2話  ルビーの指輪


 仕事を終えたマナはカイルに付き添われ家路につく。

 カイルがマナを心配して、いつも家まで送ってくれた。こういう優しさに、マナはいつも感謝とともに暖かい気持ちを感じていた。


 家に着くとナナが二人を出迎えた。

「おかえりー」

 カイルはマナが夕食の準備をする間、ナナの話し相手をしてくれる。


「カイル、今日の新聞見た? 白怪盗のとこ!」

 ナナが嬉しそうに満面の笑みを向ける。

「ああ、見たよ。白怪盗かっこいいよなあ」

「そうだよね! かっこいいー」

 ナナはカイルの返答にご満悦だ。


 カイルはマナの様子を気にしながら、問いかける。

「マナは? 白怪盗のこと、どう思う?」

 夕飯の準備で忙しいマナは手を止めずに答えた。

「私は白怪盗のことよく知らないから……わからない」

 その言葉を聞き、ナナが唇を尖らせる。

「お姉ちゃんは白怪盗に興味がないだけだよ」

「そっか……」

 カイルはどことなく寂しそうに笑うのだった。


 ナナはしばらく白怪盗の話題で盛り上がったあと、

「そうそう、ねえ、今女の子の間で流ってるものって知ってる?」

 カイルは首を横に振る。

「ルビーのペンダント! それを持ってると好きな人と両想いになれるんだって」

 すごく嬉しそうにニコニコしながらカイルの返答を待っている。


「へえ、そうなんだ……」

 興味なさそうなカイルの返答にナナは頬を膨らませた。

「いいよね、ペンダント……私も欲しいなあ」

「ナナちゃん、好きな子でもいるの?」

 ナナは上目づかいでじっとカイルを見つめるが、カイルは不思議そうな顔をする。

 ナナは面白くなさそうに顔をそむけた。


「秘密」

「なんだよ」

 二人が楽しく会話する姿を優しく見つめていたナナが、出来上がった料理を二人に運ぶ。

「ご飯出来たよ、どうぞ」



 マナは疲れた身体を休めるため、窓辺に置いてある椅子に座りながら月を眺めていた。

 ふと、先ほどの会話が蘇ってきた。二人が話していたルビーのペンダント。

 ナナのために買ってあげたいが、金銭的にとても無理だ、今の暮らしでも精一杯なのだ。


 やわらかな月の光を浴びながら、マナは深いため息をつくのだった。




 マナとカイルの二人はカイルの父親からお使いを頼まれて市場に来ていた。

 市場はいつも通り賑やかに活気づいていた。


 人通りが多く、カイルとはぐれそうで、マナはカイルの袖をつかんだ。

 その瞬間カイルがビックと反応した……が、カイルはマナの方を見ようともせず、さっさと歩いていってしまう。

 マナがカイルの様子を窺うと、なぜかカイルの耳は赤くなっていた。


 突然、カイルは足を止めた。

「何? 急に止まって」

「あれ」

 カイルが指差す先にいたのはナナだった。


 路地の方に入っていくのを見た二人は、後を追った。



 ナナは数人の女子に囲まれているようだ。彼女たちの不穏な空気を感じとり、声をかけられず、二人はその場で様子を見る。


「ナナ、これがルビーのペンダントよ。綺麗でしょ」

 女子グループのリーダーらしき女がペンダントをナナに見せびらかす。

 ナナは下を向いたまま、黙っている。


「あ、そっか。ナナはルビーのペンダントなんか持ってないわよね。ごめん」

 彼女の甲高い笑い声が響き渡る。取り巻きの女子達もさりげなくルビーのペンダントを見せながらクスクスと笑っていた。

 ナナは唇を噛みしめ、拳をぎゅっと握った。


 マナは見ていられなくて、ナナの方へ足を踏み出そうとしたが、カイルがそれを制した。

 カイルは真っ直ぐナナを見ると、首を横に振った。

「どうして?」

「……」

 カイルの手はきつく握りしめられ震えていた。彼もマナと同じ気持ちなのだ。


 彼女たちはさらにナナに詰め寄った。

「ナナも早く手に入れられるといいわねえ」

「それは無理よ、だってこの子の家は、ねえ」

「かわいそうに、父親があれじゃあねえ」

 次々に浴びせられる罵詈雑言にも耐え続けるナナ。

 マナもカイルも、もう耐えられなかった。


「お姉さんの雀の涙ほどの収入じゃあ、手も足も出ないでしょうよ」

 その言葉を聞いた途端、今まで沈黙を保っていたナナが動いた。


「てめえ! お姉ちゃんの悪口言う奴は、絶対許さねえ」

 ドスの効いた低い声、人を殺しそうな鋭い目つき、一瞬で人の間合いに入り込むスピード。

 その場にいた誰もが凍りついた。


 ナナに首元を掴まれた子がガタガタと肩を震わせ涙目になる。

「もう、いいわ……帰りましょう」

 彼女たちはナナから恐る恐る離れていくと、あっという間にいなくなった。


 ナナは彼女たちが去ったあと、自分の服についた誇りを払い、何事もなかったかのようにその場を後にした。



 マナとカイルは唖然とする。

 ナナを絶対怒らせないようにしようと心に誓うのだった。


 カイルは心配そうにマナを見る。

 マナは思いつめた表情をしながら下を向いていた。

「マナ……」


「私、頑張る」

  マナの瞳には決意が帯びていた。

「マナ……、無茶なことは」

「カイル、心配しないで」


 マナは家族のこととなると無茶をするところがある。

 カイルは胸に浮かんだ嫌な予感を拭い去ろうとしたが、なかなか消えそうになかった。






 読んでいただき、ありがとうございます!


 次回も読んでいただけたら嬉しいです、よろしくお願いします(^▽^)/

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