第14話 魔王討伐
「やだ。シラミがついている。まったく、これだから男の子ってだらしないのよ」
ぶつぶつ文句をいいながら、シルキドはワルドの髪を整えていく。
「ご、ごめん」
「そこまで気にしなくていいわよ。辺境の田舎育ちで髪にシラミがいない人なんていないんだから。でも、あんたは貴族になるんだから、身なりも整えないとね」
そう言いながら、ワルドに回復ポーションを飲ます。シルキドは実にかいがいしくワルドの面倒を見ていた。
「なあ、王子は本当に魔王を倒しに行く気なのかな」
「心配しなくていいわ。殴ってでも止めさせてやるから。だいたい、レベル10前後で倒せる魔王なんていないわよ」
それを聞いて、ワルドもほっとする。
「そ、そうか。なら『緊急脱出』で……」
そこまで言ったところで、ワルドのところに王子たちがやってきた。
「もう魔力が回復しただろう。いくぞ」
無理やりワルドを促して、連れて行こうとする。
「待ってください。まだワルドは回復しきっていません。今すぐ脱出魔法を使わせるというのは……」
「脱出はしない。今から魔王城にいく」
頑なに主張する王子に、とうとうシルキドは切れてしまった。
「いい加減にしてください。独断専行も度が過ぎます。どうしても行かれるというのなら、あなたたちだけで行って……ふがっ」
次の瞬間、シルキドの鼻と口が何かの液体でふさがれる。王子の後ろで、クラウディアが杖を振りかざしていた。
「『眠りの水(スリーピーウォーター)』
水の魔法を使って、シルキドを眠らそうとする。
「なにを……がぼっ」
こらえきれずに息を吐いた鼻と口に、『睡眠』の魔法がかかった水が浸入してくる。シルキドは、あっという間に眠りに落ちた。
「シルキド!何をするんだ!」
驚いてシルキドに駆け寄ろうとしたワルドの首元に、ゲオルグが剣を突きつけた。
「いいか、逃げたらシルキドを殺すぞ。大人しくついてこい」
そう言われて、ワルドはしぶしぶ王子たちについていく。シルキドを除いた六人は、魔王城へと向かうのだった。
魔王城
王子たちとワルドが魔王城に入ってくるのを、堕人王ダニエルはモニターで見ていた。
「よし。いよいよ「計画」の最終段階だぞ。後はどうやって奴らを魔王の間におびき寄せるかだが……とにあえず、堕人族の親衛隊に戦わせて……」
ダニエルがそこまで言った時、威厳のある声が遮った。
「必要ない。後は適当に宝箱でも置いておけば、欲の皮が突っ張った奴らは勝手に深入りしてくれる」
ダニエルたちが振り向くと、彼らが崇める「主」がその場にやってきていた。
「わが主よ。こちらにいらしたのですか?」
「ああ。最後に「ワルド」の姿を目に灼きつけておきたくてな」
「主」はモニターに映るワルドを、悲しそうな目で見つめる。
そして一つ首を振ると、堕人族たちに命令を下した。
「堕人王ダニエルを残して、他の者は退避せよ。奴らと無駄な戦いをする必要はない」
「はっ」
その場にいた堕人族は、「主」の命令に従ってアダムアップル城から退避していった。「主」は残ったダニエルの肩に手を置いて頼み込む。
「ワルドを頼んだぞ。すぐに迎えに行く」
「……できれば、私だけでもワルド様のお傍にいて差し上げたいのですが……」
その訴えに、「主」は首を振った。
「ダメだ。ワルドは永遠の苦痛と孤独を耐えてもらわなければなければならないのだ。この世界のために」
「……ご命令に従います」
堕人王ダニエルは悲痛な顔をして、頭を下げるのだった。
王子たち一行は、魔王城の中に入る。奇妙なことに、堕人族どころか魔物の一匹もいなかった。
「どういうことだ?ここが魔王城というのは間違いだったのか?」
「いや、間違いないでしょう。記録にある数百年前の魔王城の構造が一致しております」
ヘルマンが昔の地図を確認しながらつぶやいた。
「なら、なぜ魔物がいない?」
「もしかして……俺たちが攻めてくると知って、にげだしたんじゃねえか?」
ゲオルグが大口を開けて笑うが、ワルドはその笑いに同調できなかった。
(なんか悪い予感がする。これはワナなんじゃ?)
そう思ったワルドは「緊急脱出」で逃げたくなるが、シルキドを残して逃げるわけにはいかない。
仕方なく王子たちについていくと、豪華な扉がついた部屋が目に入った。
「ここは……?」
ドアを開けてみると、無数のカプセルと宝箱が並んでいる。
「なるほど。ここで魔物を作っていたのだな」
ワルドはダンジョン内の魔物がどうやって生まれるのか知って納得するが、ほかのメンバーは宝箱に釘付けである。。
宝箱の一つを開いてみると、まばゆいばかりの財宝が入っていた。
「やった!宝だ!」
「きれいなネックレス!これは私のものよ!」
よりによって魔王城で宝漁りなどしてしまう
「やれやれ……今はそんな状況じゃないだろうに」
そんな王子たちに、ワルドは幻滅してしまうのだった。
「宝はみつけたんだし、もういいでしょう。引き返して、シルキドを連れて脱出しましょう」
ワルドはそういうが、王子たちは聞き入れない。
「だめだ。ここまで来たんだ。絶対に魔王を倒す」
そういって奥に進んでいくので、仕方なくついていった。
城の最深部で、重厚な扉がついた部屋を発見する。
「おそらく、ここが魔王の間だろう。みんな、行くぞ」
王子の激に、他のメンバーの顔にも緊張が浮かぶ。
「その前に、荷物を取り出してここに置いておけ」
王子はワルドに向けてそう命令した。
「なぜです?」
「うるさい!財宝抱えて戦えるか!いいから全部出して置いておけ」
そうがなり立てるので、しかたなくワルドはすべての財宝や食料などを出して置く。玉座の前の広間は、ワルドが取り出した金銀財宝でいっぱいになった。
「これでよし。あとはこいつを生贄にして……」
「え?」
「なんでもない。いくぞ」
王子は扉を開けて中に入っていく。玉座には、黒いマントを纏った堕人族の王ダニエルが座っていた。
「よくぞここまで来た。勇者たちよ」
玉座に座った堕人王ダニエルは、偉そうに王子たちに声をかける。そしてワルドをみて目礼した。
「ふん。一人とはなめてくれたものだな」
「勘違いするな。我々にもある「計画」がある。そのために、わざわざ一人でお前たちを待っていたのだ」
ダニエルは、王子の煽りに恐れ入ることなくそう告げた。
「計画だと?なんのことだ?」
「それを知りたければ。余と闘うがいい!」
ダニエルは、玉座を降りて剣を構える。
「では、いくぞ!」
魔王と王子一行の戦いが、始まるのだった。
「ふふ、未熟だがなかなかやるな」
「なめるな!」
王子とゲオルグが二人一組になって、ダニエルと剣を交えている。
ヘルマンとローズレットは魔法で攻撃し、クラウディアは回復役に徹している。
そしてワルドの役目は、アイテム係である。
「なにぼやっとしてんのよ!王子にポーションを渡しなさい。この役立たず!」
「は、はいっ」
ローズレットに怒鳴られ、ポーションを投げ渡す。
「あなたはひっこんでいてください。戦闘力のないあなたがいても邪魔です」
クラウディアからは、冷たい声とともに後ろに追いやられていた。
それなりにバランスが良いパーティ編成だったため、レベルにおいて劣る王子たちでも、なんとか魔王と戦えている。
しかし、魔王は遊び半分のようで、あきらかに殺さないように手を抜いていた。
「このままじゃ、きりがねえ。アレをやるぞ」
いつまでも続く戦いにうんざりし、王子は皆に命令して一度後方に下がる。
「ぐははは。何をするつもりか知らんが、せいぜいあがくがいい」
それに対して魔王のほうは、追い打ちをかけずに剣を振る手を止めて王子たちの出方を伺った。
「王子には何か作戦があるのですか?」
そう問いかけるワルドに、王子はニヤッと笑った。
「ああ。こうするのさ。ゲオルグ!」
「はっ」
次の瞬間、ワルドはいきなりゲオルグに突き飛ばされる。なすすべもなく転がっていき、堕人王ダニエルの近くに投げだされた。
「ワルド様!」
ワルドが突き飛ばされたのを見たダニエルは、助け起こそうと慌てた様子で近づいていく。
「いまよ!ウインドバインド!」
ローズレットが杖をふると、風でできたロープがワルドとダニエルを取り巻き、締め上げる。二人の体は密着したまま動けなくなった。
「王子!今です」
「ああ!ライトニング!」
王子が振りかざした剣から、一筋の稲妻が走り、二人を打ち据える。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!」
「ぐっ」
ワルドとダニエルは同時に叫び声をあげる。激痛とともに神経が麻痺し、動けなくなった。
「仕上げは僕ですね。『闇人形(ダークマリオネット)』
ヘルマンが杖をふると、そこから魔力でできた黒い糸が発せられ、ワルドに絡みつく。
次の瞬間、ワルドの魔力が暴走し、空間に黒い穴が開いた。
「そんな!なぜ!」
「僕の闇魔法は相手の体を操ることができます。あなたの「空」の力、今こそ魔王封印の為に役立たせていただきましょう」
ヘルマンの笑い声が、玉座の間に響き渡る。空間の穴はどんどん広がっていき、ワルドとダニエルを呑み込もうとしていた。
「うわぁぁぁぁぁぁ」
「……これで「計画」は成った。だが、愚かな人間どもよ。忘れるな。ワルド様に無礼を働いた貴様たちは、「あのお方」にきっと裁かれるだろう」
ワルドの絶叫とダニエルの捨て台詞を残し、空間の穴は二人を吸い込んでいく。
「やったぞ!俺たちで魔王を倒した!」
玉座の間に、王子たちの歓声が響き渡るのだった
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