3話  怪盗参上


 次の日からマナの忙しい日々が始まった。


 マナの一日はこうだ、朝、家事と父の介護を済ませ、それが終わればカイルの店で夜まで働いた。一度家に帰ると、また家事と介護を済ませ、夜の仕事へと向うのだった。


 新たに始めた仕事はバーでの仕事だった。

 マスターが一人で経営しているお店での雑用係だ。夜の仕事は体力的にはきつかったが給料がよかった。


 バーでの仕事を終え、家に帰ると、もう深夜0時を過ぎていた。

 ナナと父はとっくに寝ていた。二人を起こさないように静かに移動する。



 マナは月明かりの下、今日もいつもの椅子に座り一休みしていた。


「疲れたあ」

 ぐっと伸びをし、一息つく。


 そのとき、ギーッと小さく音がした。マナは驚いて音の方を見ると窓の扉に隙間ができている。

 暗闇の中に人の気配を察知して、マナは椅子から立ち上がり身構えた。


「だ、だれ?」

 暗闇から現れたのは、

「……え? 白怪盗……なの?」


 月の光に照らされて現れたのは、白いタキシードにシルクハットをかぶった人物。その風貌から、マナは世間を騒がせている白怪盗だとわかった。


「怪盗が何のようですか? この家には盗るものは何もありませんよ」

 怪盗は可笑しそうに笑った。

「いや、何かを盗もうというわけではありません、マナさん」

「……なんで、私の名を」


 白怪盗はマナに近寄ると、スッと掌を差し出した。

「あっ」

「これを、どうぞ」

 怪盗の手の上に光っていたのは、ルビーのペンダントだった。


「あなたには必要でしょう……差し上げます。大切な人のためにお使いください」


 白怪盗が貧しい家に盗んだ物を配っているのは本当だったのだ。

 マナのことをどこで調べたかはわからない。そんなことはこの際どうでもいい。


 マナはルビーのペンダントが欲しかった。すごく、すごく欲しかった。でも……。

「……もらえません」

 怪盗は驚き、不思議そうに首を傾げた。


「なぜですか? あなたが今一番欲しいものだと思ったのですが」

「欲しいです、喉から手が出るほどに」

 マナは怪盗に背を向けた。


「ここでそれを受けとってはダメなんです。私はナナに胸を張れません。お気持ちは嬉しいですが、お帰り下さい」

「……そうですか、残念ですが、あなたの気持ち受け取りました。あなたは素敵なお方だ。またお会いしたいですね。それでは」


 ばさっとマントを大きく翻すと、そこにはもう怪盗の姿はなかった。


 しかし、怪盗がいた足下には先程のルビーが光輝いていた。





 読んでいただき、ありがとうございます!


 今回は少し短くて申し訳ありません。


 次回も読んでいただけたら嬉しいです、よろしくお願いします(^▽^)/

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