色めく季節。新たな出会い。そんな時分に買ってもらったランドセル。これらの要素は一般にポジティブに捉える傾向にあります。
しかし、本作ではこれらに抗うような心情を押し出し、敢えて別れを選ぶ逆接的な情緒で支えられているストーリーに意外性を孕んだ妙味を感じました。
さらに印象的だったのはそれらを否定することなく、受容的で寛容的ともとれる『桜も春が嫌い』というキラーフレーズ。この感性は単純に春を嫌う気持ちとして正当化する意味を含むのですが、その理由が理知的で説得力に富み、好印象として受け止めることができました。
例える桜の美しさを味方につけ、ランドセルという心の重荷から気持ちを解放していく最終盤。
これらのいきさつから前向きに春を捉えようとする心情の変化が、桜の季節に綺麗に映えるようです。
初めて春を好きになる。そんな思いの花が芽吹く新たな一節を感じてみてください。