~エピソード6~ ⑨ 陽葵ちゃんと三上くんの友人達。
病室に良二、宗崎、村上の3人が入ってきて、俺の顔を見て安堵をしている様子だったが、少しの沈黙があった。
最初に喋り始めたのは良二だった。
「恭介、骨は折れてるけど、とりあえず無事そうで安心したよ。村上や有坂教授から話は聞いていたが、お前は凄すぎる。」
良二の言葉に村上が俺に向かって普段はあまり見せない笑顔になって話しかけてきた。
「三上、マジに生きていて良かったよ。寮では棚倉さんや諸岡がお前のことを相当に心配していたけど、今は落ち着きを取り戻したよ。それと、今日の有坂教授の講義は、お前の話が半分以上だったから課題が少なかったよ。」
「はぁ…。村上、それはマジで困る。月曜日に大学へ行ったら連中から質問攻めだろうし、下手したら連中からヘッドロックとかスープレックスを喰らいまくって死ぬぞ。」
俺が溜息ついて村上の話に答えると、宗崎が補足を始めた。
「意識を失ったと聞いて吃驚したけど、とりあえず良かったよ。有坂教授の話をみんな食い入るように聞いていたぞ。三上に彼女ができて羨ましすぎると連中は言っていたが、教授の話で納得した奴も多いよ。左腕の怪我は俺たちがフォローするから安心して欲しいし、学部の連中が茶化しにきたら俺たちが守るから安心してくれ。」
宗崎は陽葵をチラッと見ると、その可愛さから少し呆然としたのが分かった。
「そうだ、良二、宗崎と村上も来てくれてありがとう。積もる話もあるし、課題やレポートもあるから先に紹介するよ。俺の彼女の霧島陽葵さんです。」
俺が陽葵を紹介すると、お互いが自己紹介と挨拶を始めた。
ただ、3人とも陽葵を見て相当に緊張している感じだから相当にぎこちない。
陽葵は椅子をサッと並べると、3人にお茶を配った。
それを3人は呆然としながら見ていて、椅子に座るとお茶を受け取って飲み始めた。
少しの沈黙があって、良二が口を開いた。
「霧島さん、ちょっと、ごめんね…。」
良二の言葉に陽葵が少し笑みを浮かべながら首をかしげると、良二がその可愛さに息を呑むのが分かった。
「恭介や、マジに霧島さんが可愛すぎて、俺たちは緊張しっぱなしだよ。お前はマジにとても良い人を貰ったなぁ。気立ては良いし、とてもしっかりしているし、2人を見ていると夫婦みたいだよ…。」
その言葉に陽葵は少しだけ顔を紅くした。
陽葵の恥じらう姿が可愛かったが、イチャつくのをグッとこらえた。
それを見て3人が再び息を呑んだ。
続いて宗崎が話しかけてきた。
「三上。マジで凄いよ。有坂教授は、あの現場に居合わせていた女子寮長の長いお喋りを全部聞いた上に、お前の話で講義の時間を潰したぐらいだからな…。」
宗崎の話に俺が突っ込む前に、陽葵が顔を赤らめて答えた。
「宗崎さん、そのときの恭介さんは、とてもかっこ良かったわ♡。もう、2回も助けられているし、わたしは死ぬまで恭介さんについていくつもりなのよ♡。」
その陽葵の言葉に皆が顔を合わせた。
顔を紅くして恥ずかしがっている陽葵を見ると、俺も恥ずかしくなって少しだけうつむいた。
少しだけ沈黙があった後に、良二がニンマリと笑って口を開いた。
「霧島さん…いや、奥さん。旦那はマジで優しい上に凄い人間だから、しっかりと支えてやって下さい。友人として言わせて貰えば、コイツは偏屈で面倒くさそうに見えるけど、実は考えていることが非常に単純です。だから奥さんとしては扱いやすい人間だと思いますよ。ほんとにお似合いの夫婦ですよ…」
「良二、まだ俺は結婚したわけじゃないぞ…。みんな気が早いぞ…。」
俺の言葉に村上が首を振ると少し語気を強めて反論した。
「お前はなぁ…。本橋の言うとおりだぞ。2人を見ていると誰もが夫婦だと思うわ。もう、新婚さん並のラブラブ感が漂っていて近寄りがたいよ。それに霧島さんが可愛いすぎて言葉が出ない…。」
2人の言葉を聞いた陽葵がさらに顔を赤らめた。
「もぉ、お2人は冗談が上手いですよ。本橋さん、アドバイスありがとうございます。もうズッと支えていくつもりなので、大丈夫ですからね♡。」
『陽葵よ、恥じらいながら語尾にハートマークを付けて言うと、周りが余計に恥ずかしくなって言葉を掛けにくくなるぞ…』
案の定、3人が一斉に病室の天井に視線を合わせて恥じらいをこらえている。
『これは課題をやったほうがマシだ。』
「ねぇ、みんな、少し時間がもったいないから、今日の講義のノートを見せたり、課題を教えて欲しい。その間に手の空いてる人は、うちの陽葵と雑談をしていてくれ。大丈夫、そのうち慣れるから…。」
その言葉に宗崎が真っ先にバッグからノートを取り出して俺のそばに寄った。
陽葵がそれを見て、少しベッドから椅子を離して、良二と村上とお茶を飲みながら3人で話す体勢に入った。
「三上、少し助かったよ。今日あった講義のノートを見せるから、書き写したら説明していくから…」
宗崎の助かったなんて言葉に対しては少しスルーしつつ、俺は宗崎のノートを書き写しながら、2人の雑談に耳を傾けていた…。
主に良二が何か陽葵に吹き込んでいるような感じがする…。
「旦那さん、ちょっとだけ、意表を突くような悪戯をする場合があるから気をつけたほうが良いですよ…」
陽葵はそれをニコニコしながら聞いている。
『いけない、今は書くほうに集中しないと…』
必死に宗崎のノートを書き写していると、宗崎が陽葵たちに聞こえないようにボソッと話しかけた。
「彼女さん、マジに可愛すぎて、俺たちは緊張して話せないよ。本橋がなんとか喋ってるけど、すこし声がうわずってるし、村上なんて少し固まってるぞ…。」
俺はノートを書き写している手を止めずに、陽葵に聞こえないようにボソッと宗崎に話しかける。
「宗崎さ、今度は良二がレポートを見せるだろうから、村上と2人でバレーボールの話をすれば陽葵は乗ってくると思うよ。ただ…、さっきみたいに当てられたらすまぬ…。」
宗崎はうなずくと、ノートを全て書き写したタイミングで今日の全部の講義の説明をザッと始めた。
しばらくして説明を終えると、良二がこっちを見て俺に助けを求めていた。
「助かったよ。体育祭実行委員の時の教訓があるから、皆がレベルアップしていて俺も助かってる…」
俺が宗崎に礼を言うと、こんどは良二がレポートを持ってきた。
良二は、それを見て逃げるようにレポートを見せるとボソッと俺に話しかけた。
「恭介や、奥さんが可愛すぎて言葉に詰まる。お前にベタ惚れ状態だし、のろけすぎて死にそうだぞ…」
レポートを写しながら良二に無表情で話しかけた。
「大丈夫だ。俺も陽葵にベタ惚れすぎて周りに当ててしまうかも知れない。その時はすまぬ…」
それを聞いた良二が俺の頭を叩いた。
「お前なぁ、それをやったら周りが何も言えねぇよ。お前らマジで好きすぎて滅茶苦茶に周りに当てまくるだろ?。参ったなぁ、見ていて互いがベタ惚れなのが分かるからな…。」
これ以上は良二に何も言えないので、陽葵のほうを見ると、宗崎と村上がバレーボールの実行委員会チームで俺が活躍をしたことを話しているようだ…。
「旦那さんのアタックが凄くてさ、少し身長が低いけど凄いジャンプ力で打つから…」
村上の話を陽葵は目がハートマークになりながら聞いている…。
それを見た良二が頭をかいた…。
「マジに参ったなぁ、お前が宗崎にそう言えとアドバイスしたのが明らかだけどさぁ…。効果てきめんで見ていられねぇぞ。お前の嫁さんは村上の話を夢中になって聞いているけどさぁ、目がハートになってるから、こっちがマジに辛いぞ…。」
「すまぬ。黙ってぎこちない様子でいるよりはマシだろ…。そのうち慣れるし、来週から俺が大学に行けば弁当を作ってくれるから必ず昼に陽葵が来るし。悪い、今から慣れてくれ…。」
良二がそれを聞いて俺の首を絞める真似をした。
「おめぇよぉ~。マジに羨ましすぎる。毎日のように愛妻弁当を作ってもらって、嫁さんとイチャつきながら食べるのだろ?。はぁ…、マジにお前はなぁ…。」
俺は良二と話をしながらもレポートを書く手を止めない。
レポートを書き終わると、良二は細かいところを俺に教えて、それを終えると悪戯っぽく笑った。
「恭介、今からあの決勝戦のことを宗崎と一緒に話すからな。俺が勢いで話しているうちに嫁さんに慣れると思うからさぁ。」
「良二、悪いな。村上と一緒に課題を終えたら、少しゆっくりと話そう。」
良二が椅子から立つと、すかさず村上がやってきた。
村上が良二と交代して俺の隣の椅子に座るとボソッと言った。
「奥さんが可愛すぎて言葉のかけようがない。宗崎と一緒にバレーボールの話をするのが精一杯だったぞ。」
「悪い、もう、慣れてくれとしか言いようがない。さっき良二にも話したが、陽葵は毎日、弁当を作って俺のところに持ってくるからお昼は常に一緒だぞ。」
それを聞いた村上が勘弁してくれと言わんばかりに天を仰ぐように天井を見た。
「みっ、み、三上。マジか…。昼時になると、お前と奥さんを取り囲むように人だかりができるぞ。そのうち連中も慣れると思うけど…。それに、興味本位で安易に言葉をかけられるような奥さんじゃないから、連中から奥さんを冷やかすような言葉はかけられないと思うけどさ…。」
俺は話を切り替えることにした。
「村上、悪い。その話はとりあえず置いといて、金曜日に出た課題やレポートを教授のところに持って行って欲しい。そのぶんだと、どの教授も俺の事情は分かってるから、誰が持っていっても受け取るだろうし。」
入院中にやっていたレポートや課題を村上に渡すと、複雑そうな顔をしている。
「入院中も課題やレポートをやるのは三上らしいけど、入院直後は意識を失っていたりしたから、少しは大人しく寝ていても良かったのに…。」
「うーん、実行委員チームの面々とか、棚倉先輩とか三鷹先輩なんかの邪魔が入ったりしたり、入院当初はウチの両親や陽葵の家族まで来ていたから、色々と面倒すぎて落ち着かなかった。」
村上は長い溜息をつくと俺を哀れな目で見た。
「お前はいつも、そんな感じだからなぁ。マジで可哀想に思えてきた。休まる時間がないから。」
「仕方ないさ、寮に帰ったら文化祭も近いし地獄が待っているから、入院中でも課題やレポートを終わらせておかないと4日分も溜めると死ぬし、骨を折ってるから1ヶ月ぐらい実行委員の練習に参加しないけど、土日は陽葵の両親に呼ばれているし、もう両親公認で付き合ってるからな。」
「まじか、この交際期間で両親公認なのか…。すげーなぁ…」
村上はそれを聞いて少し吃驚したように口をポカンと開けつつも、バッグから課題のプリントやノートを取りだして最初に説明を始めた。
俺は村上の説明を聞きながら課題を進めていく。
課題をやりながら、良二と宗崎や陽葵との会話に耳を傾けるとバレーボールの決勝戦の話をしていた。
良二がニヤリとしながらも、懸命になって陽葵に語っていた。
「旦那がね、もの凄いジャンプサーブを打って何点もサービスエースを決めてね…」
陽葵は目がハートになりながら、その話を食い入るように聞いている。
それをみて俺は頭を抱えながらも課題に集中した。
「奥さん、バレーボールの話に相当に食いついているよな、チラッと聞いたけど、泰田さんの親子や守さんのお母さんから、奥さんが一緒に練習に参加するなんて言っていたからさ…」
課題を書く手を止めずに村上の問いに答える。
「そうなんだよ。俺が1ヶ月後に球拾いができるようになってから、陽葵も一緒に連れて行く感じかな。それよりも、村上も宗崎もうまくやれよ。粘り強く続ければ何とか相手も近寄ってくる気配も見えているしさぁ…」
恭介と陽葵が付き合ったので、実行委員チームの全員が三上に失恋した格好になったが、実際のところ、それ以前から三上が自分に興味が更々ないことに気づき始めた一部の女性は、保険をかけ始めていた側面があった。
宗崎や村上は、少しずつ女性陣に距離を近づけて、今では親しげに言葉を交わすまでになっている。
「それはお前のお陰だよ。やっぱり三上の奥さんとなると相応だよな。俺も頑張らないとね…。」
村上がそう言うと、俺の課題で行き詰まっているところを詳しく教え始めた…。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます