第3話 開業のために準備!

「さ、具体的にどうするかだなー」


 次の日、放課後に久我くん…頼登くんの家に二人で集まって、具体的に話をすることになった。

 あの人気者の頼登くんの家にあがって、二人きりで話し合う日が来るなんて…思ってもいなかった。


「ちゃんと、ハートボイスを活用できて、そこまで不審に思われずに、多くの人を助けられる方法…」


 え、待って。それ、めっちゃ難しくない?


「でも、頼登くん。1つ目と2つ目は解決できると思う」

「え? 不審に思われずに、ってやつ?」


 昨日テレビを見ているときに、閃いたんだ!


「占いだってことにしたら、ハートボイスを使っても不審に思われずに、直球で言いたいことが言えるんじゃない?」


 頼登くんはうーんと考えて…。


「確かに! それいいな! 柚芽、やるな!」


 わぁ、頼登くんに褒められた…。

 今でも、ここにいることが信じられないよ。


「それは採用するとして、多くの人に知ってもらうのはどうするか…」


 多くの人に知ってもらう…。

 頼登くんがいる時点で結構来てくれると思うけど…。

 逆に、私が場違いなんじゃないかって、今更ながら思っちゃう。


 そういえば、今年もクラブ紹介があったな。運動だけでなく、勉強もゲームも芸術も、色々なクラブがある。

 うちの学校のクラブは超自由なんだよね!


 ん…自由?

 クラブ?


 ――部活…!


「そうだよ、頼登くん! 部活みたいにすればいいんだ。お悩み相談所、みたいなのを作ってさ、部活みたいに広めればいいんだよ!」


 うん、我ながら良いアイディア‼

 頼登くんのお役に立てて嬉しいよ。


「柚芽天才? それめっちゃいいじゃん! 早速色々決めよう!」


 その時に、頼登くんは元気な笑顔を見せてくれた。


 ドキッ…


 あれ、一瞬、鼓動が変な感じになった気がする…。

 気のせいかな?


「じゃあ、まずは名前だな! その後、ポスターとか作って、先生に一応許可取ってから学校中には貼るか…」


 そ、そっか。部活みたいにするってことだけで結構目立つし、ましてや頼登くんと一緒なんだから、私もめっちゃ目立つってことなんだよね…!

 でも、自分で決めたことだし、頑張らないと‼


「お悩み相談所、とかでいいか? でも、それだけじゃ俺らだって分かんないよな…」


 そうだねぇ。でも、頼登くんは学校中に名前が知れ渡ってるんだから、そんな…。


「「あ、名前」」


 どうやら同じことを考えていたらしく、声が重なる。ふふふっと笑ってしまった。


「じゃあ、下の名前でいいか。柚芽と頼登のお悩み相談所?」

「ちょっと物足りない…えっ、私が先?」

「いーじゃん、語呂合わせって短いほうが先だし」

「そうだけど…」

「あ、ハートボイスから思いついたんだけど、どっかにハートって入れるのは?」

「それいいかも!」


 こうやって会話が弾んでいることも、なんか楽しい。


「じゃあ、『柚芽と頼登のハートのお悩み相談所』とかは?」

「そうしよっ!」


 よし、名前が決まった‼

 これで、私も誰かの役に立てるかも…!


「じゃあ次はポスターだな。柚芽、字綺麗だから書いてよ!」

「えっ、なんで私の字知ってるの?」

「だって隣の席だし」


 確かにそうだ。でも、平々凡々な私の字なんて、たとえ隣の席だったとしても気にしないと思っていた。


「…分かった」


 自分が字が綺麗だなんて自覚はないけど、頼まれたからには責任を持ってやらないと。


 何で書こう? 貧相なやつだと嫌だな…。


「そういえば、頼登くんってなんで私はハートボイス使えないの?」

「それは、特殊なコンタクトをつけてるからだよ」

「コンタクト…」


 確かに、ああいう風に聴こえたのは、悩みがないからじゃなくて、何かにガードされてるような感じがしたからだ。

 コンタクトが頼登くんの悩みをガードしていたのなら、全てに合点がいく。


「なんとなく、自分がハートボイス持ってるのに、他のハートボイスに悩み事まんまと見られるのは、自分のプライドが傷つくっていうかさ!」


 そう言って頼登くんは声を上げて笑った。

 笑った、けど…。

 少し、悲しみが滲んで見えているような気もした。




 迫力が出るように、と太めの筆ペンで、上の方に大きく、「柚芽と頼登のハートのお悩み相談所、開業!」と書いた。


「どうかな?」

「おっ、いいじゃん! 迫力あるなぁ」


 書き終えた私のポスターを見せると、頼登くんはいつも通りの元気なテンションでそう返してくれた。


 一瞬、さっきの悲しそうな笑顔は気のせいかなって思ったけど、私のそういう勘は結構当たるんだよね。

 だから、今回も自分の考えを信じる。


 きっと、さっきの切ない笑顔も、本当だ。


「じゃあ、下のリード文的なのは俺が書くわ、そんぐらいしかできないし」

「そんなことないよ…頼登くんならなんでもできるよ!」

「えぇ、そうかぁ?」


 そうだよ、頼登くんは、何でもできるみんなの人気者だもん。


「えーっと…『皆さんのお悩みを当てて、ぱ…』」

「ちょーっと待って! 占いで通すって話にならなかったっけ?」


 頼登くんも、こうやって間違えることもあるんだなぁ。それが見れてちょっと嬉しい!


「あー、りぃりぃ、忘れてた! すまん!」

「い、いやいや…」


 本気で謝らせちゃって申し訳ない気持ちはあるけど、普通下書きしてから油性ペンで書くよね?

 この人、一発書きで間違えてること書こうとしてたんだけど…。


「じゃあ柚芽、文章だけ考えて!」

「えぇ、また私?」


 頼登くんが全部やってくれればいいのに~。

 って思ったけど、ほったらかしにしてたらまたさっきみたいな間違いしそう。危なっかしいなぁ。


「んー、『占いをしてあなたのお悩みを当てます! 三人で解決へ導きましょう!』とかは?」

「いいな、それにしよう。えっと、う、ら、な、い、を、し、て。次は?」

「あなたのお悩みを」

「あ、な、た、の、お、な、や、み、を…。次は?」

「当て――」


 そんなこんなで、結局丁寧に私が教えることになってしまった。




 作業は17時30分くらいまで続いた。

 字を書いたり、色を塗ったり、イラストを描いたり、コピーしたり。


「柚芽、大丈夫か? 時間」

「うん、お母さんとお父さんに連絡してあるから」


 私がそう言った時…また、さっきみたいな悲しい笑顔をした。

 ねぇ、頼登くん。あなたのその笑顔は、いったい何…?


「…そっか! でも、心配だから家まで送る!」

「えっ⁉ でも…そしたら頼登くんの帰りが遅くなっちゃうよ…」

「大丈夫大丈夫、俺も親には言っておくよ」


 それもあるし、何より…もし、その姿を理央ちゃんやその友達に見られたらことだ。きっとすぐに噂されてしまう。


 そんな私の考えとは裏腹に、


「よし、じゃあ行くか!」


 と、もう自分のコートを着ている。

 まぁ…理央ちゃんの家は反対側だから、大丈夫…かな? 私と頼登くんの家は比較的近い方だし。


「うん…」


 乗り気ではなかったけど、頼登くんのご厚意をムダにしたくなくて、お言葉に甘えさせてもらった。




「どのくらいで着く?」

「んー、5分くらいかな? 大通りをまっすぐ行って、4個目の信号を左に曲がったらすぐだから」


 できることなら、人目に付きやすい大通りは通りたくなかったけど、私の家と頼登くんの家はこの大通りを挟んで建っているから、しょうがない。


「へー、結構近いんだな! ハートボイスのこと話しやすいな」

「そうだね…活動はいつから?」

「明日許可がもらえたら早速じゃね? 遅くする意味ないしさ!」


 この大通りは、ピアノ教室や塾、駅やコンビニなどもすべて集まっている、比較的栄えている地域。

 ここら辺に人が集まることは多いけど、理央ちゃんとその取り巻きの人さえいなければ、ハブられたりはしないはず…。


 そんな楽観的な考えで仲良く話していたことが…間違いだった。

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