~エピソード6~ ③ 熱すぎるお食事タイム。

 実行委員チームの面々が帰ったので、荒巻さんと松尾さんと共に俺達は病室に戻った。

 しばらくすると棚倉先輩と三鷹先輩が病室に入ってくる。


「強引に病室に押しかけてごめんなさい。」


 部屋に入るなり、先輩2人が俺に頭を下げて声を揃えて謝ってきたので俺は慌てたが、とりあえずはその謝罪を受けることにした。


 俺は笑って許すと、苦笑いしながら先輩達に気にしていない事を伝える。

「高木さんに相当に絞られたと思うから、俺から何も言うことはありません…。」


「三上よ、お前が今まで、新島がヘマをすると高木さんから怒られていたのを防いでいたから、久しぶりに、まともに怒られたぞ。あれはキツすぎる…。」

 棚倉先輩は顔を青くしながら怒られた時のことを思い出したようだ。


「恭ちゃん、わたしも久しぶりに高木さんに絞られたわ。あの恐怖は生涯、忘れられないと思うわ…」

 三鷹先輩はすこし涙目になっている。


 あまり引きずると2人に良くないと思ったのか、荒巻さんはすぐに本題を切り出した。


「三上くんが可哀想だから、お昼までに話を片付けるよ。今週の寮長会議で寮の出店の一角で人寄せをしたい案が出ていたけどね、三上くんが教育学部の中で面白い占い師がいるから占いコーナーを設けようと提案をしている。」


 荒巻さんの話を聞いた棚倉先輩が真っ先に反応した。

「おっ、それは良いかも。坪宮か。お前はたしか、あの打ち上げコンパで坪宮と電話交換をしていたよな?」


「先輩、話が早いです。もう、坪宮さんと連絡をしたので、そろそろ来てもよい頃ですがねぇ…」

 俺がそう言うと、タイミングよく病室の外から足音が聞こえた。


 坪宮さんは少し息を切らしながら病室に入ってきた。

「坪宮ですけど、三上さん、本当に大丈夫ですか?。意識を失ったと聞いたからマジに焦りましたよ。骨が折れてるけど、その姿を見る限りでは元気そうでよかったです…。」


 坪宮さんと陽葵や三鷹先輩、それに荒巻さんや松尾さんと軽く挨拶をすると、早速、荒巻さんが本題を切り出した。


「三上くんが少しお疲れ気味なので、私から単刀直入に話してしまいますが、坪宮さんが今回の文化祭でうちの寮のブースで占いコーナをやって頂けるということで、三上くんがこの状態で今週の寮長会議に出られないから、具体的な話を進めてしまおうと思いまして…。」


 実際のところ、荒巻と松尾がここにいたのはもう一つ理由があって、棚倉や三鷹が三上の病室にいて無闇やたらに邪魔をしないように見張る側面が大きかった。


 文化祭の打ち合わせなどは、三上がいなくても進行できるから、それはオマケであった。


「荒巻さん。わたしはもちろんOKですよ。多くの人が出入りする場所で占える機会なんてないし、本格的にやろうとしても大学生では相手にされないし、まだ趣味の範囲だから、小遣いが貰えるだけでも有り難いのよ。」


 坪宮さんは、とても嬉しそうにしていたので、俺は早々に具体的な提案をしてみた。


「占いの受付や誘導は、うちの寮生を使って上手くやります。うちのバイト連中を使えば、朝飯や昼飯、下手すると夕飯までタダと言えば喜んでやるでしょうし、坪宮さんも食事に関しては絶対に困らないと思います。」


 彼女はもの凄い笑顔になった。

「えっ!!!。タダで食事も食べさせて貰えるの??。マジで!!。絶対に受けるわ!!。」


 棚倉先輩がニンマリしながら坪宮さんに答えた。

「坪宮よ。文化祭の時はブースを手がけている寮幹部は無論、ボランティアで動いてくれた寮生のぶんまで食事が提供される。そこにいる霧島さんも同じだぞ。」


 特に三鷹先輩が口を開く前に、坪宮さんと詳細事項を片付けておきたかった。

「坪宮さん。1回500円で、うちの場所代と管理費として100円だけバックする形で良いですか?。あとは坪宮さんのお小遣いで構いませんから。」


 それを聞いた坪宮さんは笑顔になった。

「趣味の占いでそんなにお金をくれるの???。マジでいいの?。今年だけとは言わず、来年も絶対にやるわ!!」


 坪宮さんの言葉に荒巻さんと松尾さんが顔を見あわせると、松尾さんが口を開いた。

「三鷹さん、棚倉くん。そろそろお昼だから、坪宮さんと一緒に食事に行こう。」


 病室の外では食事を配膳する音が聞こえていたから、松尾さんの言葉はとても有り難かった。


 松尾さんの言葉に3人の顔がパッと明るくなったが、坪宮さんは、荒巻さんに耳打ちをしていた。

 坪宮さんと棚倉先輩や三鷹先輩、それに松尾さんが俺に軽く言葉を掛けて病室を出た後に、荒巻さんはソッと俺達に声をかけた。


「私たちと三鷹さん、棚倉くんはこれで帰るけど、坪宮さんは食事が終わった後に、ここに来て霧島さんを占いたいそうだよ。」


「荒巻さん、助かりました。だからズッと居残っていたのですね?」

 俺がそう言うと、荒巻さんはもちろん陽葵まで笑顔になっている。


「さすがは三上くんだね。2人は高木さんに絞られたけど、まだ分かってない感じだったからね。強制的に連れて行ってしまえば大丈夫だし、坪宮さんが私達も占ってくれるらしいから、いまから楽しみでね…。」


「ふふっ、わたしも坪宮さんに興味があるし、今から占ってもらうのが楽しみだわ…」

 陽葵を見ると今から楽しそうな雰囲気が漂ってるし、そういう顔も可愛くて仕方がない。


 荒巻さんは俺達に手を振ると病室を後にした。


 ほどなくして、病室に食事が運ばれてきて、トレイを見ると2膳の箸と匙が2つ…。

 それを見た途端に、俺は奇妙な敬語で陽葵に問いかけた。


「悶えるほど可愛いすぎる陽葵さん。やっぱり私は陽葵様に食べさせてもらう運命なのでしょうか?」

 すでに俺の精神は陽葵に支配されつつあった。


 次の瞬間、陽葵は後ろから俺をギュッと抱きしめた。

「恭介さんっ♡。いまからタップリと、       っ♡」


 陽葵の過激さが増してるのは気のせいだろうか?

「陽葵様、なんだか今日はとても私への愛が激しい気がしますが…。」


 俺が恐る恐る聞くと陽葵は再び後ろからギュッと抱きしめながら俺の耳元でささやいた。

「朝から恭介さんに食べさせるのを我慢していたのよ。それに明日から大学があるから、今日の夕方には帰らないといけないわ…。そのぶん、たっぷりと恭介さんと一緒にいたいのよ♡」


 その…背中に激しく陽葵の胸があたる感覚があって、俺は相当な緊張感を覚えていた。

 陽葵は少し痩せているほうだが、普通の人より胸が大きめなので余計にそれを感じていた。


「ひっ、陽葵さまっ、このままではご飯が食べられないので、せめて前を向いて下さい。正面を向いても可愛いのに、これは一種の拷問です…、はい。」


 俺は完全に錯乱していた。


 荒巻さんや松尾さん、先輩2人に加えて坪宮さんと一緒に食事をしている訳だし、坪宮さんが皆を占うなら相当に時間が掛かるだろうし、三鷹先輩の話が長そうだから、坪宮さんもすぐに病室には来られないだろう。


 しかし、こんな事をやっていては、時間切れで昼食のトレイを看護師さんが片付けてしまうだろうし、こんな姿を看護師さんに見られたら恥ずかしくて仕方ない。


 陽葵は悪戯っぽく笑うと、ベッドの横にある椅子に座って頬を赤らめながら匙を出して、俺にご飯を食べさせた。

「恭介さん♡。いっぱい食べて下さいね♡。」


 恥じらって顔を赤らめつつも食べさせてくれる陽葵が可愛すぎて俺は悶えながら食事を食べることになった。


『今日の陽葵はヤケに気合いが入っていているような…』

陽葵のあまりの可愛さに悶えながら昼食を食べていた。

 

 もはや味など分からなかった。

 陽葵がいつもよりも顔を赤らめながら、恥じらって俺に食べさせてくる愛くるしい姿を目に焼き付けながら陽葵の恥じらうような可愛さを俺は味わうことになったのだ。


 陽葵がこれほど恭介に激しい愛情をぶつけたのには明確な理由があった。


 今日のバレーボールのチームの女性達が明らかに三上に惚れていたことや、彼女達が自分のせいで完膚なきまでに失恋したことを考えると、恭介を愛おしく思う気持ちが増してしまって、そのまま彼に抱かれても構わないような気分になってしまったのだ。


 それは仕方のないことだ。


 霧島陽葵は、寮の先輩や周りから三上のことを聞かされていたが、基本的に彼がオタクな装いで見かけはモテない人物だったことや、性格面から実行委員会のチームから人気があったが、本人は鈍すぎることに加えて、実行委員幹部の女性陣には全く興味がなかったことなどは知らなかったのだ。


 彼が他の人に浮気をして欲しくない願いから、恭介に対して過剰に愛情を振りまいてしまったのだ。


 そして、今までよりも相当に愛に満ちあふれた食事が続いて、終わろうとしている時に、陽葵の要求は過激さを増している。


 陽葵は最後に一口にサイズになったパンを持つと、今まで以上に恥じらいながら俺を少しだけ抱き寄せた。


「ひっ、陽葵さまぁ~。何をするのですかぁ~~~!!!」


 俺は悲鳴にも似たような声で陽葵に問いかけると、首元から耳まで真っ赤にした陽葵が恥じらいながら、耳元でソッとささやいた。


「恭介さん♡。これを食べて♡。」

 陽葵は一口サイズになったパンをくわえると、俺の口元に寄せる。


 それをみた俺は息を呑んだ。

 可愛い陽葵が顔を真っ赤にして恥じらいながら一口サイズになったパンをくわえて俺に迫ってきた。


 陽葵の顔が迫ってくる時間は永遠に流れたように感じて、スローモーションになって時が流れたように思えた瞬間…、彼女の独特な甘い香りが立ちこめて、前髪が俺の額に触れた。


 !!!!!!!!!

 

 俺がそのパンを食べた瞬間、陽葵と熱いキスをしてしまっている…。


 もう、パンの味なんて分からなかった。


 俺が味わったのは、陽葵の熱すぎる愛情だった。

 陽葵の強い愛を俺は受け止めて、その日の熱すぎる昼食を終えたのだ。


 キスが終わると、しばらくの間、互いが見つめあって微笑んでいたから、その見つめ合ってる時間は永遠と過ぎていったのだ…。


『陽葵が好きする…マジにどうしよう…俺は陽葵に溶かされてしまう…』


 俺を見つめている陽葵の目がとても愛おしかった…。

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