~エピソード6~ ② 同時に失恋した5人の女子の行く末。 ~2~

 全員が一斉に俺を見た。


 泰田さんが驚いて目をパッと見開いて俺に向かって指を差しながら言った。

「坪宮さんか!。それは名案だわっ。それで、三上さんは、あのコンパの時に彼女さんと付き合うことを予言されていたのね!。」


 その質問に苦笑いしながら白状することにした。

「泰田さん、打ち上げコンパの時に彼女ができたら、絶対に電話で連絡してと言われていたのです。そこで、文化祭の件を少し提案してみようと思ってるのですが…。」


 その言葉に松裡さんが何かを思い出したようにポンと手を打って答えた。

「坪宮さんは、学部の人たちを占うのが飽きてきたところなのよ。だからね、もしかしたら二つ返事で受けるかも知れないわ。だって、この前だって誰か三上さんみたいな人がいないかなぁ…、なんて言っていたのよ…。」


 俺はその松裡さんの言葉を聞いて即座に電話をかけることを決意した。

「皆さん、ちょっと失礼ですけど、坪宮さんに電話をかけていいですか?」


 その俺の問いに皆が一斉にうなずいた…。

 陽葵から携帯を受け取ると、俺は坪宮さんに電話を入れた。


 電話に出た坪宮さんは三上だと名乗る前にすぐさま言葉を口にした。

「坪宮です。そろそろ三上さんから電話がかかってくると思っていたわっ☆」

「それなら話は早いです。事情も知ってるだろうから省略します。ただ、入院中で今は動けないのですが…。」

「三上さんの入院先や病室も棚倉さんから聞いて知っているわ。」

「もう話が早すぎます。電話口で申し訳ないですが、少し頼み事もあって…」

「なんですか?。三上さんの頼みなら絶対に聞きますよ?」

「実はですね…。文化祭になると、うちの寮は、いつも人気メニューを提供するコーナーを出しているのですが、その一角に坪宮さんに占いコーナーを設けようと思いまして…。」

「え??、それは是が非でも引き受けたいわ。100円でも500円でもいいのよ。とにかく趣味で占いをやっているだけだから…。いまから詳しい話を伺いに三上さんが入院している病院へ行っても良いかしら?」


 坪宮さんの頼みを快諾すると、俺は電話を切った。

「今から坪宮さんが来るようです。彼女はうちの一角で占いをすることを快諾してますよ。」


 荒巻さんは俺の電話でのやり取りを聞いて笑みをこぼした。

「三上くんは凄いね。あの体育祭の外部委員で委員達と相当に交流があったことが分かるし、皆が慕っているから、時間が少し経っても離さないのだよね…」


 荒巻さんや松尾さんや他の面々と雑談をしていると、守さん親子と、泰田さんのお母さん、そして山埼さんと逢隈さん、そして天田さんも談話ルームに来た。


 陽葵は3人の女子学生を見ると、失恋をしていて、それを隠してるような様子が明らかに分かった。

 そして、病室から人数分のお茶をビニール袋に入れて持ってくると、ここにいる皆にサッと渡した。


 守さん親子や泰田さんのお母さん、山埼さんと逢隈さんそして、天田さんが陽葵と自己紹介を済ませると、真っ先に守さんのお母さんが心配そうに口を開いた。


「三上さん。一時期は意識を失ったと聞いたから本当に心配したわ。その骨の折れかたでは春頃まで無理そうよね。骨が繋がらない状態で、無理矢理に練習をしてしまうと大変なことになるから、慌てなくていいわよ。」


 そして、今度は泰田さんのお母さんが俺に声をかけた。

「結菜から聞いてホントに吃驚したわ。三上さんの命に別状がなくてホッとしたし、それにね…。こんなに可愛い子が三上さんの彼女さんなんて、もう、私はニヤニヤしちゃうわ。霧島さん、ウチのチームに入らない?。わたし達は大歓迎よっ☆。」


 陽葵が口を開く前に泰田さんがすかさず答えた。

「お母さん、わたしも霧島さんを誘って二つ返事でOKしてくれたのよ。霧島さんは、まだ、少ししかお話していないけど、とても良い人よ。」


 泰田の言葉に、守や山埼、逢隈は少しうつむきながらも、気持ちを前を向いた。

 3人も霧島陽葵の容姿や、すぐさまお茶を皆に配るなどの機転の良さなどは、自分とは違って敵わないし、三上がダメな時には彼を引っぱるぐらいシッカリとしていたのが明らかに分かった。


 守は誰にも気付かれないように、無理矢理に笑顔を作って僅かに声を震わせながらも陽葵を歓迎した。

「霧島さん。三上さんの彼女だし、絶対に悪い人じゃないから大歓迎だわっ。三上さんがしばらく練習ができないぶん、みんなで彼に追いつくように頑張りましょ!。」


 彼女はそう言って席を立って陽葵に近寄って固い握手を交わした。

 そして山埼や逢隈も立ち上がると、陽葵と固い握手をしたのだ。


 泰田や守などを含めて、実行委員チームの女性陣は皆、三上に気があったが、ここで全員が失恋した形になったのだが、誰1人として、この場で泣く人はいなかった。


 彼女達が失恋しても比較的に冷静だった理由が一つあった。


 体育祭実行委員の打ち上げコンパがあったとき、三上は坪宮に占ってもらったのだが、それに触発されて実行委員幹部の女性陣全員が坪宮のもとに押しかけて、幹部全員の占いをするように懇願をした。


 坪宮は、そろそろ占いをやめて実行委員のコンパを楽しみたかったので『占うことは一つのみ』という条件で彼女達に提案したところ、全員が恋愛だったので、もう三上が目当てだろうと直感的に感じて苦笑いをするしかなかった。


 先ほど占った三上の手相は覚えていたから、とりあえず彼女達の恋愛運が三上と同じタイミングで引き合うのかを見たが全員がそれに合致しないから、坪宮は彼女達に同じような台詞を繰り返すだけの作業になった。


「数ヶ月後に失恋するわ。その後に誰かと会って成就して社会に出た時にゴールインする感じだわ。」

「今の恋愛は絶対に成就しないけど、来年の春頃に彼氏ができる感じかしら…。」


 坪宮の言葉を実行委員幹部の女性が聞いて、同じような結果に顔を見合わせたのは言うまでもない。


 そして、コンパが終わった後に、彼女達はいつものファミレスで女子会を開いて『全滅したとしても落ち込まない。三上さんの彼女なら絶対に性格の良い人だから、あえて友達になってしまおう』と、泰田が前向きな言葉をかけていたのが功を奏したのだ。


 それがあったからこそ、彼女達は心の準備ができて、この場にいても少しだけ冷静でいられた。


 女性陣が陽葵との握手を終えると、天田さんが立ち上がった…。

「なんか、空気が読めなくて1人だけ遅れてしまったけど…。霧島さん、よろしくお願いしますね。」


 陽葵は彼に悪気がないのはよく分かっていたから、天田さんに笑顔で言葉を返した。

「天田さん、大丈夫ですよ。みなさん、こちらこそよろしくお願いしますね。」


 天田さんは陽葵の顔をみて、あまりの可愛さに呆けているのが俺にもよく分かった。

 彼は俺のほうを向いて呆けながら口を開いた。


「さすがは三上さんです。こんなに体を張って必死に守ったら、霧島さんは絶対に三上さんを離しませんよ…。それに、その髪型はどうしました?。なんか何時もよりカッコよくなってますよ?」

 天田さんがそう言うと、俺の右手をシッカリと握って真剣なまなざしで俺を見つめている。


「あっ、これはね…。お金がないから、本館の近くにあった美容室でカットモデルをしただけだから…。別に霧島さんと付き合うことになったから、意を決した訳じゃないからね…。」

 俺は苦笑いしながら天田さんのツッコミに答えた。


 荒巻さんがそれを聞いて少しクスッと笑って天田さんの言葉に補足を入れた。

「みなさんはね、三上くんを霧島さんを暴漢から救った話しか知らないと思うけどね…、彼はその前に霧島さんが悪質サークルから勧誘を受けているところを救っているんだ。彼はその日のうちに2度も霧島さんを助けているのですよ…」


 それを聞いて、その場にいた実行委員の面々が驚きを隠せないでいた。


 そして、荒巻の言葉を聞いた母親と陽葵以外の女性陣は完全に『終わった』ことを確信した。

 陽葵が2度も三上から救われたことで、将来的に結婚まで至ってもおかしくないインパクトであるのは確実だろうと思った。


 荒巻さんの言葉に守さんのお母さんが、すぐさま反応した。

「三上さん、凄すぎるわ!!。そんなことをされたら、女の子なら誰でも惚れてしまうし、三上さんにズッとついていこうと思うわ。わたしだって、亡くなっちゃったけど旦那にそんなことをされたら、尽くそうと思うもの。」


 あの時のことを思い出したのか、陽葵は恥じらうように顔が紅くなって、少しうつむいている。

 陽葵は、荒巻の言葉に反応することを、失恋した彼女達を更に傷つけてしまう恐れがあるから控えた。


 守と泰田の母親は、自分の子供が三上に少し興味がありそうな仕草が見られていたので、人生経験から自分の子供達が抱いた感情について薄々と分かっていた。


 2人の母親は微妙なお年頃だから黙って見守っていたのだが、守の母親の言葉は、自分の子供に対して「三上くんを諦めなさい」と、暗に促した側面もあった。


「もう、霧島さんったらぁ…、顔が紅くなっちゃって☆。わたしも三上くんのような人に2度も助けられちゃったら、もう、結婚まで考えてしまうわよ。」


 泰田の母親もそれは同様であったので、自分の子供の反応を見ていたが、その吹っ切れた様子をみて少し安心をしていた。しかし、他の子の目の色を見て、沈みかけているのが明らかに分かったので、少しばかり気持ちを切り替える為にも、この場から離れることを提案してみた。


「みんな、そろそろ三上さんも疲れているようだから、このままメンバーで何時のも場所で食事会でもやろうか。」


 泰田の母の提案に守の母も同じ事を考えていたので皆を促した。


「三上さんが少し元気そうだったから安心したわ。落ち着いたら霧島さんと一緒に練習に来てちょうだいね。みんなは一緒にこのままご飯に行きましょう。三上さんはお預けだけど、霧島さんがいるから大丈夫だもんねっ。幸せそうだから、こっちまでウズウズしちゃうわっ☆」


 その2人の言葉で実行委員チーム面々は重い腰を上げて動き出した。

 それぞれが三上にお見舞いの言葉を言うと、メンバーは談話室を後にして病院から外に出た。


 そして、実行委員チームの面々は、いつものビュッフェで食事となったが、三上がいないのでイマイチ盛り上がりに欠けるし、女性陣は失恋のショックがあるのか言葉が少ない上に、どこか余所余所しい感じが漂っていた。


 最初に男性陣の中で、その女性陣の違和感を感じ取ったのは仲村だった。

 彼はトイレに行くついでに、牧埜と天田にコッソリと話しかけて、周りに気付かれないようにボウリングに誘うと、守さんのお母さんに声をかけた。


「これから学部の仲間と用事があるので、牧埜と天田と一緒に先に失礼しますね。会計は泰田さんのお母さんに渡しておくので、お先に…」


 仲村のこの判断は非常に正しかった。


 泰田の母は、この食事会の後で、女性陣だけ場を移して話そうと思っていたので、その手間が省けたこのでホッとした反面、仲村が女性陣の違和感に気付いたことに少し複雑な気持ちを抱いていた。


 仲村は牧埜と天田を連れて店を出ると、2人にストレートに告げた。

「三上さんはモテるから辛いよな。霧島さんは可愛すぎるから、うちのチームの女性陣…、いや、ウチの学部の綺麗な女子学生と争っても勝てないだろうね。」


 その言葉に牧埜と天田がハッと気付いて、最初に口を開いたのは天田だった。

「仲村さん。明らかに女連中は三上さんに興味があった感じが実行委員のコンパから漂ってましたもんね。あんなに可愛くてシッカリした子が三上さんの彼女なら、完膚なきまでにダメでしょうから…。」


 そして、その天田の言葉に牧埜も続いた。

「三上くんと霧島さんは結婚まで行ってしまいそうな雰囲気ですよ。霧島さんは泰田さんや守さんと比べて相当に気遣いができそうな人でしょうし、2度も助けられてはインパクトが違いますし…。」


 その言葉を仲村がまとめた。

「そういうことだよ。三上さんの彼女さんは、世の男性がみればドキッとしてしまうぐらい可愛いすぎる。それに性格が凄く良いし、やっぱり三上さんたる由縁かな。それ相応の人だよね。」


 ◇


 一方でビュッフェに残った女性陣は泰田とその母親たち以外、悲痛な表情を浮かべていた。


 それを見て守の母が深く溜息をつくとストレートに告げた。


「ここにいる全員の女子の気持ちは分かっているわ。三上さんはね、本人は無自覚だけど相当にモテる人よ。だけど彼に非はないし、もちろん、霧島さんにも非はないわ。」


 守の母は自分の娘を見ると、その言葉で少し涙目になっている。


 泰田の母がその言葉を続けた。


「家に帰ったら少しだけ泣きなさい。それしかないわ。三上さんには相応しすぎるシッカリとした子が来たってことよ。もうコレは運命でしかないから諦めなさい。人生なんてそんなことの連続よ。彼女はホントに良い子よ。チームに来たら温かく迎えて欲しいわ。」


 その言葉に全員がうなずいて、泰田が笑みを浮かべながら答えた。


「お母さん達、分かっていたのね。霧島さんを見てホントに敵わないと思ったわ。それでいて、あの子を友人にしたいとも思ったの。だって、霧島さんはとても良い子よ。それとね…みんなが三上さんにアタックしなくて良かったと思っているの。三上さんは誰にも傷ついていないし、私達が勝手に想っていただけだから助かったのよ…。」


 その泰田の言葉に守の母が激しくうなずいた。


「世の中には逆らえない運命ってあるのよ。死んじゃったけど、うちの旦那を見つけるまでは、他の人に告白できなくて悔やんで、誰かにあっと言う間に取られて、告白したら振られて失恋して…なんてこともよくあったわ。でもね、そうしてる間に良い人が見つかるわよ。大丈夫よ。」


 その後、彼女達は家に帰ると、涙で枕を濡らしながら寝たという…。

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