~エピソード6~ ⑪ 忍び寄る魔の手。~2~
そんな雑談をしていたら、荒巻さんと大宮や竹田がやってきた。
大宮や竹田と陽葵が自己紹介を済ませたあと、2人は俺の顔を見て心配そうな顔をした。
2人は俺たちに声をかけようとしたが、荒巻さんが最初に言葉を切り出した。
「三上くん、霧島さん。タクシーの中で大宮くんや竹田くんと話をしたけど、これは大学のサークル管理不行き届きだ。ほんとうに、みんなには迷惑をかけている。今回の暴漢事件で逮捕された遠藤という学生は社会学部だ。大学は警察の捜査に協力しながら当該学生の交友関係を社会学部内で当たったけど、関連性が見つからなかった。」
大宮も竹田も俺を心配そうに見ている。
「荒巻さん。私の直感ですが、問題サークルのメンバーの学部はバラバラだと思いますよ。でも、理学部の学生がいる可能性が強いです。それでなければ理学部のキャンパスを使って内緒話なんて無理ですからね。空いてる講義室を使って集まったのでしょうから、それを知る者でないと…。」
荒巻さんは俺の言葉に激しくうなずいた。
「三上くんの言うとおりだよ。私たちは、ようやく尻尾を掴んだに過ぎない。そこで、ここにいる全員に大学からのお願いだけど、霧島さんや三上くんを保護する観点から、他の学生に口外することを避けて欲しい。これから警察と協力して極秘裏に捜査をするが、騒げば、その闇サークルが雲隠れするだろうから…。」
全員が荒巻さんの言葉に異口同音で返事をした。
「荒巻さん、それと霧島さんの件ですが、ここにいる学部の仲間が帰る電車が一緒なので、暫くのあいだ、私は霧島さんの家まで時間があれば送りますが、私が忙しい時には、そこにいる友人達も霧島さんの最寄りの駅まで一緒に帰る体勢が整うと思います。」
それを聞いた荒巻さんは胸をなで下ろして、3人を見るとハッとした表情をした。
「あれ?、君たちは、三上くんが教育学部の体育祭でバレーボールの試合をしていたときに一緒にいたメンバーだったよね?」
代表して良二が答えた。
「荒巻さん、間違いないですよ…。えっと、確か、女性の職員さんの隣にいましたよね?」
荒巻さんは何かを思い出したように目を少しだけ見開いた。
「そうですよ…。あっ、大学への報告があるので、3人の名前を教えて貰えるかな?。今回の案件は具体的に名前を書く必要がある難しい書類になりそうだから。」
3人が荒巻さんに名前を教えて色々と聞かれている間に、大宮と竹田が俺のそばに寄ってきた。
大宮から先に口を開いた。
「三上、大丈夫か?。左腕が痛々しいからさ。寮で見かけたら何か手伝うから遠慮なしに声をかけてくれ。それと、言うか迷ったけど、お前の彼女さんが可愛すぎて言葉を失うよ。」
竹田も大宮の言葉が切れると同時に喋りかけた。
「マジに気を失ったと聞いたときには焦ったけど、腕が心配だけど、とりあえず元気そうでホッとしたよ。寮に帰ってきた時に困っていたら躊躇わずに声をかけろよ。マジに大変そうだし。」
「2人ともありがとう。暫くの間は少しみんなの力が必要になるかも知れないから、その時は声をかけるよ。みんなが気にかけてくれるから助かるよ。」
それを聞いて陽葵が笑顔になった。
その陽葵の笑顔を見た2人が少しだけ呆けるのが分かった。
「2人とも寮で恭介さんが困っていたら、よろしくお願いしますね。すごく安心したわ、恭介さんは寮内でも相当に信頼されているのが分かるわ。」
それに竹田が答えた。
「大宮もそうだけど、三上とは1年の時から寮のバイトをしていた仲だから、霧島さんは安心して下さい。さきほど、荒巻さんから聞きましたけど、文化祭でも俺たちはバイト勢だから同じ寮のブースにいますから。」
そんな会話をしていたら、荒巻さんが俺と陽葵に声をかけた。
「金曜日の午後、三上くんが退院した時に霧島さんと私がタクシーに乗って病院に向かいます。実はね、安全上の理由で話してしまうけど、男女の寮役員などが集まって三上くんの退院祝いをやりたくて、さっき本橋くんや、宗崎くん、村上くんも参加する方向で話をしていたんだよ。」
陽葵は驚きもしなかったから、既に知っていたようだ。
「恭介さん、ごめんね、ホントはサプライズだから恭介さんに言うなと棚倉さんが言っていたけど、わたしと一緒に帰ることや、学部の3人が一緒に課題やレポートをする時間を考えたら、恭介さんに知らせないと大変なことになると思ったのよね…」
荒巻さんは陽葵の話を聞いてうなずいた。
「三上くんは、退院後に霧島さんの家に呼ばれていることもあるから、金曜日は一緒に帰って欲しいから色々な配慮もあるからね…。」
それを聞いて俺はネックレスを渡すタイミングを陽葵と一緒に帰るタイミングで考えていた。
そして、考え事をしてボーッとしていたら、荒巻さんに再び声をかけられた。
「三上くん、急に押しかけてしまって、疲れさせてごめんね、あとは退院後に寮長会議などでゆっくりと話しましょう。とりあえず霧島さんを保護する体制が完全に整ったから、私は安心したよ…」
そう言うと、荒巻さんは大宮と竹田、それに村上と一緒にタクシーで帰る準備を始めた。
宗崎と良二も帰る準備を始めると宗崎が俺に声をかけた。
「明日も同じぐらいの時間にきて課題をやろう。荒巻さんから聞いたけど、明日は寮長会議があるから霧島さんは荒巻さんと一緒にタクシーで病院に来るらしいから、そこまでは…」
「宗崎、みんなも振り回してごめんね。マジにこの埋め合わせは何とか頑張るからさ…」
良二がそれを聞いて俺の右肩をポンと叩いた。
「俺たちは、お前に世話になりっぱなしだよ。こういう時ぐらい仲間に甘えろ。マジにお前が色々とあって振り回されて可哀想だ…」
そう言うと陽葵以外の人が一斉に談話ルームからいなくなった。
陽葵と一緒に病室に戻ると、俺はベッドに入って上半身だけを起こして、陽葵がベッドの横の椅子に座る体勢になった。
少しだけ沈黙があって、陽葵が口を開いた。
「恭介さん、なんだか今日は色々とあって疲れてるのが分かるわ…。」
「あの事件の謎が少しだけ分かったからね…。寮に戻ったらやることが山積みになってそうで怖かったし、俺の場合、忙しいからサプライズとかやると課題が終わらなくて面倒とか色々とあったから、これがあって知らせてくれて助かったんだよ。」
陽葵はそれを聞いて恭介に対する胸のつかえが取れた気がしていた。
そして、大好きな彼の気持ちを切り替えさせる意味でも話題を変える必要性を感じていた。
「ねぇ、恭介さん、今から冬休みになって、恭介さんの実家に行くのが楽しみになったわ…。」
「陽葵さ、俺の実家だと山に行けば温泉があるんだ。そういう場所でゆっくりと2人でお湯に浸かって色々な疲れを癒やしたいよ。」
俺は何も考えずに陽葵に温泉に入りたいと言っただけなのだが…。
陽葵はそれを聞いて、俺の言葉をゆっくりと飲み込んだ後に、徐々に顔を赤らめた。
そして消え入るような声で俺に話しかけた。
「きょっ…、きょ、恭介さん…。そのぉ…一緒に…はいりますか…?」
陽葵のその恥じらいを見て思わず俺まで顔が火照るのを感じた。
「あっ、あ、あの…無意識で言ってしまったけど…、その、あの…、やらしい気持ちで言ったわけじゃなくて…、あ゛~~、何も考えないで言ってしまった…。」
しかし、霧島陽葵の心の中では大好きな人と一緒にお風呂に入る以上のことまで想像していたので、抵抗感は薄かったが、初めて好きになった男性に対して色々な意識や感情が錯綜していた。
そして、さらに陽葵は恭介の言葉を凄まじい方向に誤解をしてしまった。
『恭介さんは、わたしと一緒にお風呂に入ることを当然だと思ってくれるのね♡。だから、無意識にそんな言葉が出るのよ♡』
陽葵はかなり顔を赤らめながらモジモジとした様子で俺を見た。
俺は陽葵を直視しているが、その姿に悶えすぎて心の中では直視できていない。
そして、消え入るような声で再び俺に話しかけた。
「きょ…、きょっ、恭介さん♡、一緒に入りましょ♡」
陽葵のその言葉に俺は頭を抱えた…。
そして、俺が言葉に詰まった時、看護師さんが食事を持ってきた。
看護師さんが病室を出ると、陽葵は恥じらいながら俺に話しかけた。
「恭介さん♡、お返事を聞いてないわ…。そっ、そのぉ…、一緒にお風呂に入っても良いわよ♡」
その問いに俺は覚悟を決めた。
『もう、後戻りはできないよな…。俺は陽葵と生涯を共にするのだから。』
「それは男として一緒に入りたいし、もしかしたら感情が爆発して…その…、それ以上のことを求めてしまうかもしれないけど…、良いのか?」
陽葵は顔を赤らめながらも、消え入るような声で返事をした。
「はい♡」
俺はその陽葵の即答ぶりにジッと陽葵を見て固まっていた…。
しばらくして、陽葵がトレイにのった夕食を見ると、かなり恥じらった様子で俺を見た…。
それを見て、俺はとっさに箸を持ったが陽葵は笑顔で俺の右手をおさえた。
「恭介さん…だめよ♡」
そう言うと、陽葵はベッドにあがって俺の横にちょこんと座って俺に体を預けるように少しもたれかかった。
そうして俺の食事を横から食べさせ始めた…。
横からのぞく陽葵の顔は新鮮だった。
そして、いつも以上に恥じらっている陽葵が可愛すぎて、食事の味なんて分からなかったし、その…ちょっと色っぽさも感じた。
ただ今日は激しいスキンシップはお預けだった。
俺の食事が終わると、陽葵は俺の頬に軽くキスをして下着を回収して帰る用意をした。
「恭介さん…、うちの夕食の時間が迫っているから、これで我慢よ。」
陽葵の顔が真っ赤になっていたが、かなり名残惜しそうな顔をしていた。
彼女の心情として、激しいスキンシップをしてしまうと、恭介を求めてしまって寂しくなってしまう。
だからこそ、寂しくないように我慢をしていた。
それに、恭介には黙っていたが、彼が大宮や竹田と話している間に、荒巻さんから小声で、今回の件に関して両親に連絡を入れたと話されたので、早く家に帰って事情を説明したかったのだ。
両親には、恭介や彼の学友が守ってくれると話せば安堵をするだろうし、実際にそうだったのだが…。
陽葵が名残惜しそうな顔をしながら病室を出ると、俺は薬を飲みながら溜息をついていた。
そして、大きな独り言を放った。
「色々と凄いことになってきたなぁ…、2人でゆっくりできる日ってあるのか?」
俺は今の現状に頭を抱えた。
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