第7話

——地下1階


「ちょっと待ってもらってもいい?」


 ここは先ほどの通路を進んだ先の広い広間のような場所だ。ここは昔、上へ下へと色んな路線に分岐するための場所だったんだろう。


「ん? どうしたんです?」


「配信を私のチャンネルでするから。その準備」


「ふーん。ん? またレッサーが集まってきたんでちょっと散らします」


「レッサー? ここにはもうレッサーデーモンは出ないよ?」


 俺は集まってきたデーモンを『デコピンショット』で吹き飛ばしていく。


「え? こいつらレッサーですよね? 外の奴らより大きいですけど実力に大差ないですし」


「違うよ? そいつらはグレーターだから」


 まじか。だとするとデーモン、弱くない?


「じゃあ、さっき凪さんを助けた時のやつは?」


「あれはアークデーモンだよ」


 なるほど。あれがアークデーモンか。え、あれが最上位のアークデーモンなの? だとすると結構余裕だな。このダンジョン。


「とりあえず、すごい集まってきたので準備急いでくださいねー」


 俺はそう言って殲滅速度を上げるために両手で『デコピンショット』を繰り出していく。少し効率上がったけど、集まってくる数のほうが多くなってきたぞ。要は単体の強さではなくて数で攻めてくるタイプのダンジョンってことかな?


 ボッボッ!!


 俺は何となくの直感で親指に人差し指と中指を引っ掛けて二本指でデコピンショットを繰り出してみた。すると2発の衝撃弾が飛んでいく。

 おお! これはいい、これはいいぞ。最大片手で4連射だ!


 ボッボッボッビッ!!


 連弾で吹き飛んでいくグレーターの群れ。小指の一撃だけ少し弱い。これは要鍛錬だな。


「・・・すさまじすぎるでしょ」


 凪さんの声が聞こえたので後ろを振り向くとドローンでの配信準備を終えていたようだ。


‘’あれは何ぞ?‘’

‘’グレーターデーモンがゴミのようですぞ‘’

‘’あれはグレーターデーモンなんだよな?‘’


 俺は両手で連弾を繰り出し、グレーターの群れを一掃した。


『派生スキルを習得しました』


 きたわ。ステータスで即確認と。


————————————

名前:

鈴木大晴


スキル:

デコピン

├デコピンショット

└マルチショット


称号:

デコピンレジェンド

————————————

 

 マルチショット。うんうん。予想とおりのスキルが増えてる。これ、普通の『デコピン』でも覚えそうだな。


————————————

マルチショット:

同時に複数の指から衝撃弾として打ち出す。最大4連射。

最初は指ごとに威力が異なるのでレッツ鍛錬だ。

————————————


 誰だよ。もちろんするけども。


「大晴」


「ん?どうしました?」


 ステータスを確認していたら再度凪さんに話しかけられた。


「大晴はいままでどこで活動してたの? いままで名前を聞いたことない。通り名教えてもらってもいい?」


「通り名? ああ! あの上位探索者の人たちに付けられる少し恥ずかしいやつですね。もちろんそんなのないですよ。俺、鉄級アイアンですし。ほら」


 俺は首元から探索者メダルを出して掲げてみせる。


「え..鉄級アイアン。嘘でしょ。鉄級アイアンでこれってとんでもないスキルね」


‘’鉄級って‘’

‘’やべースキルってことか‘’

‘’スキルおしえてくらさい‘’


「スキル?『デコピン』です」


「え?『デコピン』?」


‘’デコピン‘’

‘’デコピン‘’

‘’デコピン‘’


「はい」


「『デコピン』ってこの『デコピン』?」


 凪さんは自分のてでデコピンを再現する。


「はい、その『デコピン』です」


「そ、そうなんだ。す、すごいんだね、『デコピン』って」


「そうなんですよ? すごいんです。『デコピン』は。苦労しましたから。最初に授かった時はゴミ扱いでしたけどね」


 それはもう5年もデコピンだけをし続けたからね。


「大晴、身体能力も相当高くなってるみたいだけど今までどれだけのモンスターを倒してきたの? しかも探索者になる前からでしょ?」


 ん? ああ、そういえばモンスターを倒すと少し体も強くなるんだっけか。うーーん。1日500スライムくらいだったから..


「うーん100万スライム近くじゃないですかね? 正確にはわからないす」


‘’スライムって‘’

‘’100万スライム‘’


「ひゃっ..ってスライム?..もうわかったよ。大晴は『デコピン』だけじゃなくて全部異常だね」


 あれ? ひどい言われようである。俺は決して異常者などではない。


「俺は異常者じゃないですよ? とにかく先に進みましょう。時間喰ってしまってます」


「そ、そうね、ごめんね。こっちも準備出来たし、次からは私も参戦するから」


 握り拳でそう答える凪さん。うん、かあいいので許しちゃう。


「多分ここのボスは一番下にいるような気がするんですよね。なのでどんどん降りていきましょう」


「よくわかるね?」


「いや、何となく。勘です」


「勘かぁ」


「勘すね」


 こうして俺たちは探索を再開した。

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