第3話

 そうして6年が経過した。

 最後の一年は探索者になってからの行動計画を整理したり、身体の使い方を鍛えるために空手などの格闘術を学んだ。準備は万端である。


 まずはギルドに行って、探索者の登録から始めよう。


「それじゃあ、母さん、行ってくるよ」


「なんかカッコつけてるけど探索者ってなるのに試験なんてないんでしょ? 今月からちゃんと家にお金入れてもらうからね?」


「ちょっとー。そこはこれから死地に挑む息子を悲壮な顔で送り出す母親を演じるところでしょうが」


「好き好んで死地に飛び込むM野郎に何で悲しくなんなくちゃいけないのよ。それよりもいっぱい稼いできてくれると嬉しいわ。そうしたら嬉々とした顔で出迎えてあげる」


「言い方ぁ!」


 俺の母親、菜月なつきさん。思ったことはオブラートに包まず即、口にする豪傑である。

 朝からちょっとダメージを受けたが、ギルドに向かうとしよう。



***



 日本の探索者になるには満22歳になっていること。スキルの覚醒者で日本の国籍を持っており、日本在住であること。以上である。さっさと探索者の登録を済ませた俺は最初の目的地に向かっていた。


 今、日本には人外魔境と化した場所が複数存在する。富士山と樹海、東京駅近郊、横浜の中華街、北海道全域そして沖縄本島全域などなど。結構あるな。

 ..ダンジョンブレイクにより溢れ出したモンスターの進行を止めることが出来ず、そのままモンスター達にダンジョン周辺を支配され、モンスターの領域と化してしまった地域を指す。今もこれ以上領域が広がらないよう、探索者達が境界線で一進一退の攻防を繰り広げている。


 まだ誰も成し得たことのない人外魔境と化した領域の奪還。探索者として成り上がるための俺の目標だ。手っ取り早いだろう?大層な大義なんて必要ないんだよ。利己的万歳である。


 最初のターゲットである魔境、東京駅。東京駅の地下に出現したダンジョンは瞬く間にダンジョンブレイクを起こし、周囲にモンスターが溢れた。

 当時の人類は東京駅ダンジョンから出現するモンスターのあまりの強さに一切抵抗することが出来ず、避難を開始。東京駅周囲2kmは魔境と化したのだ。


 魔境東京駅に向かうには最寄りの駅から徒歩で向かうしかない。魔境との境界にはギルドの監視塔が等間隔で配置され、日々境界を超えてくるモンスターを駆除し、境界を維持している。


 俺は境界に到着し、ギルド職員に通行許可を得るために話しかける。


「すいませーん!探索者なんですけどここ通っていいですか?」


 俺は取り立てほやほや探索者の証明である、首からかけた探索者メダルを掲げて監視員に見せる。


「え? 鉄級アイアン? 君何言ってんの? ここは鉄級アイアンなんかが足を踏み入れていい場所じゃないよ!」


「探索者は自己責任でしょ? 鉄級アイアンだからってここに挑んじゃいけないってルールはないはずなので通らせてもらいますねー」


「お、おい! 君!!」


「ほっとけよ。鉄級アイアンによくいる自己陶酔してるバカだろう。俺達も暇じゃないんだ。それより東京駅ダンジョンの攻略班パーティの配信が始まるぞ」


 おうおう。散々な言われようだけど、正論だな。気にせず進ませて頂こう。

 鉄級アイアンとは探索者が最初になる階級のことで要は初心者ってことだ。



 境界から魔境に足を踏み入れると世紀末な景色が視界に広がる。高いビル群が立ち並ぶ都市は廃墟と化し、人が住んでいた面影のみを残すだけの有様だ。


 ビルとビルの間を通る広い道路の真ん中を進んでいると、廃墟ビルから緑色の人型モンスターがわらわらと姿を現した。ゴブリン君だ。1匹では大した脅威ではないが、こうも群れて現れると十分な脅威だろう。


 一応、スライム以外のモンスターとは初戦闘だ。ちょっと武者震いでブルっとくるな。早速、先頭のゴブリンが鈍器を片手に襲い掛かってきた。


 ん? おっそ。鈍器を振り下ろしてくるゴブリンの動きを冷静に見つめ、余裕を持って躱す。ガラ空きの胴体にデコピンをお見舞いした。


ドコン!!


 ゴブリンはくの字になってビルのほうへ吹き飛んだ。

 続けて後続のゴブリンが次々と襲い掛かってくる。


 攻撃を躱しながら顔面にデコピン。


ドパァン!!

 

 ゴブリンの顔面が弾け飛ぶ。


 別のゴブリンが振り下ろしてきた鈍器にデコピン。


バガン!!


 鈍器を破砕する。困惑しているゴブリンの胴体にすかさずデコピン。吹き飛ばす。


 デコピン一発で次々と吹き飛ぶゴブリン達。俺は最後の1匹をデコピンで吹き飛ばした。


「おし。デコピン絶好調。スライム以外にも十分通用するな」



 俺はデコピンがスライム以外にも通じることを確認し、東京駅に向けて進行を再開した。

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