第12話 ダンジョン攻略

真っ先にダンジョンに入って戦を開始した王子たちだったが、パーティメンバー同士の仲は決して良くなく、お互いに連携が取れていなかった。

「くらえ!ライトニングソード!」

エーリッヒ王子が雷をまとった剣を振るうと、それを受けたズルリンが消滅していく。

「どうだ。俺の魔法は。すごいだろう」

振り返ってシルキドに自慢するが、彼女は困った顔をして告げた。

「王子。ズルリン相手にそんな大魔法を使わなくても……もっと効率を考えて……」

シルキドが調子に乗って大魔法を打ちまくる王子を諫めようとするが、彼は聞き入れない。

「大丈夫だ。俺をなめるな。この程度の雑魚相手に疲れるわけないだろう」

「ですが……」

なおも止めようとするシルキドを、側近の二人が押しとどめた。

「黙れ。王子に口出しするな。女の癖に」

「そうですよ。君は大人しく私たちの雄姿をみていればいいんです」

ゲオルグとヘルマンも、王子をとめるどころかますます煽ってきた。

「さすが俺の腹心たちだな!よし。このまま奥まで攻めていくぞ」

「おう!」

「お供します」

三人は、ほかのメンバーを置いて先にいってしまった。

そんな彼らを、ローズレットとクラウディアは冷たい顔で嘲笑っている。

「王子もまだまだお子様ね。私たちみたいな上級貴族が魔物と戦う意味なんてないですのに」

「そうですよ。戦いは下賤な者たちに任せて、私たちは後方で全体的な指揮を執るべきなのです」

こともあろうに戦場にお茶会セットを持ち込んで、優雅に紅茶をすすっていたりする。

その様子を見ていたワルドは、どうしたらいいかわからなくなった。

(この人たち、本当に貴族なんだろうか。なんか好き勝手に振舞うだけで、まったく協力する気がない。こんなので駄人族と闘えるんだろうか。この奥には魔王城があるのに……)

ワルドが考え込んでいると、バシッとシルキドに背中を叩かれた。

「ほら、ぼやぼやしない。アンタは王子たちを追って連れ戻して」

「え?でもここの守りは?」

ワルドは優雅にお茶会をしている二人を見て危惧する。ここは入口付近とはいえダンジョン内であり、いつ魔物が出現するかわからなかった。

「お嬢様たちは私が守るわ。王子たちはあの調子で魔法を使っていると、すぐに魔力切れを起こしてうごけなくなると思うから、魔力ポーションで回復してあげて」

「わ、わかった」

慌ててワルドは王子たちの音を追って、ダンジョンの奥に入っていく。

(やれやれ……まともなのは私とワルドだけね。こんな事じゃ、この先が思いやられるわ」

ワルドの後ろ姿を見送りながら、シルキドはため息をつくのだった。



オーラルダンジョンの奥 アダムアップル城

鋭い角と爪をもつ黒い肌の堕人族たちの前線基地であるそこでは、まさに現在、長年待ち望んだ『計画』の推進が行われようとしていた。

駄人族たちがいる部屋では、魔物が入ったカプセルが無数に立ち並び、金銀や武器防具が入った宝箱なども大量に用意されている。

ここはダンジョンを維持管理している制御室で、魔物たちはここで作られてダンジョン内に転送されていた。冒険者をさそう餌となる宝箱も、ここで用意されてダンジョン内に配置されている。

「ワルド様が属しているパーティの現在の状況はどうだ?」

黒い鎧とマントを纏った堕人王ダニエルが、部下に聞く。

「はっ。現在王子たち三名が先行して進み、ワルド様はそれを追って奥に進んでいます。シルキド嬢は他二名と共に入口近辺を動いておりません」

空中にスクリーンが浮かび、ダンジョンの中に入った者の位置が赤い点で示される。

「よし。王子たちに魔物をぶつけてみよう。ノーズダストを転送させよ」

ダニエルが命令すると、大きなカプセルが輝き、中にいた黄色い球体をした魔物の姿が消える。同時に空中のスクリーンには、王子たちの前に魔物が現れる映像が映っていた。

「また新しい魔物が出た。追うぞ!」

「はいっ!」

王子と側近二人は、黄色い球体のような魔物を追って奥へと誘いこまれていく。しばらくすると、急に動きが鈍くなり、息切れし始めた。

「はぁはぁ……おかしいな。急に体が動かなくなったぞ」

調子に乗って魔法を乱発したせいで魔力を使い果たしてしまい、急激に体から力が抜けていく。ほかの二人も同じような状況で、ハァハァと荒い息をついていた。

その時、三人に向かって黄色い球体が転がってきた。

「うわぁぁぁぁぁ!なんだこいつは」

球体は、三人を下敷きにしようと襲い掛かってくる。

「くそっ!ファイアソード!」

ゲオルグが剣を振るうが、はじき返されてしまう。

「アイスランス!くっ、私の氷が通じない」

ヘルマンが放った氷の槍は黄色い球体に刺さったが、何のダメージも与えていないかのように無視された。

「ぷぎゃっ」

三人は転がってきた球体に押しつぶされ、中に取り込まれてしまった。


ノーズダンジョンの奥は、迷路のような複雑な構造になっている。

「この間の時は、謎の突風にあおられて一直線に最深部まで行くことができたけど、そう毎回うまくはいかないか」

地道に地図で確認しながら、王子たちを探す。

「このあたりは、『ノーズダスト』とかいう魔物がでる地域だけど……王子は大丈夫かな」

警戒しながらしばらく行くと、奇妙な物体が目の前に現れた。

まるで黄色い土でできた巨大な雪だるまのようなもので、中から三人の人間の頭が飛び出している。

「は、早く助けろ!」

そう喚いているのは、エーリッヒ王子たちだった。

「王子、何しているんですか?」

間抜けな姿に呆れながら、ワルドは聞く。

「うるさい。俺たちはこいつに取りこまれてしまったんだよ。なんとかしろ!」

「なんとかしろと言われても……」

ワルドは出ている頭を引っ張ってみるが、どうやっても抜けない。

「いたたっ!やめろ!この無礼者め!」

王子たちを怒らせるだけなので、引き抜こうとするのをやめた。

「これはダメですね。シルキドたちにも助けを求めて……」

「ふざけるな。こんな格好悪い姿を見せられるか!」

王子は顔を真っ赤にして喚き散らす。

「そうだ!」

「私たちは貴族の模範となるべき名門貴族の子弟。魔物に囚われた不名誉な姿をさらすことなどできません」

残り二人も、助けをよぶことを断固として拒否した。

「困ったな……あっ、木を引っこ抜いたときのことを応用すれば!王子たちを収納」

頭に手を触れて念じてみる。すると、一瞬で三人の姿が亜空間収納庫に入った。

「あとは取り出して……」

王子たちを取り出すように念じると、黄色い球体の体液で服をよごした三人の姿が現れた。

三人とも、魔力切れで動けないくらいに衰弱している。

「王子、これをお飲みください」

地面にへたり込んだ王子に、ワルドは魔力回復薬を差し出す。ひったくるように手に取って薬を飲んだ王子は、ワルドを睨みつけた。

「遅い!荷物もちなら遅れずについてくるべきだろう」

「それは、王子たちが勝手に先に行ってしまったせいで……」

「口答えするな!平民のくせに」

王子は力任せに、ワルドを殴りつける。頬を殴られたワルドは吹き飛ばされ、床に倒れ伏した。

倒れたワルドにさらに追い打ちをかけようと、王子は剣を抜く。

「ま、待て。エーリッヒ、こいつにはまだ用があるんだろ?」

「そうですよ。こいつを利用して魔王を倒さないと」

それを聞いた王子は、しぶしぶ剣を収める。

「……ふん。今は見逃してやろう。どうやらお前の「空」の力は本物のようだな。なら、遅れずにしっかりとついてこい」

そう言いおいて、王子は奥に進んでいく。ワルドはため息をつくと、彼らについていくのだった。



「これでいい。ワルド様にノーズダストを倒させることで、彼の力の利用法を奴らに教えることができた」

戦いの結果をみて、ダニエルは満足そうな笑みを浮かべている。

「王子たちのほうはいいとして、シルキド嬢たちは入り口付近から動こうとしないな。仕方ない。スメルラビットを投入しよう」

操作盤のスイッチを押すと、カプセルの中にはいっている真っ白いウサギのような魔物の姿が消え、シルキドたちの前に現れる。

「あら、かわいいウサギさんですこと」

「うふふ。真っ白ですね。まるで雪みたい」

白いウサギが近寄ってきたので、ローズレットとクラウディアは喜んで撫でようとした。

「待ってください。たしかその魔物は……」

シルキドが警告しようとした瞬間、いきなりウサギの口がガバッと開き、臭い息を吐きだす。

「きゃぁぁぁぁぁ」

「く、臭い!」

息をくらった二人のお嬢様は、あまりの臭さに錯乱してその場から逃げ出していく。

「待ってください!」

それを追って、慌ててシルキドも奥に入り込んでいくのだった。

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