覚醒(二)
私はサエを抱きかかえて大きく横っ飛びした。
ズガアァンッ!
先程まで私達が居た地面が割れた。舞う土埃。昨日と同じだ。いてっ、ちょっと埃が目に入った。
しみる瞳の先にはやはりあいつが居た。仮面で顔の上半分を隠した男の管理人。残念なことに、昨日アキオが与えたダメージは完全に回復している模様だ。
「サエさん、離れて隠れて!」
言ってからマズイと思った。この荒れた土地には隠れるのに適した木や岩が何処にも無いのだ。逃げようにも大地のヒビや凹凸に足を取られて全力で走られないだろう。翼を持った管理人にすぐ追い付かれてしまう。サエもそれを悟って絶望した顔を私へ向けた。
くっそ、こうなったら私が戦って道を切り
「
私は十字手裏剣を一枚管理人へ投げた。こちらを見ていた彼は簡単にかわしたが、間髪入れずに私は脇差しを抜いて襲い掛かった。
ガキイィィン!
私の刀と奴の鎌が合わさった。互いに打ち合った
「くうっ……」
ヤバイ踏ん張れない、右足が浮く。体重を乗せて突進したのに、
狙ったのか偶然か、管理人は離れようとしていたサエに向かって私を弾き飛ばした。
「きゃあ!?」
「……っ!」
サエを巻き込んで一度大地に転がった。彼女が布団の代わりになってくれたので痛みはさほど無い。私はすぐに起き上がって管理人に対して構えた。
力でも速さでも管理人の方が勝っている。もう頼みの綱のアキオは居ない。私一人でどうやって戦えばいいんだろう。
考えろ、考えろ、考えろ。
ズグッ。
(あれ…………?)
左手を背後に回して確認した。私の背中には短刀らしき物体が突き刺さっていた。
「サエ……さん? これ何……?」
立ち膝姿勢の私を見下ろすサエに尋ねた。背後に居た彼女なら私の身に何が起きたか知っているだろう。
しかし彼女は答えず右脚で私を蹴り付けた。体勢を崩した私の身体は鎌を持った管理人の眼前に倒れた。
そしてサエは一目散に林の方へ駆けていったのであった。その行動で理解した。私の身体に短刀を沈めたのは他ならぬ彼女であるのだと。
「サ……エ……」
管理人の翼が有ればサエを悠々追えただろう。しかし管理人は地面に伏した私を冷たい視線で射貫き、鎌を大きく振り上げた。
……ああ、こいつは私を殺したいんだな。アキオと一緒に自分を傷付けた私へ恨みを抱いているんだ。隠れる場所の無いここでタイミング良く襲ってきたのも偶然じゃない。きっと私が林から出てくるのを待っていたんだ。
ザガンッ!
身体を
狙った一撃を外した管理人はサエと同じく右脚で私を蹴った。違うのはその威力だ。私の身体は宙に浮き二メートル先へ飛ばされた。
「ゴホッ」
口から鮮血が吐き出された。管理人に蹴られたからか、サエに刺されたせいなのか。
「くふっ、ふふふふふ…………」
自嘲の笑みが漏れた。私はあまりにも間抜けだ。
現世でキキョウとヒサチカ姉弟に騙されたばかりなのに、どうしてまた初対面の相手を近くに置こうとしたのだろう。せっかくアキオが関わるなと忠告してくれたのに。
サエは私が思っていた以上にしたたかな女だった。仮にも仲間となった者を生贄として差し出して、自分が逃げる時間稼ぎに使うなんて。そんな性根ならそりゃー地獄に落ちるってば。
「あぐっ」
管理人に再び蹴られた。野郎、蹴り殺すことにしたのか?
「ぎっ」
そうみたい。三度目の蹴りだ。
………残忍な奴。管理人に選ばれるのは崇高な人格の持ち主じゃなかったっけ? こいつは無表情なのに楽しんでいるように感じるのは何故?
「!」
四度目の脚が接近してきた時、私は手に隠し持っていた十字手裏剣を前に出した。私の身体は蹴り飛ばされたが、管理人の足の裏には手裏剣が深く刺さった。ざまぁみろ。
「………………」
やっぱり無表情だけれど、管理人の男が怒っていると私は確信した。手裏剣を抜いて乱暴に地面へ叩き付けたのだから。
あはは、人としての感情が残っているのなら勝機は有る。能力的に優れている者は慢心して油断しやすい。
(いってぇ…………)
フラつきながらも私は立ち上がった。間違いなく肋骨が何本も折れている。ヒビが入った程度じゃなくて複雑にパキッといったんじゃないかな。
でも大丈夫だ、致命傷でない限りは回復できると案内人が言っていた。信じるからね馬鹿鳥。
傷を負って仲間がおらず敵は強大、手放してしまった刀は遠くに落ちている。ハッキリ言って詰みだ。でも私は諦めない。
エナミが私を見つけてくれて、アキオが生かそうとした。繋いでくれた二人の為に諦めてなんかいられない。
(眠り姫の
痛いし口の中が血の味で最低。でもこんな時なのに生きているって実感している。
ホルダーに残っている四枚の十字手裏剣。私は左右の手で一枚ずつ握った。
戦意を喪失していない私を管理人は睨み、鎌の
「くらえ死神!」
管理人に向かって駆けながら左右の手裏剣を連続して投げた。奴は鎌で弾きそのまま刃を旋回させた。
接近していた私はしゃがんで
「おおぉぉぉぉぉ!!!!」
そして立ち上がりざまに、下方から上へ突き抜けるように右の拳を管理人の顎へ叩き込んだ。
バガンッ、と綺麗に入った拳は管理人を吹き飛ばしたのであった。一矢報いたぞ、ばーか。
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