~時が流れても変わらぬ仲間の絆3~ 実行委員チームのいま。

 2年の時の体育祭実行委員会の話を全て終えた次の日の早朝、俺と陽葵は恭治が行きたがっていたアスレチック場に行く準備をしていた。


 まだ、恭治や葵は起きていない。

 陽葵が昨夜の話を思い出して、出かける準備をしながら話を始めた。


「そういえば、その当時の泰田さんや松裡さんが、結婚した経緯なんて棚倉さんや新島さんは知る由もないのよね。だって、私達のほうが付き合いが深かったし。」


 陽葵は穏やかな表情を浮かべながら、俺との結婚前まで、ささやかな休日の夜に楽しい場を与えてくれたことを思い出していたようだ。


「宗崎や村上をバレーボールに誘ったのはね、うちが工学部で男所帯だから、彼女を作る機会を作らせてあげたかったんだ。お好み焼き屋に行ったときに、俺の仲間だから泰田さんや松裡さんは信用したんだろうね。」


 俺の言葉に陽葵は嬉しそうに笑う。

「ふふっ、あなたらしいわ。そういう優しさがあって、みんなが結婚できたのだから。」


「ああ…、宗崎が松裡さんと、村上が泰田さん、仲村さんが守さんと…だからなぁ。それに、牧埜が逢隈さんと、天田さんは山埼さんと…。人生はどうなるか分からないよ。」


 陽葵は右手の人差し指を俺の頬に少し当てながら、あの時のことを思い出していたようだ。


「わたしは、あのバレーボールで救われたのよ。あなたが卒業して結婚するまで休日の夜になると、何時もと変わらずに、わたしはバレーボールをしてたでしょ?。あの時はみんなが、わたしの寂しさを慰めてくれて心強かったの。」


「その時期だったかな。たまに陽葵の家に泊まって、あの体育館で一緒にバレーボールをしたときは、みんな本当に嬉しそうだったもんな。その後もお盆や連休で陽葵の実家に行ったときに、よくやったけど、今は子供もできて、なかなか難しくなったからな。」


 俺はあの時の事を思い出して、また彼らと、子供達も交えてバレーボールができないか探っていた。今でも彼らは休日になると、あの体育館を借りてバレーボールをやってるらしい。


「そうね…機会があれば、また一緒にやりたいわ。いまは葵がいるけど、子供好きの泰田さん…いや、村上さんの奥さんが葵を喜んで見るわよね…。」


「今はSNSで宗崎や村上も両夫婦ともに繋がっているし、牧埜の夫婦も天田さんの夫婦とも繋がってる。新島先輩や棚倉先輩は結婚した経緯もSNSのアカウントも知らないままだからな。本当に運命って分からないよね。それなら良二も無理矢理にバレーボールに誘っておくべきだったと。」


 俺の言葉を聞いて陽葵は少し心配そうにしている。


 宗崎や村上、良二も含めて俺の親友だったから、陽葵も深く関わりがあった。

「そうよね、本橋さん…。どうしたのかしらね…」


「俺たちが結婚してから、しばらくして、良二が実質上、会社から左遷させられて九州に飛ばされた後に音沙汰が途絶えたからな。誰かと結婚して上手くやってると勝手に思ってる。」


 陽葵は恭介を見て、本橋に関して切ない思いをこれ以上させたくなくて、咄嗟に話題を変えた。

「話を戻すけど、結婚前に松裡さんが私に暴露してくれた協定の話があったでしょ?。あれは本当に運命の悪戯だったのよ。」


「まあ、今になって知った俺はとても複雑だよ。」


 俺の困ったような顔に陽葵は悪戯っぽい笑顔を浮かべて頭を軽くポンと叩かれた。

「ふふっ。あなたは、あの見かけでも性格の良さからモテてしまうのよ。わたしは時々、ヒヤッとしたわ。でも、あなたが、今でもわたしにだけ夢中だから幸せだわ…。」


「当たり前じゃないか。あの時、体を張って守った可愛くて俺に一途な女の子だよ。陽葵が可愛すぎてベタ惚れにきまってるだろ?」


 陽葵は俺の言葉を聞いて顔を真っ赤にした。


『やっぱり陽葵は可愛い。』


 ◇


 恭治がやりたがっていたアスレチック場に行った帰りに、俺たち家族は陽葵の実家に泊まった。

 急に陽葵の親から孫の顔が見たいとスマホに電話があったのだ。


 特に義父は入退院を繰り返していたから、できる限り孫の顔を見せてやりたかったし、陽葵もそれは同じだった。


 それで急に陽葵の家に行けることになった旨を、泰田(村上)さんや守(仲村)さんとSNSで連絡を取り合って、あの体育館に恭治と葵も連れて行って、急遽、バレーボールをやる時間を作ったのだ。


 彼らと数年ぶりに例の体育館で会ったとき、泰田(村上)さんは葵を見た瞬間に喜んだ。

「うわぁ…葵ちゃん可愛すぎる~~~。もぉ…陽葵ちゃんに似て可愛すぎる~~☆、」


「おいおい、結菜。三上と挨拶もせずにソレはないだろ…」

 村上が苦笑いをしている。


 俺は村上と握手をしながら言葉をかけた。

「いいんだよ、気心の知れた仲だからさ、改まる必要もないさ。忙しくて、なかなか時間が作れなくてね。時間を作ってくれて済まないと思っている。」


 仲村さんが俺の両肩をポンと軽く叩いて懐かしさを爆発させていた。


「いや、三上さん。こうやって会えるだけで幸せだよ。だって、三上さんは私達の繋ぎ役だったじゃないか。三上さんが陽葵さんと付き合わなかったら、俺も和奏と結婚できなかったし。今回、牧埜の都合がつかなくて…。どうしても教師なので部活が絡むとね…。天田なんか夫婦で教師なんだよ。3人とも悔しがっていたけど。」


 逢隈(牧埜)さんがニッコリと笑って俺たちを見た。

「ふふっ、でも、わたしは来ちゃった。三上さん。わたしの旦那と天田さん夫婦の分まで、下手だけど、しっかりお相手するからね。それと…三上さんのお子さん、大きくなったなぁ…なんて思っていたら、可愛い女の子まで連れてきちゃって。うちは子供が大きいから家にいて、友達とお泊まり会とか言ってるわ。」


 陽葵は逢隈(牧埜)さんと仲良しだったので思い入れがもの凄く深かった。

「逢隈さん、久しぶりすぎて涙が出そうだわ。ここまで恭介さんの縁で繋がるとは思わなかったから…」


 彼女達の話を聞いていたら、宗崎から声をかけられた。

「三上。お前は老けないなぁ。SNSで見てたけど、ご両親が亡くなったときに本当に大変そうだったもんな。うちの莉子と一緒にSNSの書き込みを見ていて、壮絶すぎて声のかけようもなかったよ。」


「宗崎。あの投稿を見て、それで今後の参考にしてくれたら良いよ。ただ、あの時は陽葵がいなかったら絶対にぶっ倒れていたか精神崩壊をしていたかもしれない。」


 俺は真顔になって宗崎に話すと松裡(宗崎)さんが深刻そうな表情で問いかけた。

「三上さん。あのようになったら、なす術ってあるの?」


「あれはね、無理をせずに、なすがままで耐えるしかない。もうね、起こった出来事に身も心も抵抗しちゃうと心が折られる。だからできる限り1人でやろうとせずに、相手に嫌な顔をされても良いから誰かにまずは話して心を落ち着かせる。それが一番かな。」


 宗崎夫婦はその答えを意外に思ったらしい。

 そして宗崎が恐る恐る俺に質問した。

「なんかお前らしくない気もするけど、無駄な抵抗をすると疲れるってことか?」


 俺は静かにうなずいた。

「実際に同じ境遇にならないと分からないと思うけど、末期癌でも、今は分子標的や免疫チェックポイントの類いが昔よりも進んだとはいえども、進行が早ければ徐々に悪くなっていくからね。もうさ、一喜一憂して最後には、余命宣告を受けて呆然と立ち尽くす感じだよ。」


 宗崎夫婦は顔を見合わせて黙ったままだ。

 だから、このまま結論だけ言うことにした。


「早い話、なるようにしかならないから、あまり頑張りすぎずに、逃げられるところは真っ向正面から立ち向かわずに、迷わず逃げる選択肢も考えることだよ。これには正解がないから、あまり迷うと自分を見失うんだ…。」


 そんな話をしていると、体育館でネットを張る準備も終わって、さっそく体を動かし始めた。

 泰田(村上)さんは、ボールがこないような体育館の隅の方で葵と恭治と一緒に遊んでいる感じだ。


 恭治は、小さい時から練習中に泰田(村上)さんと遊び相手になっていたから、顔見知りでもあったし話しかけやすい側面もあって、彼女は葵と遊びながら、学校のことや習いごとや家族の話なども聞いているようだ。


 陽葵は逢隈(牧埜)さんと一緒に互いにトスやレシーブをしているし、他のメンバーも各々が練習をしている感じだ。


 俺はそれを横目にして、守(仲村)さんと軽くトスの練習を始めた。

 長い間やってないから、かなり鈍っていた。


「やっぱり俺も歳だよね。若い時のようにはいかないねぇ…」


 彼女は俺の言葉を聞いて苦笑いをしていた。

「三上さんが最初に入ってきた時に、うちのお母さんに言ったような台詞を繰り返さないで下さいねっ!。こんなにブランクがあっても、この歳なのに、きちんとトスが返せるのが不思議ですからっ!」


 そして、彼女は自分の母親が何時しかやっていたように、俺に向かって軽くボールを打ち始めた。

 流石に歳のせいで体幹も狂っているのか、手元が狂ってボールが少しそれるが、まだ、守さんの打てる範囲内らしく、打ったボールが俺の手元にキチンと返る。


「いやぁ、昔はもっと正確にレシーブできたけどなぁ…。やってないと、こんなモンだよ。」


 彼女はニッコリと笑うと、ボールを打ち返しながら言い返した。

「三上さん、ご謙遜はナシですよ。もうね、あなたが上手いことなんて、みんなが分かっているし、わたしも手抜きできないのよっ☆」


 そう言うと、守(仲村)さんは少し離れて、あの時、自分の母親がやっていたことを、そのままそっくりやった。


 バシンッ!!!!

 彼女の打ったボールは、あのとき、彼女の母親が思いっきり打ったボールと同じぐらいの強さがあった。

 それを俺は、必死にレシーブをして彼女の正面に返していく…。


「三上さん、腕が鈍っているなんて嘘ですよ。もうね、今からでも試合に出られるぐらい上手になのは相変わらずなんですからっ☆。」


 彼女はそう言って笑顔を絶やさなかった。

 そんな感じで2時間ぐらい各々が練習をした後に、お約束のファミレスで食事会になった。

 

 泰田(村上)さんは、相変わらず葵や恭治たちと遊んでいる。

 小さい子供がいる家庭で、泰田さんように幼児と構ってくれるような人がいると、ほんとうに助かる。

 

 彼女はウチの子供達と遊びながら、俺に声をかけられた。


「三上さん、さっき恭治くんから聞いたけど、次の休みにお父さんが大学の友人達と近くの温泉旅館に泊まるなんて聞いたから、たぶん棚倉さんや新島くんなのかなぁ…、なんて思って。」


 彼女の質問に俺が答える前に、隣に座っていた陽葵が答えた。

「泰田さん、そうなのよ。それで、この前のDMのことだけど、このさい、みんなで一緒に集まってしまったほうが、私たちも楽だと思ってね。うちの体育館は夏場でも、お金を少し出せば冷房も効かせてくれるから…」


 その陽葵の言葉に全員が耳を傾けた。

 そして、まだ計画中の大規模な同窓会の詳細について、俺が陽葵に代わって話し始めた…。


 まずは、温泉旅館に家族ごと泊まれるような形にしていあること、基本は1泊だが、希望者は連泊できるようにしていることや、宿泊後の翌日からは自由行動だが、俺の家に押しかけても収容人数が限られているから無理なことなど…。


 水族館や魚市場などに行きたい人は、旅館からマイクロバスなどが出る話や、うちの市民体育館で練習もできる事なども話した。


 その聞き終わると、代表して宗崎が口を開いた。

「そういう発想って、お前は昔から変わらないよね。お前の家は学生時代以来だけどさ、あそこは観光地として最良だから確かにアリだよなぁ…」


 宗崎の言葉にうなずくと、俺は計画中であることを強調した。

「みんなの都合があるし、まだ詳しい内容も、参加人数も分からない状態だから、計画中の話だからね。細かいことは変更になる可能性が高いけどね…」


 皆は、その話を聞いて、『これは行かねば…』という雰囲気になっていた…。


 逢隈(牧埜)さんが、ドリンクバーのハーブティーを飲みながらニッコリと笑った。

「三上さん、それは絶対にみんな予定をあけて行くわ。詳しい日時が決まったらSNSのダイレクトメールで構わないから連絡を下さいね。子供が大きいからウチは放っておいて、旦那と一緒に1泊以上するわよ。」


 彼女の話を聞いて俺は考え込んだ。

『早いところ人数を決めて具体的な計画を立てないとマズいなぁ…』


 俺は隣に座った陽葵と顔を見合わせると、俺と陽葵が同時にうなずいた。


 それを見ていた松裡(宗崎)さんが呟いた。

「やっぱり三上さん夫婦には勝てないわ。もうこれだけで2人は通じ合えてしまうんだもん…」


 そして、その場にいる全員から微笑みにもにたクスッとした笑いが起こった…。

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