実行部!!!!
夜舞桜千
第1話 新入部員
キーンコーンカーコーン。
チャイムの音が鳴ると、教室から駆け足で出ていく人もいれば、友達と話しながら出ていく人の姿も見られる。中には教室に残り過ごす人も。放課後の時間の過ごし方は人それぞれである。有意義に使うか、無意義なものになるか。人生80年と言われる時代の今、そのうちの3年なんて大したことない。だが、たった3年でも10代のうちにしか経験ができないものがあるとしたら、それは価値あるもの、いや何にも変え難い時間になるのではないか。
暖かい日差しが私の背中を温めてくれているようだ。桜の花も散ってしまい、太陽の光が綺麗な緑色の葉を照らしている。重い足を動かしながら進んでいく。この道は好きだ。大きな木のトンネルが私を歓迎してくれてるみたい。道がコンクリートからレンガに変わると目的地に到着する。私立緑川高等学校。今日から通う私の学校だ。
前の学校は入学してから一か月も通ってないと思う。ついこの間、父の仕事の都合で転校を余技無くされてしまい急いで転入手続きをした。どこの高校にしようか迷ったけど、無難に家から近い高校に決めた。緊張するけど、新しい高校生活は楽しみです。
確か、職員室はこっちだったはず、、、あった。私の担任の先生は雨宮先生という女性の先生だ。まあ、女子校なのでほとんどが女性の先生なんだけど。
ーコンコンコンー
「質礼します、雨宮先生はいらっしゃいますでしょうか。」
「あ、土森さん、待っていたわよ、こっちまで入ってきて」
「わかりました、失礼します。」
私は左奥の机にいる先生のところまで向かった。
「おはよう、迷わずにこれた?」
「はい、家から近いので。」
「あぁ、そうだったわね、どうかな、学校の雰囲気、、、ってまだわからないか」
「・・・あっ、でも校門までの木に囲まれている道は素敵でした。」
「一緒ね、私もその場所が一番好きよ」
と言った後2人で顔を見つめ合い笑っていた。先生のおかげか緊張や不安はどこかに消えていた。
ーキーンコーンカーンコーンー
2人の笑い声に入り込むようにチャイムがなった。
「じゃ、教室に向かいましょうか、あなたのこれからのクラスは1年2組よ」
このクラスでの出会い、学校というべきか、私の3年間が大きく変わったのかもしれない。私の人生で高校選びが人生の分岐点だったのかもしれない。
クラスに入り、クラスメイトの前で自己紹介をした。入学してから1ヶ月しか経っていないのに転校生が来たので珍しそうな反応をしていたけど、歓迎してくれた。その後はいつものように授業を受けてあっという間に放課後を迎えた。放課後は雨宮先生に呼ばれていたので職員室に立ち寄った。話を聞いてみると、この学校は必ず部活に入らないといけないらしい。私は時間もあったので先生から部活のリストをもらい順番に見学することにした。リストを見ていると「実行部」と変わった部活名に目が入った。生徒会関係の部活なんだろうか、一番興味をそそられたので一番最後に見学に行くことにした。
バスケ部、バレー部、バトミントン部、、陸上部・・・どれも強豪校なので練習がハードのように感じた。勉学に支障が出るのはやめておきたいので、運動部はやめておこう。よし、次は文化部を見に行こう。家庭科部や手芸部、吹奏楽部、そのほかサークルも見たが惹かれるものがない。
「困ったなぁ〜」
残ってるのは、名前が気になっていた「実行部」最後に残していたけど、入部したいとは思え無さそうだから困る。私はため息を吐きながら実行部がある部室に向かった。
「もう、やだっ」
「やだじゃありません、今日はこれって決めたでしょう」
「むぅ〜、ちゅらいっちゅらい〜」
「赤ちゃん風に泣きながらいてもダメデェちゅよ〜」
どんな会話をしているんだ?呆れながらドアを開けた。
「あの、見学に来たんですけど、」
そこには3人いて、目を丸くしてこっちを見ていた。何やら作業をしていたので急に入ってきた私に驚いたんだろうか。
しばらくして1人の子が声を上げた。
「あーーーー!転校生でしょ!」
「わぁ、びっくりしたあ、もうっ、つむちゃん急に大きな声出さないでよぉ〜。あ、入ってきた方、お騒がせしてすみません〜」
「だってさ、誰かなって思ったら、自分のクラスにきた転校生だったらテンション上がるじゃん!」
「はっ!、それはわかりみ深い!でもぉ〜、珍しいよねぇ、つむちゃんがクラスの子の顔覚えてるなんてぇ〜」
「だって、めっさ可愛いじゃんっ、てか君たちも同じクラスでしょうがっ」
「知ってるよぉ〜、でもそんなに大声出さないよぉ。ねぇ、ののちん」
「うん」
「ひどっ、てかほったらかしてごめん、えっと名前、、、」
「土森です」
「下の名前はぁ〜!?」
このほわってしてるけど一歩間違えたらただだらけて見える人は大丈夫なのか。
「翠です」
「すぅうぃたぁ〜ん、可愛い名前、私は結愛だよぉ〜。よろしくね」
「こらこら、勝手に自己紹介進めるな!で、結愛ちゃんは何しにきたの?」
お前も呼ぶんかい!?スムーズに呼ぶからびっくりした。
「えっと、部活見学に来てました、、、。」
紬、結愛、音乃は思った。
「なぜ過去形?」
「なんか、想像してたものと違っていたので帰ります。」
そういって帰ろうとする翠の足を引き止めるような魔法の言葉を実行部は言った。
「見た目だけで決めつけて、中身を見ないまま去ってしまっていいのかい?」
「それは、ぐちゃぐちゃにつぶれてしまったカバンの底のパンと同じなんだよ?」
「見た目が悪くても中身は美味しい!」
翠は可哀想な目で3人を見たあと、静かに教室を出ようとした。
「ちょっと、なんで例えがカレーパンなんだよ、全然響いてないじゃん、もういい、私が説明する」
気にするところはそこなんだ、、、。私、なんで実行部なんかに来ちゃったんだろう。変わっている名前の時点で変わっている人しかいないに決まっているじゃんか。
「翠ちゃん、実行部の意味ってなんだと思う?」
「生徒会関係の部活か、行事ごとの手伝いなどをする部活かなって思ってました。」
「まぁ、近いかな」
その後ろで結愛と音乃は
「全然近くないよぇ〜」
とコソコソと話していた。
「つまりその日にやることを話し合ってでたことをやる部活だ」
全然近くないし、それがなぜ認知されたのかがわからない。
「今、変な部活だなぁ〜て思っただろ?」
つむちゃんという人はとてもニヤニヤして聞いてきた。まだ本人の中でとっておきの論破論でもあるのだろうか。
「・・・・はい」
「この学校は文武両道に力を入れているから、部活もたくさんある。しかも、どの部活も活躍してる。しかしだ、才能を持った一部の人しか成績を残すことはできない。残りの凡人は皆同じように、文武両道を頑張りましたねと一括りにされるわけなのだよ」
※あくまで個人の見解です。
すごい偏見だ、、、。
「でも、その部活で得られたものとか、成長できたことはあるはずだから、何も残らないとは限らないと思うのですが」
すると彼女は私の回答を待っていたかのようにくらいついた。
「ああ、残るさ、個人のハートには。だが、それは体験した本人の中だけだ。知らない他人からしたらないに等しい。」
「何が言いたいんですか」
「内申書」
私はその言葉を聞いて、身体中に電気が走った。まさか彼女の目的とは、、、もう部活動説明などのレベルではない。これは、
「内申書に情は乗らない。記載されるのは、3年間で残した成績とその結果に対しての説明だけ。成績が少ないのに、いくら私は何を頑張りましたっ⭐︎と書いても試験管にはあまり響かない。※個人の見解である。才能の世界で生き抜くのは凡人にとって辛いことなんだよ。ただ、凡人でも内申書に記載できる項目がある、なんだと思うかね?ゆあくん!」
「それは、ボランティアなどの奉仕活動ですぅ」
「そのとぅーーーりぃっ!凡人でも唯一堂々と活動を記載できるんだ。緑ヶ丘高校は指定校推薦を含めた推薦でいける学校が多いことが魅力の学校だ。この推薦社会という戦場を勝ち抜いて笑えるか、その鍵は内申書だ。だから、我々は、内申書に残るような活動を毎日して、志望校に合格することを実行するという意味を込めて実行部と名付けたんだ。」
すごいドヤ顔だ。でも確かにすごく筋が通っていて説得力がある。残りの部員2名はろくに話も聞いていないが。でも話を簡単に要約したら、
「ボランティア部ではダメなんでしょうか?」
「翠たん痛いところつくねぇ〜」
結愛さんがそう思うってことは今までにも言われてきたんだろうか。
「だって、ボランティア部ってもうあるし、つまんなそじゃん」
「へっ?」
「ボランティアって毎日したくないし、考えたくないし、たまには違うこととか楽しいこととか考えたいじゃん。あと、めんどくさい先輩いるらしいし自分たちで自由に作ったほうが楽しいじゃん?大事な3年間だからね〜後悔なく過ごしたい」
「それわかるぅ〜。めんどい先輩だけは避けたいよねぇ〜」
「・・・たまに乗り越えて成長するとか聞くけど、そんな根性論は古いし」
さっきまで、すごく正論だったのに一気に緩くなった。でも、3年間ボランティア部ってなんだか寂しい気がする。確かに私も奉仕が好きなわけじゃないから、たまには楽しいことしたりして過ごしたいな。
「翠たん、今確かにって顔したねぇ〜」
さっきまで机の上でだらけてた結愛さんが急に目の前に現れた。
「一緒に3年間という青春を謳歌しよう〜」
「お〜」
結愛さんも音乃さんも、私はまだ入部するって決めたわけじゃないのに、、、。でもすごくゆるい部活だけど、見てきた中では一番のびのびとした明るさもある。まだ、友達もいないし、はいいて見てもいいかな。そう思い2人の手をとろうとした時に紬さんが大きな声で引き留めた。
「いい流れを止めてしまって悪いが、うちに入部するには試験を突破してからだ。」
「え〜うち試験とかなかったよぉ〜、何言ってるのつむちゃん」
「けち」
「それは、うちらが結成メンバーだからだ。新入部員となると試験が必須だ。部長の私が直々に判断してしんぜよう」
この人、部長だったんだ。
「試験の内容とはなんですか」
部長はしばらくの間を開けて答えた。
「内容は・・・名前に桜がついているかだ!ついていなかったら残念だが入部は諦めてくれ」
「何それ、試験じゃないじゃぁ〜ん!性格悪いぃ、翠ちゃんの苗字って?」
「土森です、ていうかなんで桜なんですか?」
それも気になるが、では帰ろうとした時なぜ引き留めたんだ。
「多分、私たちが仲良くなったのが、桜つながりだったのぉ。みんな苗字に桜の漢字が入っていたから。それで意気投合して流れるままに今って感じでぇ・・・。多分つむちゃんの中では特別なことだったのかなぁ?あ、そうだ」
結愛さんは何か思いついたように部長に話しかけた。
「つむちゃん、翠ちゃんの苗字には土がついてるよぉ〜。私たちの桜に栄養を与えてくれて支えてくれてるんだよぉ〜?関係ないことないし同じクラスっていうことで合格でいいんじゃなぁ〜い?」
さらに悩んでる部長を見て、私を抱きしめながらもう一押しした。
「それに、たくさんある部活の中から、こんなに可愛い転校生がうちに来てくれたって何かの縁じゃない〜?」
すごい、結愛さんがしっかり話してる。
「・・・しょうがないな!特別だぞ、翠は可愛いのと同クラ割りだからな」
「ようこそぉ〜、翠たん」
「よこそ〜」
こうして私は実行部に入部しました。
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