第13話

「大晴、次は何処を攻略する予定なの?」


「・・・」


「大晴?」


「・・・」


「フゥ」


「ぬああぁぁ!?」


 な、ちょま! 凪さんに耳をフゥされたんだけど。も、もう一回お願い出来ますか? 


「ちょ、ちょっと! びっくりするじゃないすか」


「ふふふ、顔真っ赤。無視する大晴が悪いよ」


「いや、ちょっと報酬が衝撃的すぎて..」


 そうなのだ。ギルド長へ攻略の様子など詳細を報告した後、報酬を受け取ったわけだけど額が凄かった。なんかもう宝くじが当たった金額だったんだよ。7億円ですよ。その場で探索者用の口座を作って振り込んでもらうことに。

 証票だけ受け取ってそこに書かれた桁に衝撃を受け、放心状態になりながらギルドのフロントにあるソファーに座りながら帰りのタクシーを待っているところで今に至る。


「それでも魔境攻略は今までにないことだから暫定報酬みたいなもんだよ。大晴のランクアップも検討に入ってるみたいだけどね。まあ、大晴にとってはランクなんてどうでもいいだろうけど」


「そうですね。魔境を攻略するのにランク制限はないので関係ないすね。これだけ報酬もらえるならそれ以外は正直どうでも良いくらいです」


「大晴が満足してそうでよかったよ。それで次は何処を攻略する予定なの?」


 凪さんは和かな笑顔を向けながら問いかけてくる。


「東京駅は近かったんで最初に攻略しましたけど、次も決まってます」


「そうなんだ。次の攻略も私ついていくからね?」


 そうなの? まあ、凪さんの重力魔法は助けになるか。魔境を一緒に踏破していけば実力も上がっていくだろうし。


「構わないですけど、無茶はしないでくださいよ」


「うん。自分の実力はわかってるよ。ただ、大晴についていけば強力なモンスター倒せるでしょ? 実際、今回の東京ダンジョンでもかなり強くなれたんだよね。だから打算はある」


「じゃあ、決まりで。次はですね。日本人の心、富士山を取り戻しましょう」


「いいね! 出発はいつ?」


「明日! 勢いは止めたくないんで」


「了解。じゃあ、連絡先交換して待ち合わせしましょ。あともう敬語とか使わなくていいよ? 一緒に行動するんだし」


「わ、わか..慣れたらでいいすか? すぐ切り替えるの難しい」


 敬語を即やめるとかハードル高いっす。

 そのあとは凪さんと握手を交わし、連絡先を交換してタクシーへ。この日は解散となった。



——我が家


「ただいまー」


 自宅のリビングに向かうと母さんが無表情で迎えてくれた。あれ? どうした?


「..大晴、あなたさっきニュースに映ってたし、何かすごいことになってるんだけど」


 おお、はや。さすがメディアの動きは早い。


「だから死地に挑むって朝言ったでしょうが」


「そこまで頭のネジが飛んでるとは思わなかったわ」


「だから言い方ぁ!」


「でも大晴すごいのね。人類初ってさっきからどのチャンネルでも言われてるわ」


「ふっふっふ。もっと誇らしげにしてもいいんだぜ?」


 誇らしげにするどころか、無言で手を差し出してくる菜月さん。


「その手は何かな?」


「いくら稼げたの? お母さんに見せてみなさい」


「ほい」


 俺はここぞとばかりにドヤ顔でギルド発行の報酬証票を手渡した。


「?△⭐︎!!」

「おお!?」


 証票を確認した菜月さんはデーモンみたいな奇声をあげて倒れ込んだので慌てて受け止め、リビングのソファーに寝かせてあげた。まさか気絶するとは思わんかった。

 

 次の日の朝、玄関にて。嬉々とした顔の母さんが見送りをしてくれている。


「よっし。じゃあ今日も行ってくるわ」


「そうそう。あのあだ名はダサいと思うわよ。お母さん、ちょっと恥ずかしいわ。もっとどうにかならなかったの?」


「今? なんで今言ったの? まさに出発の瞬間なんだけど?」


「思い出しちゃったんだからしょうがないじゃない」


 この人は朝から俺にダメージを与えないと気が済まないのだろうか。


 ..ちょっと待って? 『デコピン』、カッコイイんだよね? なんかモヤモヤした気持ちで次なる魔境、『富士山』に挑むことになった。

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