~エピソード6~ ④ 坪宮玲佳のホンネ。

 愛が熱すぎる昼食が終わって、痛み止めの薬を飲んだ後に、陽葵が不思議そうに俺の目を見ていた。


「ん?、陽葵、どうしたんだ?」

 俺が問いかけると、陽葵は右手を握りながらベッドの横にある椅子に座って微笑みかけた。


「恭介さんは寮長さんだし、交友関係も広くて色々な人を知っているわ。バレーボールが上手かったり、占いが得意な学生さんを知っていたり。それに、みんなが恭介さんを信頼しているのも分かるわ。それが凄いと思ったのよ。」


 陽葵の本音は少しだけ違ったが、それは心の片隅に置いた。

 恭介は、他の女性に安易になびく性格でないからだ。


「陽葵さぁ、俺は無理矢理、先輩達から厄介な仕事を押しつけられたから、その副産物で他の学部の人を知ってるだけだよ。友人なんて数人しかいないし、それに偏屈なオタクだよ?。こんなに可愛くて可憐で綺麗すぎるし、性格も良すぎる陽葵と付き合えたことが大奇跡なんだ。」


 その言葉に陽葵は顔を赤らめながらも首をかしげている。


「恭介さん、その褒め言葉はとても恥ずかしいわ。棚倉さんや三鷹さんと恭介さんのやり取りを聞いていると、そう思えないわ。難しい大きな仕事も恭介さんは簡単にこなしてしまうイメージしかないもの…。」


「陽葵。少しそれは間違っている。俺は本来、そんな面倒なことをやらずに、学部の片隅のほうで平和に大学生活が送れていれば、それで良いと思っている人間だよ。」


 俺は今後の事も考えて、高校時代の苦しい思い出を少しだけ語って、その経験が買われている側面も話した。


 話している時に陽葵の顔が徐々に曇って、しまいには泣きそうになるのが分かった。 

「グスッ、恭介さん…。そんなに辛い想いをしてきたのね…。そのときに、わたしが出会っていれば恭介さんを助けられたかも知れないのに…。」


 俺はその言葉に静かに首を振った。


「これで良かったんだよ。上手く説明できないけど、そんな高校生活に比べれば、ここは天国だし、少し面倒な仕事を押しつけられても気が楽で良いよ。オマケに可愛い陽葵までついてきたのだから、俺は幸せ者なんだろうね。」


 そう言うと、陽葵は少しだけ微笑んだ。


「恭介さんが、そうやって前向きに考えているから良かったわ。いつまでも引きずらずに、その時の経験を活かして活躍しているのだから凄いわ。」


 陽葵が何か言葉を喋ろうとした時に病室の外から足音が聞こえた。

 スッと坪宮さんが入ってきた。


「三上さん、それに霧島さんもゴメンね。三鷹さんの話がメッチャ長くて死ぬほど大変だったのよ!」


 俺と陽葵はそれを聞いて笑ってしまった。


「坪宮さん、三鷹先輩の話は長いので、私は彼女を天敵と見做みなしています。気持ちは分かりますよ。お見舞いに来て、こんなところで長話をされたら俺達は喋り殺されますからね。」


 それを聞くと坪宮さんはお腹を抱えて笑った。


「あ゛ぁ~~~、笑ったっ。三上さんは思ったよりもシュールな人なのね。もうね、喋り殺される意味が分かりすぎて辛いわ…。」


 陽葵はそれをみて、冷蔵庫からお茶を出して坪宮さんに渡した。


「霧島さん。マジに気が利くから助かったわ。もうね、三鷹さんと話し続けて死ぬかと思って喉が渇いていたのよ。」


「ふふっ、坪宮さん。三鷹さんはよく喋るから、わたしも恭介さんと同様に上手く距離をとりながら接しているわ。語り始めたら止まらないから気をつけたほうが良いわよ。だって、恐らく文化祭の打ち合わせで近いうちに会議があるから、坪宮さんも打ち合わせを兼ねた会議に出席する筈だわ。」


 陽葵は悪戯っぽく笑うと、坪宮さんは陽葵の隣に椅子を並べて座りだした。


「ヨイショッと。最近は歳のせいか座るのに声が出るわ…。その話は学生課の荒巻さんから聞いたわ。今週の水曜日の夕方から会議で、金曜日は三上さんが退院する日なのよね。」


 そう言いながら坪宮さんはバッグからお約束の虫眼鏡を取り出して興味深そうに笑った。


「新婚さんの邪魔をするのもアレだから、占って少し休んだら帰るけど、やっぱり、さすがは三上さんの彼女さんだけあって、可愛いし綺麗だし性格も良さそうな人だわ…。」


 坪宮さんから褒められた本人は少しだけ顔を赤らめた。

「いっ、いや…わたしはそんな人では…。」


「うちの学部の綺麗な子たちと争っても、霧島さんには負けてしまうわ。三鷹さんも、あんなに綺麗だけど、お喋りしなければ、もっと言い寄ってくる男性も多いのにねぇ…。さてと、霧島さん、少し占わせてね。」


 坪宮さんは、そう言うと陽葵の手相をジッと見た。

 そして、腕を組んで少し考えて、万遍の笑みで陽葵の目をジッと見た。


「ハッキリ言うと、2人が卒業してしばらくしたら三上さんと結婚することは間違いないわ。三上さんと一緒になって中年になるぐらいまでは苦労すると思うけど、初老になって大器晩成になるから、そこまではシッカリと支えてね。もう、それしか言うことがないのよ。」


 陽葵はそれを聞いて嬉しくなった。


「どんな事があっても、わたしは恭介さんを離すことはないわ。もうズッと一緒についていく覚悟が固まっているから、人生で荒波がきても一緒に乗り越えてみせるわ。」


 それを聞いて坪宮さんはうなずいた。

「こんなところで思いっきり当てられても困るけど、さすがは三上さんの彼女だわ。そうだ、ここからは女同士の話だから、三上さんには内緒よ。」


 陽葵と坪宮さんが椅子から立って、俺に聞こえない部屋の隅に行って少し離れた所でヒソヒソ話を始めた。


「霧島さん。実行委員会幹部やバレーチームの女性たちが三上さんに気があったのは分かっていた?」

「午前中に来ていて感づいていたわ。恭介さんは彼女達に興味がないから普通に接していたけど。」

「良いことを教えてあげるわ。打ち上げコンパの時に恋愛を占って彼女達が全滅だったので、同じ言葉を繰り返すハメになったのよ。たぶん彼女達の未練は薄いと思うけど、少しだけ用心したほうがいいわ。」


 内緒話が終わると2人は微笑みあった。

 そして、坪宮さんが俺のほうを向くと複雑な顔をして話しかけた。

「ごめんね、三上さん。女心って厄介だから始末におけないのよ…。」


「坪宮さん、気にしなくていいよ。女性同士のイザコザは男子よりもズッと恐いし、魑魅魍魎も多いから、男が入る余地なんてないから。性格がねじれた女子が俺に罠をかけてくれば、陽葵が必ず助けてくれるから心配していないよ。」


 坪宮は三上が言った言葉が遠からず当たりだったから、少しゾッとしていた。


「みっ、三上さん、直感力がものすごいわ。マジにゾッとするわよ。それをズバズバと言うのは気をつけたほうが良いわ。そのために霧島さんがいると思うと、ホントにベストカップルなのね…。」


「坪宮さん、俺はみんなが想像しているような、シッカリ者じゃないよ。本来の俺はめんどくさがりだし、普段はボーッとしてる人間だから、万が一、あの中で言い寄ってきた女性がいたしても、すぐさま断っただろうね…。」


 俺はこのさいだから、坪宮さんに本音を吐いてみた。

 それを聞いて陽葵は微笑んでいるし、坪宮さんは口をあんぐりと開けて呆然としていた。


「うぎゃぁ…。三上さん、ある程度、分かっていたのか、相当に鈍いのか分からないけど、結果論的には同じだったのか。」


 彼女は少し溜息をつくと言葉を続けた。


「わたしのホンネとしてはね、三上さんとわたしとは絶対に性格が合わないだろうしタイプも違うからダメだけど、真面目な女性ほど三上さんを好きになる理屈はわかるのよ。ただ、三上さんのそういう本当の性格とか、運命の引き寄せかたを含めて凄く興味を持ったから、悩んだら何時でもわたしに電話を入れてね。」


 坪宮さんの言っている意味が分からなかったが、俺が彼女から健全的な意味で気に入られた事が分かった。


「坪宮さん、ありがとう。今回の文化祭の件で助かった。俺も怪我をしてしまっているから、重いモノも運べなくて役に立たずに立ちんぼ状態だろうし、アイディアぐらいは出さないと示しがつかないと思ってね、いきなり電話で呼んで、さらに陽葵を占ってくれてありがとう。」


「三上さん!!。あなたのそういう所が、多くの人を惹き付けるのよ。霧島さんも三上さんから目を離さないで下さいね。男女問わずに三上さんは、そういうことをやるから、惹き付けられるのよ。」


 坪宮さんは、そう言ってテーブルに置いた虫眼鏡をバッグにしまうと席を立った。


「そろそろ、わたしも帰るわ。でも、他の学部の人を占えたら今日は満足よ。三上さんも怪我を早く治して頑張ってよ。また文化祭で活躍が見られるかと思うと、こっちはそれだけで楽しみだわ。」


 そうして彼女は手を振って病室から去っていた…。


 陽葵は坪宮さんが病室から出るのを見送ったあと、微笑みながら俺に話しかけた。


「恭介さんは、その無自覚の使命感が人を好きにさせるのよ。わたしは教育学部の体育祭実行委員会で恭介さんが皆を引っぱっていた姿を見たかったわ。そして、それに疲れた恭介さんをわたしは癒やすのよ。ふふっ。やっぱりあなたが好きだわ♡」


 *****************************

 -そして今は現代。

 俺は新島先輩に少し長いDMを入れて一休みをしていると、陽葵が俺のそばにきて書いたDMを読んでいた。


「そうそう、坪宮さんの占いの的中率がすごかったわよね。あの日もお見舞いがくる人が沢山いて、ドタバタしていたのよね…。」


 そばにやってきた陽葵の頭をなでながら、あの時のことを思い出していた。


「いやさぁ、いま思うと、泰田さんや松裡さんがぎこちなかったのも、それが理由なんだよね。あの時は鈍感で良かったというか…。逆にそれで良かったんだよなぁと」


「あなた…。その通りよ。だからこそ、今のバレーボールがあるのよ。彼女達は立ち直った後が強かったし、性格も良い人ばかりだから、わたしは後で色々と救われたのよ。」

 そう言うと陽葵は俺の右腕を少し抱き寄せた。


「ふふっ、今でもあなたも、わたしもお互いが大好きだわ。あなたなんて、この当時よりも、もっと好きになってくれているから嬉しいのよ♡。」


 その時だった。

 新島先輩からDMの返信が届いた。


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 お前はなぁ、この短時間に続きを思い出してパッとメールを返せるよなぁ。

 俺がお前にメール出してから、1時間半ぐらいで、パッと見て3,000文字ぐらいだよ?


 たまに棚倉先輩に頼まれて、教育関係の実践的な論文というか、レポートみたいなのを書くこともあるけどさ、お前みたいバカバカとキーボードを打って書ければ絶対に1日で終わると思ったわ。


 お前はマジに恐ろしいよ。


 それと、陽葵ちゃんとお前の愛については、ご馳走様としか言いようがないし、お前と坪宮がこんな感じで繋がっていたことを初めて知ったわ。


 アイツ、マジに占いが当たりすぎて恐かったからな…。

 当然、次もあるだろうから、期待しながら待っているよ

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 横でDMを読んでいた陽葵がひとことだけつぶやいた。


「やっぱり坪宮さんの占いは恐いぐらい当たるのよね…」

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