4話  カイルの想い


 翌日、マナは店番をしながら深い溜め息をついた。

「……どうしよう」


 マナが見つめる先には、昨夜白怪盗が置いていったルビーのペンダントがあった。


 ナナのためにどうしても欲しい。

 マナの稼ぎではいったいいつ手に入るかわからない。そのルビーのペンダントが今自分の手の中にある。


 しかし、これは怪盗が誰かから盗んだもの。受け取れるわけがない。

「どうやって返せばいいのかなあ」

「何が?」

 背後からカイルが顔を覗かせた。


「っ、カイル! お、驚かせないでよ」

 マナがあたふたとペンダントをポケットに隠す。

「そんなに驚くなよ、傷つくなあ」

 カイルは肩を落としてため息をついたあと、マナのポケットを指差す。

「ねえ、それ、ルビーのペンダント?」

 見られていたらしい、マナは観念して昨夜のことを打ち明けた。


「ふーん……よかったじゃん」

「え?」

「だって、ナナにペンダントをプレゼントできるし。マナはこれ以上無理して働かなくていいしさ」

 カイルは嬉しそうだが、マナは浮かない表情をしていた。


「どうした? 嬉しくないのか?」

「……返そうと、思ってるの」

 マナがつぶやくと、カイルが急に叫んだ。


「はあ? なんでだよ! あ、もしかしてマナのことだから盗んだ物だから嫌だとか。そりゃ、白怪盗がくれた物だから盗んだもんかもな。いいじゃん! どうせどっかの大金持ちがたくさん持ってる中のルビーのペンダントだろ、金あるんだからまた買うよ。マナは妹のために朝から晩まで働いてそれでもなかなか手に入らない、でも欲しい。白怪盗はきっとさ、マナのような一生懸命な人たちの味方なんだよ。だから……受け取れよ!」


 カイルは一気に話すと、ぜえぜえと肩で息をしていた。

「ふふ。カイルって白怪盗が好きだったの?」

 白怪盗の気持ちを代弁しているようなカイルをマナは可笑しそうに笑う。


「おまえなあ……」

「さ、仕事、仕事」

 仕事に精を出すマナを見つめ、カイルはどうしたものかと思考を巡らせていた。



 そんなある日、カイルが恐れていたことが起きた。


 マナが疲労で倒れてしまった。

 父の介護に、二つの仕事の掛け持ち、マナの体力は限界だった。

 カイルはマナのもとへ走った。


「マナ!」

 マナはベッドで眠っており、ナナが看病していた。


「カイル……。おねえちゃん、私のために……無理してたよね」

 ナナは自分を責めていた。カイルは慰めるように優しくナナの肩に手を置いた

「ナナ……マナは、ナナの喜ぶ顔が見たかっただけさ。そんな顔してたら、姉ちゃん悲しむぞ」

「うん……」

 ナナは涙を拭うと無理に笑った。



 ナナとカイルの看病もあり、マナは順調に回復していった。

 そして、二人の心配をよそにマナはまたすぐに働きだしたのだ。


 ある夜、マナは白怪盗からもらったルビーのペンダントを窓辺に置いた。横に怪盗への手紙を添えて。



 その晩、カイルはマナの様子が気になり、窓から様子を覗こうとした。

 すると、そこに置いてあるペンダントと手紙に気づく。驚いて、窓を開け、手紙を読んだ。


「白怪盗さん、あなたの心遣いはすごく嬉しかったです。ありがとう。でも、これはお返しします。私は自分の力でルビーのペンダントを手に入れます」


 カイルはペンダントと手紙を強く握りしめ、悔しそうに唇を噛む。

「俺は君に何もしてあげられないのか……」

 月明かりが彼の背中をそっと照らしていた。



 翌朝、マナが起きると、窓辺にあったペンダントは消え、新たに白怪盗からの手紙が置いてあった。

「君の気持ちはわかった。私は懸命に日々を生きる人の味方だ。困ったことがあったら、また窓辺に手紙を置いてくれ」


 読み終えたマナは、手紙を大切そうに胸に当てた。






 読んでいただき、ありがとうございます!


 次回も読んでいただけたら嬉しいです、よろしくお願いします(^▽^)/

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