。そう易々と舞台装置に組み込まれる気はないということか。


「あうー」


 ならば交渉をしよう。私は幼馴染を手に入れる。代わりにお前は美少女幼馴染を手に入れる。ウィンウィンじゃあないか。世界は素晴らしいね。さあ、この手をとれば契約は成立───


「うあー」


 また払いやがった。生意気な。これだから赤子は。損得ではなく感情で動くのは阿保の所業と知らないのだろうか。私はもちろん感情で動くよ。嫌々ながらメリットを享受するくらいなら、相手を諸共に引きずり落とすのが楽しいんじゃないか。場面によるけどね。人間は足を引っ張ってなんぼの生き物だと思うわけですよ。ただし、私の足を引っ張る奴は絶対に許さない。因果応報も同害報復も私には適用されないから。ハンムラビ法典は砕いちゃえ。


 ハンムラビ法典はどうでもいい。それよりこの不遜な赤子だ。私の手を取るまで決して諦めぬぞ。母様もあらあらじゃあない。ニコニコしているのが雰囲気で伝わってくるが、これは犬猫の戯れではないのだ。これは将来の美少女がかかった神聖な戦いなのだ。キャラビルドにも依るが、できるだけルートもたくさん欲しい。


 そう、ここでフラグを立てるのだ!


「あうー」


 手を伸ばす。ゆらゆらと揺らす。私は知ってるよ。赤子は何故か動くものが気になるのだ。ソースは私。だから、ほら。掴みたくなるだろう? この蠱惑のぷにぷにお手々を掴め。どうして動かない? 目は手を追い続けているのに。もしかして遠いのだろうか。ならもっと近付けてあげよう。母様、ちゃんと抱えていてね。あっ、母様自ら近付く感じですか。ですがそれは近過ぎのではないでしょうか。手があやつの顔に触れそうで………舐めた!? こやつ、舐めおったぞ! 性癖を開花させるのが早すぎだろう。でも気持ちは分かるよ。私もたまに私の手を舐めてるから。美少女の手だと思うと美味しそうだよね。





     ◇





 あれからしばらく経ち、私は二歳になった。件の幼馴染は三歳だね。誕生日の差よ。ちなみに奴の名前は晴人はるひとだった。男だった。幼馴染百合の可能性は潰えたね。


 今は一緒にゲームをしている。こんな若いうちからと思う人もいるかもしれないが、私は前世でもゲーム初めは三歳だったからね。二歳に始めたという人も割と聞くし、そんなものなんだろう。


「はるくん。もちかたおかしいよ」


「おかしくない」


 今やっているのはWiiだね。パラレルワールドとは言え、製品名まで同じとは驚いた。で、マリオブラザーズをやっているのだが晴人がリモコンを逆に持っているのだ。それで真面にプレイできるならともかく、全く動けてないし。ヤバいね、下手過ぎてストレスだ。リモコンが一つしか無いせいで、時間交代制になってしまって下手なプレイを観戦しないと駄目なのも面倒臭い。元通り死んだら交代で良いじゃないか、母様。


「おかあさん、しんだらこうたいでいいとおもう」


 食らえ! 上目遣い陳情!


「うーん、でもそうしたらハルくんが遊べないでしょ。コントローラーがもう一つあれば良かったんだけどねぇ」


 妹を抱っこした母様にあえなく却下された。私も結構死ぬのに。巧遅を唾棄して遅速を崇拝しているから。そうだね、止まるんじゃねえよ。減速を縛っているからリフトのタイミングが噛み合わなければ死ぬし、敵の出現地点も覚えていないから割と事故る。絶対に止まらないと決めているから、強制的に止まらせてくるステージに至ってはクリアできないね。何この縛りプレイ。私って馬鹿なの?


 ちなみに妹は去年生まれた。禿げなのに可愛いから不思議だったよ。名前はしきだ。将来は賢い人になると見た。


「はるくん。もちかたおかしいよ。あっ、またしんだね」


「うー! つぎはできるもん!」


 とりあえず、お前は躍起にならずに持ち方を直せ。子供っぽいよ。そっか、子供だったね。かく言う私は大人気ないね。何言ってるの? 私は子供だよ。立派な二歳児だよ。


 まあいい。あと一分で私の番だ。


「ゲームはおめめに悪いから、そろそろお菓子の時間にしましょ」


「そんな、ごむたいな!」


「ちーちゃん、ご無体なんて難しい言葉どこで覚えたの?」


 母様、そんな非人道的行為はよしてくだされ。約束と違うではありませんか。


「わあい! おかし!」


 晴人、てめえは黙ってろ。お前がいなければ私は今頃……あっ、お菓子って手作りクッキーだったの? やったー、私クッキー大好き!


「そんな急いで食べちゃメっ。よく噛んで食べなさい」


「うん」


 分かりました、母様。

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