第8話
「大晴が一番下と言うなら多分地下5階でしょうね。ダンジョンになる前の東京駅については下調べしてあるわ」
横で歩く凪さんがそう話しかけてきた。
「いま地下1階ですよね。結構あるな」
「この階から4階に降りられる場所があるはずよ。そこからならすぐよ」
「そうなんだ。結構簡単に一番下にいけそうなのになんでいままで攻略出来なかったんですかね?」
「君ね..いま私たちがいる場所ですら未踏破領域だよ。さっきの大きなフロアでいままでは撤退してるのよ。人類は」
そうなのか。数だけはすごかったけどさ。っと話していたら前方にグレーターデーモンが1体現れたぞ。
「私にやらせてもらってもいい? 君ばかり活躍させるわけにはいかないよ」
「了解」
凪さんはすっと俺の前に立ち、飛びかかってくるグレーターデーモンにむけて掌を向けた。
デーモンの周囲が歪んだと思った瞬間、上からの圧力のようなものでグレーターデーモンが床に縫い付けられるように動けなくなる。
‘’姫の重力魔法炸裂!‘’
‘’そのままいつものように潰してくれ‘’
‘’ああ、変わってほしい‘’
どうも凪さんのチャンネルの視聴者は変態さんが多いようだな。変わってみろ、あれ普通の人だったらすぐペシャンコだぞ。
「く!」
重力を強めているのか、グレーターデーモンを地面にうつ伏せの体勢になるまで押さえつけ、そしてそのまま押し潰した。な、なかなかにエグいスキルっすね。
「はぁはぁ」
「ス、スキルは重力を操るものなんですか?」
「はぁはぁ..そうよ。だから『重姫』なんて呼ばれるようになったの。レッサーであればもっと簡単に押し潰せてたのに..」
「それで『重姫』ですか。あまりかっこいい呼び名じゃないですよね。凪さんのイメージに合ってない。誰ですか? 通り名つけてんの」
こんなかあいいのに『重姫』って。重とかなんかちょっと失礼でしょ。
‘’いい事いうな‘’
‘’そのとおりだ『デコピン』‘’
‘’この『デコピン』‘’
「お前らそれ以上言って俺の通り名が『デコピン』になったら弾きにいくからな?」
いまでは最高のスキルだと思っているが、通り名が『デコピン』はダサすぎる。
「ふふ。大晴の通り名は多分『デコピン』になるよ。きっと」
くそが。凪さんの笑顔に逆らうことが出来ない自分が憎い。
***
..地下1階を引き続き探索していると動いていないエスカレーターを見つけた。
「凪さん、ここ随分と下まで降りられるエスカレーターじゃないですか?」
「そうだね。ここが4階に通じるエスカレーターかもしれない」
「俺の勘もここだと言ってるんで間違いなさそうですね」
「はいはい。勘ね」
俺たちはエスカレーターを降りていく。やはり地下4階まで降りられる物だったようだ。
地下4階に到着すると広めのフロアがまた広がっていた。ここのどこかに地下5階へ降りる場所があるはずと。フロアを眺めていると前方に2体のデーモンが現れた。
「ザサ共がゆっとくちぞ」
「たはらえだに」
お、身体に紫の刺青があるってことはアークデーモンか。
「凪さん、早速お出ましですよ」
「アークデーモンが2体も同時に..」
そうか。凪さん達はさっきのアークデーモンにやられてしまったんだったな。
「凪さん、まず1体を俺が仕留めるんで少しもう1体を足どめしてください。お願い出来ますか?」
俺は凪さんに安心させるように笑顔でそうお願いした。
「わ、わかった! これでも
よし。眼に力が戻ったな。早速俺は1体にむかって駆け出す。
「うくにる突っ込あでけれなひに。バキが」
アークデーモン1は、俺に掌を向けてきた。顔の周りにゾワっとする感覚を覚えたので即座に腰を落として顔の位置をずらす。予想どおり顔のあった場所がドン! と爆ぜた。これ見えないからデコピンで散らせなくて面倒いな。
「に、にあだな!?」
アークデーモン2に牽制の『デコピンショット』を打ち込み、2体を引き離す。
ボッ!
「ぐかか!」
よし。腕でガードされたがうまく引き離したな。凪さん、少しの間だけこいつ抑えててね。俺はそのまま狙っていたもう一体に向かって喧嘩キックをお見舞いした。
「ぐぼい」
腹に命中した俺の蹴りはド! という予想よりも鈍い音を立てて、その場に蹲るアークデーモン1。あれ、俺の蹴りってそんなに効くか?
とりあえず、蹲っているデーモンの頭を『デコピン』で弾き飛ばす。
「凪さん!」
後ろに振り向き、状況を確認すると俺が飛ばしたアークデーモンをしっかりと重圧で押さえつけてくれていた。さすがアークデーモンなのか、立ったまま、重圧に耐えていた。
「さは程度はいてにど!」
「大晴! そろそろ限界なんだけど!」
俺は動けなくなっているアークデーモンに向けて『マルチショット』を打ち込む。力を込めた2連弾だ。
ボッボッ!
顔面と腹に着弾し、その場で仰向けに倒れ込むデーモン。重圧の影響で威力が少し落ちたか? くそ、重力に負けないように鍛錬せねば。
近づいてみると、気絶しているようなので止めの『デコピン』をお見舞いしておく。
パアン!
「よし。討伐完了」
「た、大晴、さっきアークデーモンに飛び蹴りしてたよね?」
「咄嗟に蹴ってしまったんですよね」
「蹴りもすごいってやっぱり身体能力も相当だね..最高の男を見つけたかも」
あれ? なんか凪さんの顔が赤い気がするね。スキルを使い過ぎてしまったのか。
「凪さん、顔赤いけど大丈夫?」
「..なるほど。天然で人の羞恥を指摘してくる才能もあると」
おっと。俺は何かを仕出かしてしまったようだ。視聴者のみんな、俺に教授してくれ。
‘’この童貞が‘’
‘’この鈍感が‘’
‘’この難聴が‘’
すごい罵倒だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます