第13話 魔王城

「はぁ……はぁ……ここはどこなのかしら?」

ローズレットとクラウディアは、いつのまにか開けた場所に出ていた。

そこは宝物室らしく、いかにも何か入っていそうな重厚な宝箱が立ち並ぶ。

「宝箱がいっぱいありますわ……やった!」

喜んで宝箱を開けようとしたローズレットだが、遅れてやってきたシルキドに止められた。

「待って。もしかしたら、ワナが仕掛けられているかもしれません」

それを聞いて、宝箱に延ばされたローズレットの手が止まる。

「……だけど、せっかくの宝箱を見過ごすのは惜しいですわ。誰か、捨て石になってもいいやつがいないかしら……そうだわ!」

ローズレットの視線がシルキドに向く。

「ちょうどいいわ。あなた、この宝箱を開けなさい」

「え?で、でも、こういうダンジョンの宝箱はワナが仕掛けられていることが多いって授業で習って」

「いいから。これは命令よ!」

そう強く言われて、シルキドはしぶしぶ宝箱に近づいた。

「仕方ないなぁ……」

その光景をみて、モニターで監視していた堕人族たちは慌てる。

「シルキド嬢が宝箱を開けるぞ。急いで宝箱をワナのないものに差し換えるんだ」

たくさん並んでいる宝箱の一つが転移し、シルキドの前に現れる。

「あれ?一瞬宝箱がぼやけたみたいだけど、気のせいかな」

宝箱を開けると、その中には豪華なドレスが入っていた。

「これは……「風舞のドレスね。私にふさわしいわ」

シルキドを押しのけて、ローズレットがドレスを去り上げる。

「ほら、ワナなんてなかったではないですか」

それを見て、クラウディアも他の宝箱をあげる。そちらには、水色を基調としたシスター服が入っていた。

『「清廉なる修道服」ですね。聖女と認められたものしか身にまとうことができない聖なる服。うふふ」

またも伝説の装備を手に入れて、クラウディアはにんまりと笑う。味をしめた二人は、どんどん宝箱を開けていくのだった。


その時、王子たちとワルドが部屋に入ってくる。

「お前たち、ここにいたのか?その装備は?」

豪華な服やアクセサリーを身に着けた二人を見て、王子が問い詰める。

「王子、残念でしたわね。ここにある宝はすべて私たちがいただきましたわ」

ローズレットは、きらきらと輝く宝石や金貨、伝説の武器などを見せびらかしながらドヤ顔をした。

強そうな武器や防具を見て、王子たちは嫉妬する。

「俺たちにもよこせ!」

「お断りですわ!全部見つけた私たちのものです」

互いに譲らずダンジョンの中で言い争いが始まる。見かねたシルキドが仲裁に入った。

「王子もローズレット様も、いい加減にしてください。ここは危険なダンジョンの中です。手に入れた装備は、均等に分けて戦力の増強を図るべきです」

それを聞いて、しぶしぶ双方は鉾を収める。

「……仕方ありませんわね。ダンジョンを出るまで、貸して差し上げますわ」

嫌々ながらも王子たちにも伝説の武器を分けるローズレットたちだった。

「ワルド、ここはどのあたりなの?」

「ええと……たしかノーズダンジョンの奥の『蝶の大広間』だと思う。ここから少し進むと、オーラルダンジョンへと続く横穴があるはずだ」

地図を確認したワルドが告げる。それを聞くと、シルキドは引き返すことを提案してきた。

「偵察としては十分ね。それなりに成果もあったわ。脱出しましょう。ワルド、『緊急脱出(エクジット)』の魔法を使って」

「わかった」

ワルドが『空』の脱出魔法を使おうとした時、王子たちに止められた。

「ちょっと待った。俺たちの任務は魔王城の位置を確認することだ。ここまで来て戻るなんてできない。先に進むぞ」

「王子、ですが……」

止めようとするシルキドを振り切って、王子はさらに主張する。

「伝説の装備を手に入れた今の俺たちになら、敵はいない。いいからいくぞ」

そういって、取り巻きの二人を連れて先に進んでいく。残りの者たちも、しぶしぶ後に続くのだった。


オーラルダンジョンとの分岐点を過ぎて、さらに進むと洞窟から開けた場所にでる。はるか先には、銀色の外皮をもつ巨大なリンゴのような城が見えていた。

「あれが魔王城か。本当にあったんだな」

その威容をみた王子一行は、思わず感動をしてしまう。それだけ銀色に輝く城は美しかった。

以前見た時はあたりを警戒して飛び回っていた飛行車も飛んでおらず、城は不気味なほど静まり返っている。

その静けさに、シルキドはむしろワナの臭いを感じとっていた。

「王子、魔王城の位置は確認できました。退却しましょう。ワルド、『緊急脱出」を」

「ち、ちょっと待ってくれ……」

ワルドはその場にへたり込んでしまう。

「どうしたのよ」

「どうやら、魔力切れみたいだ。あの宝箱の中にあった大量の財宝を運ぶために、魔力を使い続けていたから……」

地面に座り込んではぁはぁと荒い息をつく。そんなワルドを、ほかの五人は軽蔑した目で見ていた。

「ふん。軟弱な奴め」

「所詮は平民ね。荷物もちもまともにこなせないなんて」

シルキドはそんな彼らを相手にせず、心配そうにワルドの額に手を当てた。

「……魔力がほとんどなくなっているわ。仕方がない。少し休んでから脱出するわよ」

洞窟に戻って休憩をとる。倒れたワルドを、シルキドはつきっきりで看病していた。


シルキドとワルドから少し離れたところで、王子は他の五人に相談を持ち掛けていた。

「このままダンジョンを進めて、一気に魔王を倒してしまおう。そうすれば、魔物退治なんて面倒なことを終わらせられるんだ」

それを聞いたゲオルグとへルマンは乗り気になる。

「いいねぇ。俺たちなら魔王を倒せるぜ」

「私たちもこのダンジョンの戦いでレベル10になりましたからね。きっと魔王とも戦えますよ」

勇まし気に武器を振りかざして同意する二人だったが、ローズレットとクラウディアは難色を示す。

「いやですよ。そんな危ないこと」

そんな二人を、王子は説得する。

「ダンジョンの途中にある宝物庫にすら、伝説の装備や金銀財宝があったんだ。魔王城には、もっとすごい宝があるとは思わないか?」

「それは……確かに」

「このまま軍に任せたら、二度と手に入れる機会がない宝物をすべてもっていかれるかもしれないぞ」

それを聞いた二人は、欲望に目を輝かせた。

「でも、私たちだけで戦っても、魔王を倒せるとは思えません。なにか確実な策でもないと」

クラウディアの言葉をきいたヘルマンは、ニヤッと笑って作戦を告げた。

「実は、王国所属の宮廷魔術師である父トールから提案されたプランがあります。たとえレベルが足りなくても、確実に駄人王を倒せる方法です」

ヘルマンは、ローズレットとクラウディアにそのプランを話すのだった。

「なるほど。それはいいですね。役立たずの荷物運び、一人犠牲にするだけで済むなら安いものですわ」

「おそらく、女神ロース様が彼に「空」の力を与えたのは、駄人王を封印するためだったです。これは神のご意思なのでしょう」

それを聞いて、二人も納得した。

「決まりだな。このまま魔王城に攻めていって、堕人王ダニエルを倒そう。そうすれば、俺は一気に王太子になれるだろうぜ」

バラ色の未来を思い浮かべて悦に入る王子だった。

「ですが、シルキドさんはどうなされるのですか?あの平民を相当気に入っている様子。邪魔されるかもしれませんわ」

ローズレットはそう危惧する。。

「それは、私に任せてくださいな。邪魔ものには眠っていてもらいましょう」

クラウディアは自信たっぷりに胸を叩くのだった。

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