~エピソード6~ ⑪ 忍び寄る魔の手。~1~
俺が闇サークルの今後の対策について話をしようとすると携帯が突然に鳴った。
陽葵が慌てて俺の携帯を取って渡してくれた。
電話番号を見ると、滅多に電話をかけてこない大宮だったので吃驚した。
俺は携帯を持って談話ルームに急いで移動すると、全員が俺の後を追った。
「大宮、どうした?。病室は通話禁止だから通話可能な場所に行くのに時間が掛かって…。」
俺は談話ルームの空いている席に適当に座って電話に出ると、大宮から話しかける前に喋った
みんなも俺を取り囲むように椅子に座った。
「それは構わない。それよりも大変なんだ。お前の彼女さんを襲ったサークル分かったぞ。自分と竹田が空いてる講義室で課題をやっていたら、偶然にも隣の部屋の話が聞こえて…。」
「なに???。マジか??!!!」
俺は吃驚して大きな声をあげた。
「あのサークルは、理化学波動研究同好会なんて名前だったよ。話をしていたのは3人ぐらいかな。その会話から小さいサークルだってことは俺でも分かった。それで、あの騒ぎがあるから半年間は休止して、その間もお前達の監視を続けるらしいから気をつけろ!」
大宮の電話を聞いて俺は驚いた。
「マジか!!。よくその場に居合わせたよな。ということは、あいつらも理系か。しかし、理系であの手の波動を名乗るなんて絶対にあり得ないぞ?」
「自分も竹田も同じ認識だよ。アイツらの唱える波動なんていい加減だよ。絶対にありっこないし、あんな名前の同好会なんて、理系を名乗った詐欺もいいところだよ。」
大宮と突っ込んだ話をしたかったが、彼も苦学生だし電話代が勿体ないだろうから、俺は早々に電話を切ることにした。
「大宮、マジにありがとう。棚倉先輩に話さないでくれ。俺が直接、学生課と連絡するから。あの先輩に話すと相当に面倒なことになる。ここは学生課に隠密に動いて貰って対策を練ることにするよ。あとは退院してから寮でゆっくりと話そう。」
「うん、分かった。自分と竹田は寮に戻るから、何かあったら電話をくれたら答えるから。」
「ありがとう。ほんとうに助かった。」
俺が大宮と話を終えて電話を切ると、真っ先に陽葵が俺に寄ってきた。
「恭介さん…、もしかして…。」
陽葵は少し恐くなって震えているから心配になって言葉をかけた。
「陽葵、大丈夫か?。心が落ち着いてから電話のことを話しても構わないけど…」
「大丈夫よ、そのまま話を続けて。その携帯は預かるわ。片手しか使えないから落としたら大変よ…」
陽葵は自分が怯えているのを誤魔化すかのように手を差し出した。
誰もいなかったら、そのまま陽葵を抱きしめたかも知れない。
皆は俺の言葉を待つようにジッと見ている。
俺は陽葵に携帯を差し出すと、さっきの電話の内容を皆に話し始めた。
「陽葵を襲ったサークルの名前が分かった。ウチの理学部の寮生が、そのサークルの話を偶然に聞いた。村上もよく知ってる大宮と竹田だ。」
村上が吃驚して立ち上がった。
「えぇ~~~。それで、少しだけ電話が聞こえたけど、マジに狙われていて大丈夫か?。」
俺は少し右手をかざして、村上に冷静になるように言葉をかけた。
「村上、ちょいと落ち着け。順を追って今の電話のことを話したいし、これから学生課の直通電話に電話をかけたいから…。」
村上はその言葉に少しだけ落ち着きを取り戻すかのように、俺に向かってうなずいて椅子に座った。
「さっきの理学部寮生の電話だけど、寮生が空いている講義室で課題をやっていたところ、陽葵が襲われたサークルの話が隣の部屋から聞こえたらしい。サークル名は理化学波動研究同好会。あの騒ぎで半年間ぐらい休眠するらしいが、メンバーは俺らの監視を続けるから要注意だ。どうやら3人程度の会話がだったらしいから、規模としては小さそうだ。」
その話に良二が手を挙げた。
「恭介、そんな波動なんて怪しすぎるよな。闇営業のサークルじゃねぇか?」
「間違いない。おそらく大学に無許可でやってるようなサークルだろうし、理学部のキャンパスにいたことを考えると、それを分かっていて、相手を騙すような商売をしている可能性もある。」
それを聞いて、陽葵は明らかに怯えた表情をして俺の右腕をギュッと抱きしめた。
3人は少しだけ視線をそらしたが、イチャついている訳じゃないから、すぐに視線を元に戻した。
俺は陽葵を横目に話を続けた。
「陽葵に恐い思いをさせてゴメン。それと…、みんな。実際に襲われた当事者は恐い思いをしているぐらい、あのサークルの勧誘がキツイかった事を分かってくれ。」
陽葵はその言葉に少し怯えながらもうなずいた。
「恭介さん、こうしていれば大丈夫だわ。話を続けて…。」
宗崎もそれをみて、俺に話を促した。
「スタンガンを持っているぐらいタチが悪い奴らだから、女性が怖がるのは当然だ。お前はともかく、特に狙われやすい奥さんを俺達も助けないといけない。三上、いいから話を続けてくれ。」
宗崎の言葉に良二や村上もうなずいている。
「宗崎ありがとう。この問題はマジにデリケートだ。棚倉先輩に分かると変な風に広めてしまって面倒になるから、今から学生課の直通電話で荒巻さんか高木さんと話をする。そのほうが手っ取り早い。あと、そのサークルが休眠するから調査しても今は足がつかないだろう。しばらくは奴らから監視されないか気をつけないとね…。」
俺がそう言うと、陽葵がサッと携帯電話を差し出した。
携帯を持つ手が明らかに震えているのが分かった。
陽葵と視線を合わせて、俺はうなずいた。
寮の所用で受付室から学生課に何度も電話をしているから、電話番号を覚えていた。
電話をかけると学生課の職員が電話に出た。
「一般学生寮長の三上です。暴漢事件の件で、荒巻さんか高木さんはいますか?。」
すぐに荒巻さんが電話に出た。
「三上くん、どうした?」
荒巻さんは、学生課に相談にきて動揺している学生を落ち着かせるような声色だった。
入院中の俺が、荒巻さんに電話をかけることなんて非常事態と捉えているのだろう。
「荒巻さん、うちの寮生が霧島さんを勧誘した例のサークルを突き止めました。理化学波動研究同好会というサークルです。うちの寮生が偶然に理学部のキャンパス内で、そのサークルがメンバーが話をしているのを聞いていて、私に連絡をくれました。」
「三上くん、その名前をメモするから待ってね…。…もう一度、言ってもらって良いかな?」
「はい、理化学波動研究同好会です。」
荒巻さんがメモを書いたらしく、ペンを机の上に雑に置いたような音が聞こえた。
「どうやら、その内緒話の中で今回の事件で半年間のあいだ休止するらしいです。その話を聞いていた寮生が理学部なので、何か手がかりが掴めるかも知れません。あと、休止中も私や霧島さんが監視されて狙われる懸念もあって…。」
「三上くん!!。それは大変だ!!。霧島さんを1人で帰さずに良かった。ところで霧島さんは病院にいるかい?。私は今から病院に行くよ。三上くんと一緒に色々と考えないと…。」
「ここに、霧島さんもいるし、うちの学部の仲間もいます。ちなみに、棚倉先輩などには、まだ伝えていませんし、デリケートな問題なので情報管理を荒巻さんに委ねようと思いまして…。」
俺はあえて、棚倉先輩たちに伝えていない事だけを言った。
そのほうが荒巻さんの判断材料や選択肢が広がると考えたからだ。
「三上くん、そのほうが良いよ。申し訳ないけど、情報管理を含めて色々とあるから、学部の友人達も含めて病室にいてほしい。あと、理学部の寮生にも来て欲しいから、私がタクシーを飛ばしてまずは寮に言ってから病院へ向かうよ。この件を松尾さんに伝えるから寮生の名前を教えて?」
「305の竹田と310の大宮です。電話が掛かってきた時点で2人は寮に戻ると言っていたので、バスを使えば、理学部のキャンパスから今は寮に帰っている筈です…。」
「ありがとう。分かった。少し待つようになるけど、霧島さんと学部の友人達に病院にいるように言ってください。」
「わかりました。必ず伝えます。」
電話が終わった後に、荒巻さんのお願いを皆に伝えた。
「陽葵は家が近いから大丈夫だと思うけど、今から学生課の課長の荒巻さんが来る事になった。情報管理の面もあって、荒巻さんが来るまでいて欲しいとの事だけど…、大丈夫か?」
俺の言葉に皆はうなずいた。
「ついでに、その内緒話を聞いたウチの寮生2人もここに来るらしい。」
それを聞いて良二が心配そうに口を開いた。
「恭介や、それは学生課の偉い人が動くほど深刻なんだよな?。お前は寮長だから大学側とのコネクションがあって強すぎるわ。学生課の直通電話を知っていてパッと電話をかけたと思ったら、寮長です、担当者をお願いします。なんて普通の学生はできないからなぁ。」
「それは寮長の宿命というか、仕方ねぇんだよなぁ。ただ今回の事件で寮長をやっていて良かったと思ったのは今回が初めてかな。学生課とダイレクトに繋がっていることで迅速な対応ができるし、こんなにも可愛くて気立てが良すぎる彼女と付き合えたからね…」
それを聞いた良二が呆れたような表情をした。
「お前なぁ、マジに気をつけろよ。今のお前の言葉で奥さんの顔が真っ赤になっているから、無意識なラブラブ攻撃を受けて恥ずかしすぎて俺達の居場所がないぞ…」
良二の言葉に陽葵の顔がさらに赤くなった…。
「きょっ、恭介さん、嬉しいけど恥ずかしいですからねっ!!」
3人は陽葵の顔を見ると、そっぽを向いて頭をかきだした…。
俺たちは、それを誤魔化すかのように飲みかけのお茶を病室まで取りに行くと、談話ルームに戻って雑談を始めた。
雑談を始めた理由は明白だった。
陽葵や周りの精神面を考えると、荒巻さんが来るまで深刻な話を避けたかった。
「退院したらさ、陽葵や白石さんも一緒で構わないから、みんなでお好み焼き屋の食べ放題に行ったり、うちのキャンパスの近くにある焼肉の食べ放題の店に行きたい。どっちみち、しばらくの間は陽葵と一緒に行動することが求められるから、防犯上は大勢のほうが安心だろうしね…」
俺がそんなことを言い始めると、宗崎が笑顔で俺と陽葵を見た。
「ははっ、その言葉は三上らしいな。前に行ったお好み焼き屋も、実行委員の面々に邪魔されたし、あの時の三上はマジにプライベートまで踏みにじられて嫌になっていたのが分かったよ。よく激怒せずに我慢したと思った。」
宗崎の話にウンザリしたような表情を浮かべて俺は愚痴を放った。
「うん、この入院も結局は寮生活の延長みたいだし、どこかでドタバタに巻き込まれるのは俺のお約束かなぁ。もうね、実家に帰る冬休みとか春休み、夏休みぐらいしか心の余裕ができないんだよ。」
陽葵がその話を心配そうな表情で聞いていた。
そして、良二が俺の話にうなずきながら口を開いた。
「だって、夏休みにお前の実家に俺達が行ったときにさ、恭介の親父さんやお袋さんと一緒にバーベキューをしていたら、例の実行委員チームの守さんから電話がかかってきて、3人がそっちにいるなら、みんなで押しかける、なんて言い始めただろう?。翌日、三上も含めてしぶしぶ練習をしに1日予定を早めて帰ったんだよな…。」
俺はあの時のことを思い出して少し感情的になっていた。
「良二、あれはねぇ、マジにムッとしたよ。実家は全員を泊められるようなキャパシティーなんてないから、無茶を言うなと語気を強めて守さんに言ったんだよ。俺は事前に3人が来た土日の練習は無理だからと、2人のお母さんに言っていたんだぞ…。」
一方でその言葉を聞いた陽葵は、恭介は実行委員チームの女性達に対して明らかに眼中なんてないことが分かって内心はホッとしていたし、牧埜達のようにアポイントを取らず、無理矢理に押しかけるのは流石に可哀想だと思ったのだ。
良二が俺の言葉にうなずいて呆れたような表情をした。
「あの電話の後に、恭介はムッとしたまま寮に電話をかけて、管理人さんに3台しか駐められない寮の駐車場を2日間、拝借して、俺たち3人とドライブをして寮に帰ったんだもんな。荷物もあって電車で帰るのは面倒だろうし、もう1日はみんなで海にいく予定だったけど悔しいから一緒に乗れと。」
俺が良二に言葉を返す前に村上が少しだけ笑顔になって反応した。
「あれは、違う意味で楽しかったよ。奥さんも長い休みになったら旦那の実家に行くだろうから、道中のドライブを楽しみにしたほうが良いよ。高速道路に行く前に山の中に滝があったり、道中のインターチェンジを降りたかと思ったら、魚市場に行って美味い海鮮丼を食べたりさ…。」
宗崎も何か言いたげな表情で俺を見つめると口を開いた。
「実行委員チームに三上が車で来たことは内緒にしておいて、俺たちはお前の家に泊まる予定だった残り1日をドライブで楽しめて良かったんだよ。あれさ、お前が途中の駅で車で迎えに来たけどさ、電車の本数がなくて2時間ぐらい電車を乗り継いでるから死ぬほど大変だったし…。」
俺は宗崎の言葉に同意するように、あの時のことを思い出して再びムッとしていた。
「宗崎、その通りだよ。向こうは、簡単に電車で俺の家に遊びに行けるだろう…みたいな感覚だったけど、3人は理解している通り、生半可じゃねぇからな。実家に押しかけようとしたところで、あの時間だと電車がなくて放り出された駅まで迎えに行くとか勘弁だったし、そんなに俺の車は乗れねぇし。」
良二がそれに激しくうなずいた。
「あれは、こっちの都会感覚で物事を言ってるだけなんだよ。俺も恭介が怒る理由がわかって無茶を言うなと思ったもんなぁ。あの乗り継ぎはえげつないし、最後の電車は2~3時間に1~2本とか死ぬほど電車が少ないから駅で待たされたからなぁ。」
陽葵は恭介と学部の友人達の会話を聞いて、恭介の実家にかなり興味を抱いていた。
「ふふっ、わたしも早く恭介さんの実家に泊まってみたいわ。恭介さんのお母さんやお父さんから休みになったら泊まってこいと言われているし、うちの両親も一緒に温泉に行くかもしれないし。」
その言葉を聞いた3人は顔を見合わせて、しばらく沈黙があった後に良二が、恐る恐る口を開いた。
「おっ、お、奥さん…。冗談を抜きにしてマジに両親公認なのね…。これは驚いた!!。冗談で旦那とか奥さんとか言っていたけど、ガチだと思わなかった。」
陽葵は一言だけ「はい♡」と、答えたが、語尾のハートマークによって3人は言葉を失った。
口をポカンと開けた3人を見て俺は頭をかかえた…。
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