第12話
「『重姫』さん! 『デコピン』さん! 人類初の魔境攻略です! 何か一言!」
「『デコピン』さん!』
俺たちが改札の前までたどり着くと、凄まじい人で改札への道が埋まり、なかなか前に進むことが出来ない状況だった。
もうすんごい。カメラ、フラッシュ、カメラ、フラッシュ。
「すいません。まだギルドへの報告が完了していないのであまり詳しくはお話出来ないんです。詳細説明はギルドからさせて頂くと思いますので」
おお、凪さん。対応が手慣れてらっしゃる。さすが
「『デコピン』! 『デコピン』! 『デコピン』!」
やめろぉぉぉ! その名をシュプレヒコールするのは、やめろぉぉ!
俺は悶えながらその場を後にするのだった。
——新宿 探索者ギルド本部
俺達はギルド本部を訪れ、そのままギルド長の部屋に通された。ギルドのトップに直接報告する必要があるらしい。
「『重姫』、『デコピン』。よくきたな。まあ座れ」
目の前にはギルド本部のトップ、白髪をビシッとオールバックに決めた190cmオーバーの筋肉メンが俺達を和かに迎え、ソファーに座るよう促してくる。
が、しかし。ちょっと待ってほしい。
「ギルド長? 初めましてですが、一ついいですか? 俺の通り名は『デコピン』で確定ですか?」
そうなのだ。この男もさも当たり前のように俺を『デコピン』と呼んでくるのだ。
「おう? そりゃそうだろう。あれだけ多くの人に浸透してんだ。ちゃんと俺が正式な通り名として登録しといてやったから安心しろ」
サムズアップでそう宣う白オールバックじじい。その親指、へし折っていいですか?
ピキピキと怒りが込み上げてくると身体が熱くなってくる。
「大晴? その顔」
「んん? なんです? いま目の前の敵の指をどう滅するか思案中なんですけど」
凪さんが顔を俺の耳元に寄せて耳打ちをしてきた。
「顔にサタンと同じような赤い模様が浮かんでるんだけど? 何それ?」
え? っと思った瞬間に怒りが収まり、身体の熱も引いていく。
「すげー圧だな。伊達に魔境を攻略してないってことか。とりあえず座って話そうや」
そうしよう。多分称号のアレが発動したのかも知れない。今度鏡でチェックしてみよ。
凪さんにも「後で話します」と伝え、ひとまず納得してもらう。
俺と凪さんがソファーに腰を下ろすとギルド長が話し始める。
「『デコ—」
「大晴です」
「『デ—」
「大晴です」
言わしてたまるものかよ。
「んん! 大晴。中々に強情な男なようだな」
「『デコピン』、かっこいいと思うんだけどな」
え? 凪さん本当? かあいい凪さんが言うならカッコイイのかもしれない。いや! カッコイイ。
「俺は今日から『デコピン』でいく」
「くっくっく」
「大晴、改めてちゃんと紹介するね。こちらがギルド長の」
「大門
ギルド長は手を差し伸べて握手を求めてきたのだ俺も手を差し出し、握手を交わす。
「ギルド長は元白金級で引退した今でも日本で一番の実力者なのよ。私の初恋の人なの」
「え? その最後の情報いります? いらないよね?」
えぇ。年上の筋肉メンが好みってこと? ちょっと好みが尖りすぎじゃないだろうか。
「はっはっは。お前がギルドにスキルを調べに来た頃の話だろうが」
「振られたけどね」
「当たり前だろうが。妻もいるし、犯罪者にはなりたくないからな」
ギルド長がまともでよかったよ。んん? 凪さんは何さっきからじっと俺を観察してるんだ?
「ち..」
「舌打ち? え? なんで舌打ち?」
「若いってのはいいもんだな」
なんだこの雰囲気。なんでこのギルド長はなんかわかってるぜ的な感じ出してるんだろうか。
「まあ、話を進めよう。まずは『東京駅ダンジョン』の攻略、見事だった。ギルドを代表して礼を言う。ありがとう」
ギルド長は改まって頭を下げてお礼を言ってくる。
「はい! 頑張ったので報酬期待してます!」
「だそうですよ?ギルド長」
凪さん、さすがわかってるね。
「正直な男だ。嫌いじゃないがな。そこは用意させるから後で受け取ってくれ」
「ありがとうございます」
「それでな、早速なんだが今後のことで頼みたいことがあるんだ」
ちょっと真剣な顔つきで話し始めるギルド長。
「今後、大晴には魔境化したエリアを中心に攻略をお願いしたいのだ。いや、無理な願いを言っている自覚はあるんだが」
「はい、いいですよ」
「恥ずかしいことに白金級でも攻略が出来るものがいな——ん? 何て言った?」
「え? いいですよ。魔境の攻略。というか最初からそのつもりでしたし」
驚愕の表情を向けてくるギルド長。頼んどいてその顔は少し面白いぞ。
「そ、そうか。すまん。そこまで人類のために心を決めているとは思わず—」
「いやいや、手っ取り早く成り上がるためですよ。大義なんてそんな心意気はカケラもないのでそう思われるのは困ります」
「お、おお、そうか。本当に正直な男だな。じゃあ遠慮なく頼むぞ」
「任せてください! でも報酬はお願いしますよ? ギルド長」
俺はギルド長に顔を寄せて耳打ちする。
「くっくっく。当然だ。俺に任せておけ」
男二人はニヤっと悪い笑顔で笑い合う。
「ああ、小悪い笑顔もいい..」
こうして、俺の次の攻略対象が定まっていくのだった。
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